青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 しばらくすると、先生が処置室から出てきた。顔に赤みが差している。ここに来たときよりもずっと顔色が良い。すると、向こうから今村先生と男性が歩いてきた。そして、先生が、理事長とつぶやいた。

「上楽君!」
「あ……」
「大丈夫か!」
「あの……」

 先生が困ったなという顔をした。そして、理事長と呼ばれた男性が俺達のそばに来て、今村先生から、理事長だと紹介を受けた。北村先生という。元は医学部の教授だったそうだ。その彼が先生の手を取った。そして、握った。

「上楽君。倒れたと聞いて、すぐに駆けつけたかった」
「すみません。僕、午前中にここに来ていれば良かったです」
「授業の遅れに焦っていたんだろう。今日はゆっくり休んでくれ。……ああ、すみません。取り乱しました。黒崎さん。理事長の北村です。ご挨拶が遅くなりました。立て続けの会議がありまして」
「とんでもないです。お忙しいところにお邪魔しまして……」

 お義父さんが代表で挨拶をした。そして、ここで立ち話をすると上楽先生が休めないからと、まずは先生を家に帰そうと言った。すると、先生が、荷物を取りに大学の職員室に戻らないといけないと言った。それはそうだと思った。そこで、俺達が歩きながら話すことにした。

 上楽先生の隣には三橋君が寄り添うようにして立ち、先生に話しかけている。理事長は先生のことを気にしながら、お義父さんと話し始めた。今村先生は俺と黒崎とユーリーとで話している。

「これからどうなさいますか?」
「学食のカフェオレを飲んでいきます。あと、メニューもどんな物があるか見たいです」
「ご案内します」
「先生は大丈夫なんでしょうか。車椅子があった方が……」
「本人は平気だと言っていますので。それよりも夏樹さん。歯茎はどうですか。痛みは来ていませんか?」
「俺は大丈夫です。あの……」

 さっきから理事長のことが気になってしまう。お義父さんと話しているのに、ちらちらと上楽先生のことを見ている。心配なのだろう。すると、三橋君が先生に肩を貸し始めた。フラフラするのだろう。やっぱり車椅子を借りてきた方が良くないか。すると、ユーリーが俺と同じ事を言い始めた。

「上楽先生。車椅子を借りてこよう。それか、僕が背負いましょうか」
「いえ、大丈夫です。三橋君にはお馴染みのことなので、つい甘えました」

 そう言って、先生が三橋君の肩から手を離した。すると、理事長がとうとうお義父さんから離れて先生の隣に立った。今村先生が焦った顔をした。そして、理事長の代わりにお義父さんの隣に立った。お客さんを放るなんてという感じだ。俺達は気にしない。お義父さんもだ。理事長が上楽先生のことが心配で溜まらないという感じがひしひしと伝わってくるからだ。

「上楽君。家まで送る」
「いいえ、そんなことはしないで下さい」
「目と鼻の先じゃないか。職員住宅だ。三橋君。君は教室に戻っていなさい。授業があるだろう」
「今日はもう無いんです。僕が先生のことを送っていきます」
「じゃあ、黒崎さん達の案内してくれ。学長からもそう言われているんだろう」
「朝陽君を隣のキャンパスに送っていく役目があります。でも、まだその時間じゃないです」
「そうか……」

 理事長の態度を見て、なんだか変なことを考えてしまった。上楽先生のことが好きなのでは無いかということだ。先生に寄り添っている三橋君のことを遠ざけようとしているからだ。ライバルということだろうか。いや、そんなことを想像してはいけない。

 すると、黒崎と目が合った。瞬間、俺と同じ事を考えていることが分かった。ユーリーの態度も気になる。まさか一目惚れをしていないだろうか。この間は神仙教授をナンパしていたからあり得る。彼には誰か一筋になって貰いたいのに。
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