青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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14-20(黒崎視点)

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 午前11時半。

 黒崎家の庭では、一台のスマホカメラが回っている。南波が撮影中だからだ。池の噴水をバックにして、折りたたみ椅子に座り、キャンプ用品のテーブルにスマホを立てて喋っている姿を眺めた。

 この撮影は1時間前から始まった。生放送中だ。視聴者は550人居る。午後から久弥の登場ということで、一時期は10000人近くが視聴していた。しかし、南波の方から、お昼を過ぎてからだよと具体的な時間を伝えたことで、また来ますというコメントが流れて、今の人数に落ち着いた。

 南波の隣に座っているのはアレクシスだ。ユーリーは夏樹の隣に座り、南波とは離れている。その原因は二葉だ。彼女がもうすぐで帰り着くという連絡を俺にして来たからそれをみんなに伝えると、ユーリーが電話に出た。志乃さんはどうなのかと聞きたかったためだ。その電話に出るときに、南波にまとわりついていたのに、ぽんと手を離して電話に出たから、南波が拗ねてしまった。そういうわけもあって、ユーリーはまた南波に近づけなくなった。

 12月の放送後、二葉には黒崎製菓内で新しい仲間ができた。その中には南波いる。だから、電話の時は二葉に嫉妬したわけでは無く、こうやってユーリーが手を離すんだろうと言って、未来が分かるんだと言っていた。それには俺は吹き出して笑った。その通りだと思えたからだ。

 二葉は志乃が実家への飛行機に乗り込む時間までそばについていた。そして、今から40分前に今から空港を出るという連絡が入ったわけだ。電車を使うと言っていたが、俺の判断で、タクシーで戻らせることにした。二葉の気の動転ぶりが心配になったからだ。志乃のことを心配してのことだ。本当なら実家へついて行きたかったが、志乃が先に帰っていろというから、彼女の言うことを聞いて、帰ってくる途中だ。

 遺産相続の争い。25歳という若さでそんなことに直面した志乃は大丈夫だろうか。誰も亡くなったわけではない。スイスの大学に講師として招かれて、学者としての道を歩み始めたという転機だ。それは家族で祝うべき物だろうに、志乃の場合はそうならなかった。

 さっきの二葉からの電話によると、志乃が母親から呼び出されたというのは間違いないということだった。今朝、志乃に母親からまた電話が入っていたそうだ。必ず帰ってくるようにと言う念押しの電話だったそうだ。

 そんなまでして何が言いたいのか。そして、一体何を話すつもりなのかと志乃が母親に聞くと、今住んでいるこの家の名義のことで話し合いたいと言ったそうだ。志乃の方から父親と祖母に電話を掛けると、“お母さんがそんなことを言っているの?知らなかった”と言っていたそうだ。そのことからも、母親だけの判断で帰らせたということになる。そして、相続の話は出ていないということにもなるだろう。

(志乃さんに贈与を断らせるつもりなのか……)

 志乃の母親は自分の息子に相続させたいらしい。二葉からの話によると、そういうことだ。しかし、北岡家とは養子縁組すらしていない。母親は自分の実家はかつては侍がいたのだということを誇りにして、北岡家はそうではないから格が違うと言った自分の母の事を諫めることが無く、志乃には関わらせず、息子には頻繁に遊びに行かせたという経歴がある人だ。どうしてそんなに娘のことを疎んじるのか。嫌なら、北岡さんと結婚しなかったら良かっただろう。そもそも、子供を作らなければいいし、付き合いすらしなければよかったのに。

 その判断が出来ない志乃の母親は、一般的に変わった人ということなのだろう。変わっていると言えば俺の母親も相当に“変な人”だから、人のことは言えない。しかし、遺産相続の争いを起こしたことはない。倉口の方から家を買い取れと二葉に言ってきたときも、母は呆れていた。だから、そういう面では普通の人だ。しかし、俺の母親以上に変な人が居るとは思わなかった。こんなに身近な存在の中でだ。

(北岡家の土地と家をお兄ちゃんに譲って頂戴か……)

 志乃の母親の言いようには疑問が浮かぶ。息子は自分の実家の叔母さんの養子なのでは無かったのか。恐らく素行が悪いということで、叔母さんの家を譲られる話が出ないということで、志乃に譲らせるという発想は正しいとは言えない。それなら、息子に言い聞かせて、素行を直させるべきだ。志乃が巻き込まれる理由はない。
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