青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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17-1 黒崎家のゴールデンウィーク

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 5月3日、月曜日。午前9時。

 庭の水やりをしているところだ。畑のトマトが良く実り、食べ頃の実をたくさん付けている。ナスはまだ小さい実だ。九条ネギはいつだって食べ頃だ。水が植物たちにかかり、土に吸い込まれていく。1週間晴れ続きだったから、土が乾いている。そろそろ雨が降ると良いなと思った。

「気持ちいいなあーーーー」

 俺の足下にはアンが居る。黒崎がアンドリューと一緒に家の中で留守番だ。しかし、テラスと窓を全開に開けているから、中からのテレビの音声が聞こえている。だから、一緒に居る気分になれる。それは黒崎も同じなようで、俺にお伴をしていない。俺の一人庭歩きはしても良いことになり、こうして一人で庭に出ているというわけだ。

 いつもならユーリーがお伴してくれていた。朝の稽古の帰りに寄ってくれていた。その彼は今日は居ない。昨日の夜に月島さんとオカルト研究部の集まりがあり、それはビデオ会議であり、オンライン飲み会に参加していた。そういうわけで飲み過ぎたのか、寝込んでいるようだ。今朝の稽古もしていなかった。そのことはお義父さんがアンの散歩に来た時に言っていた。

「黒崎さーーーん。後でユーリーの様子を見に行こうよ」
「ああ。そうしよう」

 黒崎がテラスに出てきたから声を掛けた。ここから見えるのは、窓の近くに置いたキャットタワーだ。まだ小さいアンドリューは登って遊ばないが、もう用意してある。彼のためのゲージもある。しかし、アンドリューはゲージには入らずに、箱の中にいたがる。今現在、生後4週目といった大きさだ。もっと大きいかと思っていたら、獣医さんの診察によると、まだ目が開いたばかりで捨てられてしまったのだろうということだった。つまりは、元から身体が大きい子なのだそうだ。

「アンドリューは寝ているのーーーー?」
「ああ。寝ている。ん、いや、起きた。お前の声に反応した」
「あ、いけない」
「もう起きた」

 黒崎が笑った。俺の声の大きさは近所でも評判になっている。俺としては普通の声で話しているつもりだが、端から端まで聞こえるそうだ。そこで、声のトーンを落ち着けて話すようにしている。しかし、今の状態は黒崎に聞こえるように話しているから、大きな声になってしまった。

「アン、アンドリューが起きたってさ。見に行ったら?」
「……」
「まだいいのか。俺に付き合うんだね。ありがとう」
「……。ホーホケキョ!」
「ん?ウグイスだ。こっちに来ていたんだなあ」

 ホーホケキョ。ホーホケキョ!

 お義父さんの家のそばに居たウグイスだろう。きっと、3月に生まれた子だ。最初は鳴き方が上手ではなくて、ケキョとか、ホケとか言っていた。今はとても上手に鳴けるようになった。それがなんだか俺の歌の上達のようで、泣けてくる。ゴールデンウィーク明けから、マザーという楽曲のレコーディングが始まるのだが、歯を抜く前に一度歌って記録してある。それはお世辞にも完成度が高いとは言えず、家で黒崎のピアノで何度も歌って練習しているところだ。

「君も練習したもんねえ。俺も頑張るよ。朝ご飯、食べた?」

 お義父さんの家のそばには鳥の餌場がある。山鳩用だが、ウグイスも餌を食べていたそうだ。喧嘩をすることなく、それぞれが食べて満腹になった後、それぞれの居場所に帰っていく。それは庭の中だ。木が生い茂り、鳥が暮らしていける。池もあるから水も飲める。雨が降れば葉っぱに露として残る。

 最近はまた新しい鳥がやって来ている。それは珍しい鳥で、なんていうのか分からない。今度、写真を撮っておこうと思っている。その鳥は大きめの鳥だから、餌は小粒ではなくて、ひまわりの種を用意した。ちゃんと食べてくれたようで、殻が地面に転がっている。その中には食べていない種があり、地面に落ちた後、芽を出した。そこで、俺はその場所に種を植えた。夏になったらひまわりが咲くかも知れない。

「アンドリュー。来たんだね!」

 すると、黒崎がアンドリューを抱いて連れて来た。アンドリューはここはどこだろうという顔をしている。しかし、俺もアンも居るから、驚いていないようだ。クンクンと外の匂いを嗅いでいる。黒崎の足下はスリッパだ。なんだか生活感がある。今までも履いていたが、なんともいえない違和感で、笑ってしまっていた。今も同じだ。
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