青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
508 / 938

15-6

しおりを挟む
 中山重明。それが祖父の名前だ。年は今年で86歳だ。お義父さんよりも年上で、こんな日がこないとは思っていなかった。最後のお別れ。そんな言葉が頭をよぎった。しかし、長生きする人は100歳まで生きるから、まだまだ元気だと思っていた。

「黒崎さん。お父さんと電話をかわって」
「ああ。……夏樹に代わります」
「もしもし。お父さん……」

 もしもし。そう呼びかけたとき、祖父母との思い出が蘇った。幼いときの俺が母が祖父と電話で話しているのを代わって貰いたがり、やっと代わって貰った後、もしもしと、祖父に呼びかけていた。俺が祖すると、祖父が、もしもし、おじいちゃんだよと、優しい声を掛けられたことを覚えている。それがだんだんとそうでは無いと思うようになったのは、いつのことだっただろうか。

 当時、少し舌っ足らずなしゃべり方をする俺のことを叱るようにして、もっときちんと話しなさいと言われたことがある。俺が気を付けて話をするようにすると、それでいいと、冷たく笑われた記憶がある。呆れた子だという感じだった。

 祖父と年の近いお義父さんだったら、そんな態度では無いと思う。もっと優しい言い方をしたと思う。子供に対しては優しいことは知っている。晴海さんと黒崎はそうでは無いと言いそうだが、俺はそう思っている。

 母方の祖父は優しい人だ。もしもしと舌っ足らずなしゃべり方をしても、叱られたことはない。もしもしと、優しい声で話しかけてくれた。万理に起きた事件の後は、うちに来ないかとも言ってくれた。しかし、父方の祖父母はそんなことはなくて、恥ずかしいとか、母親がもっとしっかりしないといけないとか言われてしまった。

 俺が中学時代に荒れたときを祖父母は知らないだろう。会っていないからだ。引っ越しをして、少し遠くになってしまった。その時は聡太郎もおばあさんの家に引っ越す予定があり、近所になりたいということで、おばあさんの向かいの家に引っ越した。それが今の家だ。その家は今日引っ越しになり、同じ市内の家に住み始める。その家は賃貸であり、騒動が落ち着いた頃に戻るか、また家を探すかと父が言っていた。

 どうして家を引っ越したかというと、まずは二葉の元友達が起こした事件がきっかけだった。TDDには何もなかったが、中山家の電話には、殺害予告のようなメッセージが留守電に吹き込まれていた。それは二葉の元友達の関連だった。彼女たちには執行猶予付きの実刑の判決が下りて、自暴自棄になった子達の報復を恐れての引っ越しだ。同じ地元にいるのは俺達の実家の家族しかいないからだ。

 それと、伊吹のメディア露出と俺の音楽の仕事のこともある。俺達の実家がどこにあるのかは知られていて、俺の中学時代の喧嘩相手が近所をうろついたり、家の写真を撮ったりされたことがある。伊吹の方でもおかしなことがあった。そういうわけもあって、引っ越しを考えた。

 こんな時に力になってくれたのは、母方の祖父母だった。すごく田舎だけど、うちの向かいの家が空き家だよと言ってくれた。昨日だって電話を掛けてきてくれた。大学卒業おめでとうという言葉と共に。

 母は祖父母とは付き合いをしている。電話で俺の仕事の報告をしたり、季節ごとにお菓子を贈り合うこともあった。俺がデビューするときに日本舞踊の稽古をしたのだが、その稽古着は祖母が使っていた物だった。母が習おうとして祖母から譲られた物を俺に贈ってくれた。

 大嫌いな祖母だったが、まるで一緒に頑張って稽古をしている気分になった。だから、随分と勇気づけられたと思う。今の俺だったら祖母の物は使わないと言い切りそうだが、当時の俺は不思議と拒否しなく無くて、使った。

 万理も祖父母とは会っていない。母の方からは教員になるということは聞いているだろう。昔、彼らが俺達に望んだ職業だ。人の役に立つ人になれという家訓のようなものだ。そういう立派なことを言う人が母に意地悪なことをしてきた。何でも口だけという人の例を幼いときから見ている俺だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

処理中です...