青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 すると、黒崎のスマホにラインの着信が鳴った。聖河さんだろうか。今日は予定通りに家を出て、法事に参加すると言っていた。さっそく黒崎がラインを開くと、沙耶さんからだった。それは黒崎に会いたいという内容だった。

「そうか。今から電話を掛ける。夏樹、いいだろう?飯の途中だが……」
「もちろんいいよ。電話してよ」

 俺はダイニングテーブルの椅子に座った。沙耶さんは二葉の弁護士も担当してくれている。逮捕された友達の件で弁護士が必要だったからだ。その話だろう。今日は法事だから夕方まで連絡は付かないと思い、今話したいという事だろう。

 俺が黒崎のことを静かに見守っていると、彼が電話をかけ始めた。そして、二葉のことではないと俺に教えてくれた。では、誰のことだろうか。俺はまた静かに黒崎のことを見守った。

「沙耶、俺も宮川篤志みやがわあつしのことは覚えている。竹中さんにボールをぶつけて謝らなかったやつだろう?体に何かあったから訴訟になったのか?……娘がなのか。相手は竹中さんの娘さんなのか?そうか、違うのか。でも、竹中さんの娘さんの親友なのか。それで、昔、宮川のことで覚えていることがあると言って、許さないと言っているのか。それで、宮川が俺に仲裁してくれというのか。俺は断る。俺は竹中さんとは仲が良かった。お前もそうだろう。俺は竹中さんの娘さんの親友の方を弁護する方が良いと思うぞ。宮川に恨まれたからと言って……」

 黒崎の話が続いている。どうやら沙耶さんに弁護の依頼をしてきたのは、中学時代の同級生らしい。その娘さん達に何か起きたということだ。そして、宮川篤志さんという人が黒崎に仲裁を求めていることも分かった。

 黒崎の話は短い時間で終わり、電話を切ると、お茶を飲み始めた。眉間に皺を寄せるまではいかないが、渋い顔をしている。そこで、俺はお茶のおかわりを注いであげた。

「どうしたの?」
「俺の中学と高校の同級生に、宮川篤志という男性と、田川真利奈たがわまりなという女性がいる。旧姓は竹中さんという。当時中学1年生の時に、宮川が友達の男子生徒と教室内でボール遊びを始めた。宮川が苛立っていたようで、かなり強い力でボールを床に打ち付けるようにして、女子生徒が怖がっていた。そこで、小学校からの同級生の竹中さんが宮川のことを止めた。宮川達はボール遊びをやめた。その後、席に戻って椅子に座って背を向けている竹中さんの頭にめがけてボールをぶつけて、竹中さんは脳しんとうを起こしたようで、一瞬、倒れた。しかし、すぐにまた起き上がって、彼女は一人で保健室に行った。その時は俺も沙耶も見ていなくて、何が起きたのか分からなかった。同じクラスの奴から話を聞いて知ったことだ。怜は職員室に行っていた。竹中さんは担任の教師からも話を聞かれず、保健室に行った後でも病院に連れて行かれることが無く、いつの通りに放課後を迎えて家に帰った。そこで、お母さんに話をして、宮川のことを話して、訴えると言ったんだ。学校のこともな。そこで、お母さんが担任教師に電話を掛けて、宮川の母親と担任教師、竹中さんのお母さんとの話し合いが行われた。宮川は、たまたま当たっただけだと言ったそうだ。母親もそう言っていた。それに、うちは治療費を支払わないと言ってきたそうだ。竹中さんのお母さんは、宮川の家がひとり親の家庭だと担任教師から聞いて、かつ、真利奈さん方は両親が揃っていますからということで、担任教師が、今回のことは何も起きなかったことにしましょうと言ったそうだ。そして、宮川さんの家庭事情に同情したお母さんが、そうしようと竹中さんに言ったそうだ」
「なんだよ、それ。宮川さんは竹中さんに謝ったの?たまたま当たっただけだといっても、ぶつかったという事実があるんだから、謝らないといけないよ」
「そうだな。謝っていないという記憶だ。余談だが、これが沙耶が弁護士をめざすきっかけの一つになった事件だった。俺達は偶然にも高校も同じで、竹中さんは脳しんとうの後で視力が落ちて、高校の時には眼鏡を掛けていた。宮川は鼻で笑っていた。そして、今回、事件が起きた。宮川の小学3年生の息子が教室で突然、暴れ始めた。双子の姉が隣のクラスにいるそうだ。姉が止めても止まらなかったそうだ。そこで、息子が家から持ってきた工具の金槌を振り回し始めたら、女子生徒の身体をかすめて、机に置いてあったランドセルに付けてあった防犯ブザーに当たって傷ついたそうだ。怪我はしていない。その子が竹中さんの娘さんの親友の子だ。偶然にも、宮川の息子と竹中さんの娘さんが同じクラスなんだそうだ。しかも、この都内でな。息子が暴れた理由はまだ分からないそうだ。しかし、病院に通院させることになりそうだということだ」

 それで黒崎に仲裁を求めてきたというのは、どういうことだろうか。宮川さんは黒崎の知り合いの中では名前を知らない。沙耶さん経由で連絡が入ったことからも、黒崎の連絡先を知らないのだろう。
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