580 / 938
17-1 黒崎家のゴールデンウィーク
しおりを挟む
5月3日、月曜日。午前9時。
庭の水やりをしているところだ。畑のトマトが良く実り、食べ頃の実をたくさん付けている。ナスはまだ小さい実だ。九条ネギはいつだって食べ頃だ。水が植物たちにかかり、土に吸い込まれていく。1週間晴れ続きだったから、土が乾いている。そろそろ雨が降ると良いなと思った。
「気持ちいいなあーーーー」
俺の足下にはアンが居る。黒崎がアンドリューと一緒に家の中で留守番だ。しかし、テラスと窓を全開に開けているから、中からのテレビの音声が聞こえている。だから、一緒に居る気分になれる。それは黒崎も同じなようで、俺にお伴をしていない。俺の一人庭歩きはしても良いことになり、こうして一人で庭に出ているというわけだ。
いつもならユーリーがお伴してくれていた。朝の稽古の帰りに寄ってくれていた。その彼は今日は居ない。昨日の夜に月島さんとオカルト研究部の集まりがあり、それはビデオ会議であり、オンライン飲み会に参加していた。そういうわけで飲み過ぎたのか、寝込んでいるようだ。今朝の稽古もしていなかった。そのことはお義父さんがアンの散歩に来た時に言っていた。
「黒崎さーーーん。後でユーリーの様子を見に行こうよ」
「ああ。そうしよう」
黒崎がテラスに出てきたから声を掛けた。ここから見えるのは、窓の近くに置いたキャットタワーだ。まだ小さいアンドリューは登って遊ばないが、もう用意してある。彼のためのゲージもある。しかし、アンドリューはゲージには入らずに、箱の中にいたがる。今現在、生後4週目といった大きさだ。もっと大きいかと思っていたら、獣医さんの診察によると、まだ目が開いたばかりで捨てられてしまったのだろうということだった。つまりは、元から身体が大きい子なのだそうだ。
「アンドリューは寝ているのーーーー?」
「ああ。寝ている。ん、いや、起きた。お前の声に反応した」
「あ、いけない」
「もう起きた」
黒崎が笑った。俺の声の大きさは近所でも評判になっている。俺としては普通の声で話しているつもりだが、端から端まで聞こえるそうだ。そこで、声のトーンを落ち着けて話すようにしている。しかし、今の状態は黒崎に聞こえるように話しているから、大きな声になってしまった。
「アン、アンドリューが起きたってさ。見に行ったら?」
「……」
「まだいいのか。俺に付き合うんだね。ありがとう」
「……。ホーホケキョ!」
「ん?ウグイスだ。こっちに来ていたんだなあ」
ホーホケキョ。ホーホケキョ!
お義父さんの家のそばに居たウグイスだろう。きっと、3月に生まれた子だ。最初は鳴き方が上手ではなくて、ケキョとか、ホケとか言っていた。今はとても上手に鳴けるようになった。それがなんだか俺の歌の上達のようで、泣けてくる。ゴールデンウィーク明けから、マザーという楽曲のレコーディングが始まるのだが、歯を抜く前に一度歌って記録してある。それはお世辞にも完成度が高いとは言えず、家で黒崎のピアノで何度も歌って練習しているところだ。
「君も練習したもんねえ。俺も頑張るよ。朝ご飯、食べた?」
お義父さんの家のそばには鳥の餌場がある。山鳩用だが、ウグイスも餌を食べていたそうだ。喧嘩をすることなく、それぞれが食べて満腹になった後、それぞれの居場所に帰っていく。それは庭の中だ。木が生い茂り、鳥が暮らしていける。池もあるから水も飲める。雨が降れば葉っぱに露として残る。
最近はまた新しい鳥がやって来ている。それは珍しい鳥で、なんていうのか分からない。今度、写真を撮っておこうと思っている。その鳥は大きめの鳥だから、餌は小粒ではなくて、ひまわりの種を用意した。ちゃんと食べてくれたようで、殻が地面に転がっている。その中には食べていない種があり、地面に落ちた後、芽を出した。そこで、俺はその場所に種を植えた。夏になったらひまわりが咲くかも知れない。
「アンドリュー。来たんだね!」
すると、黒崎がアンドリューを抱いて連れて来た。アンドリューはここはどこだろうという顔をしている。しかし、俺もアンも居るから、驚いていないようだ。クンクンと外の匂いを嗅いでいる。黒崎の足下はスリッパだ。なんだか生活感がある。今までも履いていたが、なんともいえない違和感で、笑ってしまっていた。今も同じだ。
庭の水やりをしているところだ。畑のトマトが良く実り、食べ頃の実をたくさん付けている。ナスはまだ小さい実だ。九条ネギはいつだって食べ頃だ。水が植物たちにかかり、土に吸い込まれていく。1週間晴れ続きだったから、土が乾いている。そろそろ雨が降ると良いなと思った。
「気持ちいいなあーーーー」
俺の足下にはアンが居る。黒崎がアンドリューと一緒に家の中で留守番だ。しかし、テラスと窓を全開に開けているから、中からのテレビの音声が聞こえている。だから、一緒に居る気分になれる。それは黒崎も同じなようで、俺にお伴をしていない。俺の一人庭歩きはしても良いことになり、こうして一人で庭に出ているというわけだ。
いつもならユーリーがお伴してくれていた。朝の稽古の帰りに寄ってくれていた。その彼は今日は居ない。昨日の夜に月島さんとオカルト研究部の集まりがあり、それはビデオ会議であり、オンライン飲み会に参加していた。そういうわけで飲み過ぎたのか、寝込んでいるようだ。今朝の稽古もしていなかった。そのことはお義父さんがアンの散歩に来た時に言っていた。
「黒崎さーーーん。後でユーリーの様子を見に行こうよ」
「ああ。そうしよう」
黒崎がテラスに出てきたから声を掛けた。ここから見えるのは、窓の近くに置いたキャットタワーだ。まだ小さいアンドリューは登って遊ばないが、もう用意してある。彼のためのゲージもある。しかし、アンドリューはゲージには入らずに、箱の中にいたがる。今現在、生後4週目といった大きさだ。もっと大きいかと思っていたら、獣医さんの診察によると、まだ目が開いたばかりで捨てられてしまったのだろうということだった。つまりは、元から身体が大きい子なのだそうだ。
「アンドリューは寝ているのーーーー?」
「ああ。寝ている。ん、いや、起きた。お前の声に反応した」
「あ、いけない」
「もう起きた」
黒崎が笑った。俺の声の大きさは近所でも評判になっている。俺としては普通の声で話しているつもりだが、端から端まで聞こえるそうだ。そこで、声のトーンを落ち着けて話すようにしている。しかし、今の状態は黒崎に聞こえるように話しているから、大きな声になってしまった。
「アン、アンドリューが起きたってさ。見に行ったら?」
「……」
「まだいいのか。俺に付き合うんだね。ありがとう」
「……。ホーホケキョ!」
「ん?ウグイスだ。こっちに来ていたんだなあ」
ホーホケキョ。ホーホケキョ!
お義父さんの家のそばに居たウグイスだろう。きっと、3月に生まれた子だ。最初は鳴き方が上手ではなくて、ケキョとか、ホケとか言っていた。今はとても上手に鳴けるようになった。それがなんだか俺の歌の上達のようで、泣けてくる。ゴールデンウィーク明けから、マザーという楽曲のレコーディングが始まるのだが、歯を抜く前に一度歌って記録してある。それはお世辞にも完成度が高いとは言えず、家で黒崎のピアノで何度も歌って練習しているところだ。
「君も練習したもんねえ。俺も頑張るよ。朝ご飯、食べた?」
お義父さんの家のそばには鳥の餌場がある。山鳩用だが、ウグイスも餌を食べていたそうだ。喧嘩をすることなく、それぞれが食べて満腹になった後、それぞれの居場所に帰っていく。それは庭の中だ。木が生い茂り、鳥が暮らしていける。池もあるから水も飲める。雨が降れば葉っぱに露として残る。
最近はまた新しい鳥がやって来ている。それは珍しい鳥で、なんていうのか分からない。今度、写真を撮っておこうと思っている。その鳥は大きめの鳥だから、餌は小粒ではなくて、ひまわりの種を用意した。ちゃんと食べてくれたようで、殻が地面に転がっている。その中には食べていない種があり、地面に落ちた後、芽を出した。そこで、俺はその場所に種を植えた。夏になったらひまわりが咲くかも知れない。
「アンドリュー。来たんだね!」
すると、黒崎がアンドリューを抱いて連れて来た。アンドリューはここはどこだろうという顔をしている。しかし、俺もアンも居るから、驚いていないようだ。クンクンと外の匂いを嗅いでいる。黒崎の足下はスリッパだ。なんだか生活感がある。今までも履いていたが、なんともいえない違和感で、笑ってしまっていた。今も同じだ。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~
野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。
残念ながら話もできたし、触ることもできた。
様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。
そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。
厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。
きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。
それから五年。
地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。
真詞の運命が大きく動き出す。
人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半)
別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半)
・前半 巡(人外)×真詞
・後半 岬(人間)×真詞
※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。
※ キスを二回程度しかしないです。
※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。
※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる