青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 すると、門のセキュリティーに反応があった。二葉が帰ってきたのだろう。かつてアレクシスが庭の一人部屋に居たときのような警戒音は鳴らないが、住人の顔認識をするカメラがその音の変わりをしている。しかし、大きな音は鳴らない。ということは二葉だ。荷物があるだろう。取りに行ってやりたい。

 そこで、俺は夏樹達に声を掛けて、椅子から立ち上がった。アンが俺のことを追いかけてきた。ほんの数時間前は戻らせてあったが、今回もそうすると拗ねそうだ。アンは言葉を良く理解し、夏樹のそばに居ろと言えば、きちんとそうすることができる。

「アン、今回は来い」
「ワン!」

 アンが嬉しそうに尻尾を立てた。そして、夏樹の方を振り向き、行ってもいいか?という仕草を見せた。そこで、夏樹がいいよと言うと、アンが俺の方を向いて、先に門へと歩き出した。

「誰が帰ってきたと思う?分かるか?」
「?」
「二葉だ。今日は居ないな。お前にビーフジャーキー買ってきてくれてある。ご当地ビーフジャーキーだ。ワンワン牧場オリジナル商品だ。空港で売っていたそうだ」
「ワン!」
「そうか。嬉しいか。もう匂いがするのか?二葉とビーフジャーキー、どっちの匂いだ?」
「?」

 ふと、アンが立ち止まった。俺のスマホに着信が鳴ったからだ。画面には烏丸真琴と出ている。毎週土曜日か日曜日のこの時間に掛かってくるようになった。今日の話題は何だろうか。パーティーの誘いだろうか。事務所の所属モデルが大きなショーに出た後、そのブランドが主催のパーティーがあるそうだ。案内状が俺にも届いていたが、出席の返事は出していない。差出人は大木さんだった。

「アン、行っていいぞ。ああ、一緒に行こう。歩きスマホだ。夏樹には内緒だ」
「……」

 アンが俺の足下に来た。このままゆっくりと歩いて行くことにしよう。そして、電話に出た。最初の母からの第一声は、忙しいのねという言葉だった。出るのが遅かったからだろう。

「もしもし。そうでもない。うちの会社の南波が来ていて、庭から生放送中だ。今、二葉が帰ってきたと思うから、門まで迎えに行っているところだ」
「あら、早いのね。たしか、夕方頃になるんじゃ無かったかしら?」
「その通りだ。志乃さんがスイスに発つ前に、実家に帰ってこいとお母さんから連絡が入ったそうだ。“今日の午前中からお父さんが居ないから”という理由で、旅行の予定を早めて帰っていった」
「なにそれ。お父さんがいないからって……。お母さんから何を言われるのかしら……」
「あんたの予知が当たったから驚いている。遺産相続の争いだ。志乃さんに譲られるというおばあさん名義の土地と家を、お兄ちゃんに譲ってくれという話がされたそうだ」
「あら……。おばあちゃんは何も思っていないみたいよ。向こうに行くのは3年間の予定で、また日本に戻ってくるんだし。電話だってあるのよ。いつでも話せるわ」
「すごい剣幕だったらしい。同じ部屋に居た二葉が聞こえたそうだ」

 はあ。自然とため息が出た。ほんの2週間前のこの時間に母と電話で話した時に、母が二葉にある転機があると言っていた。それは志乃が関係しているという。その直後に志乃がスイスでの仕事が決まり、急いで準備がされている。二葉の転機と聞いていたから、一緒に行くと言い出すのかと思っていたが、そんなことは言い出さずに、大人しくしていると言ってくれて、ホッとしているところだ。

 父は二葉のことをバーテルス家に預けようかとも思ったそうだ。ドイツとスイスなら、一時間半で行き来できるからだ。エミリアもうちに来ないかと言ってくれた。しかし、本人としては日本の大学をきちんと卒業し、その後で進路を考えると言っていた。父からすると二葉は可愛いようで、好きなようにしてくれて良いんだよと言っていた。俺の進路を決めたときとは大違いだ。
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