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さっそく俺は黒崎のスリッパ姿をイジることにした。なんて言おうか。似合わないとはっきり言ってしまおうか。出会った頃の黒崎は生活感のある人ではなくて、今もそうだから驚いてしまう。背が高くて足が長くて、振り返るほどに美形だ。こんな人が居るのかと驚いてしまう。しかし、現実として目の前に居て、アンドリューを抱いて立っている。そこで、ふと、アヤノちゃんを抱っこしていた頃の黒崎の姿が思い浮かんだ。
「黒崎さん。アヤノちゃんのことも、そうやって抱っこしていたの?」
「ああ。アヤノはキャバリアだったから、小型犬の中では大きい方だ。結構重くて、フラフラした記憶がある」
「そうなんだよねえ。あんたが腕の力がついたのって、中学校に上がった後だっていうもんね。背だってぐんと伸びてさ。うっうっ。喘息の子がさ~」
なんだか胸が痛くなった。病弱な子が親元を離れて、会ったことがない祖父母の元へ預けられるなんて、可哀想だと思ったからだ。それにはアヤノちゃんがお伴したとはいえ、彼女だって心配だったと思う。いくら月2回、拓海さんが会いに来てくれたとはいえ、当時の黒崎はどう感じていただろう。
「夏樹。俺は平気だ。親父から離れられて嬉しかったぐらいだ。拓海兄さんは2週間に一度、必ず来てくれていた。2週間なんてあっという間だ。電話も掛かっていた」
「そうだよね。話を聞いたら寂しくないって思うけど、それでもさ~。まあ、沙耶さんと怜さんに会ったけどさ」
「その通りだ。嘘のように喘息が治まったことも嬉しかった。俺としては、すぐにこの家に帰されるだろうと思っていた。入院が必要ならな」
「そうだよね。そのつもりで行ったんだよね。そしたら、もう帰りたくないって思い始めてさ~」
この間、拓海さんのお墓参りをしてきた。毎年4月20日の命日に行っているが、今年は早めに行った。そして、命日当日に行けなかったから、ゴールデンウィークに入った後も行って来た。墓前の花はお義父さんや晴海さん、瑛子さん、俺達などが供えていて、花盛りだった。今年から親戚の人も来るようになり、もっと花が増えていた。お義父さんの心境の変化からだ。
拓海さんのお墓参りに行ってもいい人は決められていた。ほとんどお義父さんが世話をしていた。お彼岸とお盆、命日だ。それ以外でも通っている。当主が晴海さんに代わり、お義父さんは親戚達に、拓海さんのお墓参りをしてくれと頼んだ。その発言は瞬く間に親戚中に広がり、お義父さんに何かあったのだと言われていた。その何かはなくて、もういいかなと思ったからだそうだ。
拓海さんはこの家の跡取りとして教育されて、まともに人生を楽しめなかったと思うと、お義父さんが話していた。陰湿な噂話と裏切りという親戚がいる中、拓海さんは常に優秀でないといけなくて、その通りになってきた。拓海が居れば大丈夫だというセリフは、彼が13歳になったときに親戚から出されたものだそうだ。
拓海さんは親戚の中では嫌な思いをしていないかと言えばそうではなかったそうだ。片方の目が紺色をしていたから、禍々しいものを見るようにして見てきた人が居たのだという。そして、亡くなったときに、お義父さんのそばに居る大人が純白叔母さん以外は誰も居ない状況だった。次の跡取りを誰にするのかというセリフが葬儀の間に飛び交い、そこで、お義父さんは、誰も墓参りに来るなと言う命令を下したわけだ。それがもう解けてしまった。
「夏樹。ユーリーのところに行くんじゃないのか?」
「そうだね。寂しい話はやめようね。アン、アンドリュー。向こうの家に行くよ。さあ、支度をしないとねえ」
さっそく俺はシャワーホースを片付けて、手を洗った。ユーリーに渡したい物がある。俺が焼いたソフトクッキーだ。歯茎の痛みのために柔らかいおやつが食べたくなり、そういうものを作ったり買ってきて貰ったりする中、今ハマっているおやつだ。もう抜歯の後は痛みがほとんど無くなった。しかし、まだ痛いときがあり、食べ物には気を付けている。
「良い天気だね。ユーリーが木にぶら下がらないと心配だよ」
「そうだな。馴染みの光景だな」
俺達はユーリーのことが心配になった。アンだってそう思っていると思う。水やりの最中に木にぶら下がっているお兄さんの姿が無いことに気がついているだろう。さあ、行こう。一旦家の中に入り、向こうの家に行く支度を始めた。
「黒崎さん。アヤノちゃんのことも、そうやって抱っこしていたの?」
「ああ。アヤノはキャバリアだったから、小型犬の中では大きい方だ。結構重くて、フラフラした記憶がある」
「そうなんだよねえ。あんたが腕の力がついたのって、中学校に上がった後だっていうもんね。背だってぐんと伸びてさ。うっうっ。喘息の子がさ~」
なんだか胸が痛くなった。病弱な子が親元を離れて、会ったことがない祖父母の元へ預けられるなんて、可哀想だと思ったからだ。それにはアヤノちゃんがお伴したとはいえ、彼女だって心配だったと思う。いくら月2回、拓海さんが会いに来てくれたとはいえ、当時の黒崎はどう感じていただろう。
「夏樹。俺は平気だ。親父から離れられて嬉しかったぐらいだ。拓海兄さんは2週間に一度、必ず来てくれていた。2週間なんてあっという間だ。電話も掛かっていた」
「そうだよね。話を聞いたら寂しくないって思うけど、それでもさ~。まあ、沙耶さんと怜さんに会ったけどさ」
「その通りだ。嘘のように喘息が治まったことも嬉しかった。俺としては、すぐにこの家に帰されるだろうと思っていた。入院が必要ならな」
「そうだよね。そのつもりで行ったんだよね。そしたら、もう帰りたくないって思い始めてさ~」
この間、拓海さんのお墓参りをしてきた。毎年4月20日の命日に行っているが、今年は早めに行った。そして、命日当日に行けなかったから、ゴールデンウィークに入った後も行って来た。墓前の花はお義父さんや晴海さん、瑛子さん、俺達などが供えていて、花盛りだった。今年から親戚の人も来るようになり、もっと花が増えていた。お義父さんの心境の変化からだ。
拓海さんのお墓参りに行ってもいい人は決められていた。ほとんどお義父さんが世話をしていた。お彼岸とお盆、命日だ。それ以外でも通っている。当主が晴海さんに代わり、お義父さんは親戚達に、拓海さんのお墓参りをしてくれと頼んだ。その発言は瞬く間に親戚中に広がり、お義父さんに何かあったのだと言われていた。その何かはなくて、もういいかなと思ったからだそうだ。
拓海さんはこの家の跡取りとして教育されて、まともに人生を楽しめなかったと思うと、お義父さんが話していた。陰湿な噂話と裏切りという親戚がいる中、拓海さんは常に優秀でないといけなくて、その通りになってきた。拓海が居れば大丈夫だというセリフは、彼が13歳になったときに親戚から出されたものだそうだ。
拓海さんは親戚の中では嫌な思いをしていないかと言えばそうではなかったそうだ。片方の目が紺色をしていたから、禍々しいものを見るようにして見てきた人が居たのだという。そして、亡くなったときに、お義父さんのそばに居る大人が純白叔母さん以外は誰も居ない状況だった。次の跡取りを誰にするのかというセリフが葬儀の間に飛び交い、そこで、お義父さんは、誰も墓参りに来るなと言う命令を下したわけだ。それがもう解けてしまった。
「夏樹。ユーリーのところに行くんじゃないのか?」
「そうだね。寂しい話はやめようね。アン、アンドリュー。向こうの家に行くよ。さあ、支度をしないとねえ」
さっそく俺はシャワーホースを片付けて、手を洗った。ユーリーに渡したい物がある。俺が焼いたソフトクッキーだ。歯茎の痛みのために柔らかいおやつが食べたくなり、そういうものを作ったり買ってきて貰ったりする中、今ハマっているおやつだ。もう抜歯の後は痛みがほとんど無くなった。しかし、まだ痛いときがあり、食べ物には気を付けている。
「良い天気だね。ユーリーが木にぶら下がらないと心配だよ」
「そうだな。馴染みの光景だな」
俺達はユーリーのことが心配になった。アンだってそう思っていると思う。水やりの最中に木にぶら下がっているお兄さんの姿が無いことに気がついているだろう。さあ、行こう。一旦家の中に入り、向こうの家に行く支度を始めた。
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