青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 俺はその人と今、一緒に居るわけだが、彼女の名前を聞いても動じていない。もう解決したことだということだ。俺がテレビに出るようになり、黒崎というパートナーがいることを知った彼の元デート相手が何も反応が無かったとは思っていない。都内のデパートでバッタリ会うと、必ず相手は嫌みを言ってきていたからだ。そんな付き合い方をしていたということだ。

 俺がデビューした後、仕事には何も影響が起きなかった。何かありそうだと思ったのは、テレビに出た後だった。その時は黒崎は何も無いと言っていた。俺は久弥という人に守られていて、お前には誰も近づけないのだと言っていた。

 今だって俺は久弥に守られている。今の仕事だって、久弥の名前がなかったら来ていないと思っている。久弥は俺達によくこんなことを言っていた。“俺の七光りで輝いているお前達には、IKUの廊下の真ん中を歩いて欲しい”のだと。本気の発言だと思ったから笑った。その七光りは今も続いていて、バンドという船に乗っている。

 しかし、俺には変化が起きた。黒崎夏樹としての仕事が多く入り始めたからだ。歌手の仕事だけでは無く、ナレーションの仕事が多かった。それから、テレビのグルメ情報番組にも呼ばれるようになった。辛い物が苦手な俺がインド料理のカレーを食べて、リアクションを起こさないといけないという仕事だ。

 初めは自分には務まらないと思っていた。俺はそんなにリアクションがあるわけではないし、話術だって大したことは無い。しかし、収録をしてみると、番組プロデューサーの希望通りのリアクションが撮れたということで、何度も呼ばれるようになった。

 リアクションといえば、悠人だ。彼の方がよっぽどテレビ向きだと思ったのに、悠人にはその仕事が入らない。楽曲の作曲とアレンジで忙しくしており、ギターの練習もある。しかし、ステージではお笑い担当になっている。だから、悠人のお喋りが聞きたい人はコンサートに来るしかない。俺の方なら、テレビによく出させて貰っているから、わざわざコンサートを観に来なくても良い。そう考えると、次のバンドがどうなるかと、暗い気持ちになった。

「うっうっ。俺なんて、辛いよーーーって言うだけだもん。つまらない男だって思われているんだと思うんだ」
「夏樹君。どうしたの?」
「南波さん!こういう悩みが出てきたんだ」

 俺は寄り添ってくれた南波さんに、今思い浮かんだことを打ち明けた。すると、黒崎と話をしていた遠藤さんが笑い出した。今のままでいいのにと言ってくれた。

「そうかな?悠人とは反対だよ。悠人の方がリアクションがあるし、喋ると面白いのに、テレビのグルメ情報番組の仕事が入らないんだ」
「それはイメージ作りのためだ。そう言っておく」
「ええ~~。なんだよ~~~。これでも俺は真面目にカメラに向かって喋っているのに~~」
「はははは!」

 バシ!遠藤さんが俺の肩を叩いた。そして、あることを教えてくれた。ある通販番組に出てみないかという話だ。それは人気番組であり、タレントが自分のお気に入りだということで、色んなメーカーの商品を紹介している内容だ。週末ドキワクウォッチングという名前だ。それは実家の母が観ている番組だ。たしか、その番組に紹介されていたBBクリームを買ったはずだ。

「うちのお母さんが観ている番組だよ」
「そうだろう。聞いたことがあった。だから、君にその番組に出てみたらどうかと思ってね。調理器具のバンバンミックスと、日焼け止めクリームのランクールを紹介すると良い。企業からサンプルと新製品の案内状が届いていた。通販番組で取り扱うことはOKされている」
「へえーー。その二つなら、ずっと使っている商品だから、説明がしやすいよ。あ……」
「決まりだな。多々良君に言っておく。はははは!」

 バシ!また遠藤さんから肩を叩かれた。ここにはみかんを持って来ただけだということで、家に帰るのだという。アレクシスさんと話さなくても良いのだろうか。それを聞いてみると、また後で来るということだった。猫のフリージアとリリーが僕のことを探すから、早く家に帰らないといけないと言っていた。リクだって待っているのだろう。その後ろ姿を見送り、手を振った。

 すると今度は安斎さんが訪ねてきて、金柑のジャムを差し入れしてくれて、昼ご飯はトーストにしたいと思って、ほくほくした気持ちでキッチンに持って行った。
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