青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 これはなんと恥ずかしいことだろうか。俺と母は顔が赤くなり、この場から伊吹を連れて帰りたくなった。しかし、そういうわけにはいかない。そこで、晴海さんの方から、みんな揃ったようだから挨拶すると言い、立ち上がった。

 それにはみんながしんと静まりかえった。当主は席を立たないのが習慣だ。しかし、一昨年の法事では黒崎が次期当主として挨拶をするというので席を立ったのだが、今年は席を立たなくても良いだろう。これからは偉そうにしていれば良いと思う。しかし、晴海さんは自然な振る舞いでそうした。

「みなさん、俺が立っているのがおかしいんですか?今年は立つことにしました。来年からは座ったままにします。今日は皆さん、ありがとうございました。今日の精進料理は、これまで料理人を務めていた柳瀬さんが引退されて、副料理長が料理長に就任し、用意された物です。特にお勧めなのはお麩の煮込みです。お麩は……店から仕入れた物だということです。それから、今日は中山さんのお宅から、夏樹君のお母さんとお兄さんが参加して下さっています。お母さんは今日の夕方の飛行機で帰られるということですので、お話ししたい方は急いでどうぞ。お兄さんは都内に住んでいますし、テレビ番組に良く出ていますから、ご覧になった方は多いでしょう。たくさん話題がありそうですから、お話しになられたい方は、こちらの席を譲りますので、隣に来て良いですよ」

 そう言って、晴海さんが自分の席を指さした。伊吹の隣だからだ。いつの間にか伊吹が晴海さんの隣を独占していたのだと気がつき、顔が熱くなった。お近づきになりたいという意志だ。本当に伊吹はずうずうしい。頭も痛くなってきそうだ。

 そんな伊吹と晴海さんの言葉に親戚から笑い声が立ち、ここで良いですよと、聖河さんが言ったことで、みんなが頷いた。そして、晴海さんが席に座り、それぞれが料理を食べ始めた。

 法事ではお酒が出ない。去年まではお坊さんも一緒に食事をして貰っていたが、今年から取りやめることになった。親戚同士のギスギスした雰囲気の中で過ごして貰うのは悪いと思っていたからだ。しかし、今年はそうでもなさそうで、それぞれに笑顔がある。

 やっぱり当主選びは、長男であるお義父さんの息子の中で一番年上である晴海さんが選ばれることが自然なのだと思った。一昨年黒崎が挨拶をしたときは、この場が凍り付いたようになっていた。それは黒崎の当時の雰囲気もあったと思う。

 黒崎が黒崎製菓の副社長に就任し、マイルドになっていた雰囲気がさらに優しくなり、顔つきも変わった。例え今は家の中のように偉そうにふんぞり返って食事をしていても、優しさを隠すことは出来ない。

「ねえ、黒崎さん。今日も偉そうなあんたを見ているんだけど、小さい頃から偉そうだったのかよ?」
「俺は変わらないそうだ。親父、晴海兄さん。そうなんだろう?」
「ああ、圭一は変わらない。晴海、そうだろう?」
「俺もそう思う。6歳の子が静まりかえった場で美味しそうに食べて、お腹が張ったと言って、ふんぞり返っていたんだ。そうだよな、片付けはお手伝いさんがしてくれていたんだ。俺の場合は拓海兄さんと同じように、自分が使った食器はキッチンに持っていったけどな。しかし、圭一の場合はそれをしていない。お父さん、どうしてなんだ?」
「その話、聞きたかったんだ~」

 晴海さん達のお手伝いエピソードを聞いたときに、黒崎のことで疑問があった。その理由を聞こうとしたときに晴海さんが帰らないといけない時間になり、話はまた今度となっていた。そこで、俺達はお義父さんに注目した。

「圭一に食器を下げさせる手伝いをさせなかったのは、遠慮がちだったからだ。恐る恐る私の前で食事をするものだから、もっと偉そうにしなさいと注意した。少しぐらい汁物をこぼしても良いから、慣れない椅子とテーブルだが、思い切り食べろと言ったことがある。そしたら、この通りになった」
「うひゃひゃひゃ。それでなのか~」

 お義父さんの話しに納得した。周りからの笑い声もある。そんな中、黒崎がふんぞり返って、叔父さん達を眺め始めた。そして、へえーーーと言い出した。俺のことを笑うのかと言いながら。それにはまた笑いが起きて、和やかな食事が出来た。
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