青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 食事を終えて外に出ると、桜の花びらが飛んできて、顔についた。ノアの頭にも付いている。この時間になって風が出てきたようだ。時間は昼過ぎだ。昼ご飯を食べに来ている生徒達が学食の方を向いて歩いて行く姿を眺めた。すると、その中の数人から手を振られた。ナツキ君!と呼んでくれている。

「ありがとうーーーーー」
「頑張ってねーーーー!」
「うん!」

 手を振ってくれたの1年生達だ。その中にはドイツ語クラスの子達がいた。俺は4年生に上がった後はそのクラスは終わったが、生徒同士の交流を図るために懇親会が学食で開かれて、世話人を務めた。そんな関係から親しくなった子達だ。大成のおかげもあって、交流の幅が広がった。

 手を振り終えると、みんなが学食のある2階の階段を上りきった後だった。エレベーターもあるが、みんな若いから、階段の方を使う。その方が早いという意見で、俺もそう思ってそうしていた。あの階段で転びかけた悠人のことを助けて出会い、今に至っている。

 3年生から過ごしたキャンパスを含めてここで4年間過ごし、俺は成長したと思う。人見知りがなくなってきた。わいわいがやがやと大人数の家族で暮らし、大学の方も生徒が多くて、仕事現場では色んな人に出会う。俺の学生生活は教授から見てどうだっただろうか。それを聞こうとすると、ノアがユーリーのことを止めている声が聞こえてきた。教授も不思議そうな顔をしている。そして、笑った。

「どうしたんですか?」
「バーテルスさんがナンパをされている。みんな男子生徒だ」
「あ、ほんとだ~。何やっているんだよ~」

 話を聞いてみると、こういうことだった。空手部の生徒達が昼ご飯を食べに来て、彼らのことをじっと見つめているユーリーに気がつき、俺達が一緒にいるということで挨拶したらナンパをされて、ナンパのし返しをしているそうだ。お互いに好印象だから、お茶でもどう?といった感じでユーリーが話しかけたそうだ。

 それを聞いて呆れた俺は、ユーリーのことを教授のそばに立たせた。危ない人物としてだ。しかし、ユーリーは悪びれた様子はなくて、ニコニコと笑っている。そして、若いって良いなとつぶやいた。彼らが去って行く姿を見ながらだ。

「はいはい。ユーリー。若い子が良いんだろ?でも、あんたにはぴったりな人が居るんだ。神仙教授のことじゃないよ。分かっているだろ~」
「分かった。大人しくする。教授、今夜電話するよ」
「だめだってば。教授、無視して下さい」
「いや、いいよ。親交を深めましょう」
「あ……」

 教授が笑った。それは普段の感じではなく、さっき想像した10代の頃の教授の姿といった感じだった。そんな風に笑うのかと感慨にふけった。そういえば、今日はいつもより笑っている。普段は眉をひそめる感じで話しているのに。

「教授。ユーリーのことが気に入ったんですか?」
「そういうわけじゃない。お客さんだから笑っているんだ。それに、君の記念日だ。やっと学位記の受け取りが出来たんだから」
「そっか。教授、4年間、ありがとうございました」
「こちらこそ。お兄さんによろしく。中山伊吹君にはずいぶんとお世話になった。僕が付きまといを受けていたとき、力になってくれた。その代わりに、レポート評価をよくして貰いたいということだった。付けた評価が良かったのは、よく出来ていたからだ。しっかりと授業を聞いて、勉強していたと思う。だから、伊吹君から取引されたから付けた評価じゃないんだ」
「そうなんですね。本人に伝えます」

 教授からの話に呆れてしまった。伊吹からはその話を聞いていない。あちこちで何をやっているのかと、また頭痛が起きそうになった。

 すると、黒崎から電話が掛かってきた。今度こそ卒業おめでとうと言われて、感慨にふけった。俺のそばには講堂が見えていて、この間の卒業式のことを思い出した。男子生徒はスーツで、女子生徒は袴姿の子が多かった。今日の俺は浅草&大阪ミックスカジュアル姿だ。どんな格好をしても、何を言おうとも、他の誰でもなくて、俺は俺で何も変わらない。家に帰れば日常が待っていて、ステージという非日常を演出する場所に歩んでいる。

 今の俺は非日常的体験をしているだろうか。いや、そんなことはない。たしかに自分はここにいた。そして、今もここにいる。

「ありがとうございました!」

 黒崎との電話を終えた後、俺は講堂に向かってお礼を言った。そして、みんなで写真を撮って、ディスレクトサイドゼロの公式SNSにアップして貰うように、長谷部さんに送った。帰れば黒崎にも見せる。

 俺の4年間、ありがとう。もう一度心の中でお礼を言い、大学を後にした。今夜必ず電話すると重ねて教授に伝えているユーリーの手を引きながら。
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