青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
627 / 938

18-17

しおりを挟む
 俺は壁に掛けられた絵を眺めた。これでいいと答えると、風林が荷物の運搬作業に戻っていった。段ボールに入った荷物の搬入だ。昨日、兄さんの前の家に行って、段ボールの数を見ておいた。荷ほどきのサービスを頼んでいるとはいえ、終わるのは日が暮れそうだ。しかし、楠木は2時間で終わらせますと言い切ったそうだ。
 
「当日のスケジュールと、搬入、設置提案書か……」

 クリアファイルに入った書類を手元に広げた。引っ越しのアザレアが作成した物だ。家具の配置図、食器の置き方、洗面所回りの物の設置案、テレビの設置案などだ。大変細かく作られている。兄さんと楠木との間での打ち合わせによって作られた物だ。しかし、兄さんは一時間ほどで打ち合わせが終わったと言っていた。ほとんど、楠木が前の家に置いてある家具と食器、小物類を見て回り、作成したそうだ。そして、提案書に同意して、今日の引っ越しになった。

「“お客様の時間を大切にします。丁寧でスピーディーな引っ越しなら当社にお任せ下さい。引っ越しのアザレアは全国ネットワーク展開中”。ここ3年で急成長した会社だ。元はオモト引っ越しセンターという名前だったな」

 引っ越しのアザレアは元あった会社を買い取る形で社長が就任した。その社長が島崎守しまさきまもるといい、43歳だ。彼が社長に就任後に名前を変えて、業績が急上昇した。スタッフの良さがウリだ。段取りの上手いスタッフが揃っているという。そして、男女合わせて多くの数の社員を抱えている。引っ越しはなくてはならない業種だ。これからも発展していくだろう。

「風林君をヘッドハンティングしたい。“アザレアのスタッフは全員が社員。研修制度も回数も充実しており、お客様の満足のいくサービスを提供いたいます”。給料はいくらなのか聞いておこう」

 そう思って俺は、風林のことを待った。今、スタッフに指示を出しているところだ。そして、その指示が終わり、外に出ようとしたところへ声を掛けた。

「風林君。すまないが、聞きたいことがある」
「はい!」
「給料はいくらだ?」
「あの……」
「他の奴からも聞かれたことあるんだろう。俺にも教えてくれ」
「それは漏らしてはいけないことになっています」
「そう言わずに。これか?それともこれか?」

 俺はいくつか指の形を作った。年収を聞いている。風林は困ったという顔になった。しかし、不機嫌そうではない。柔らかく、俺の質問を受け止めてくれようとしているのが伝わってきた。

「お客様。その質問は……」
「俺は引っ越し業者じゃない。菓子メーカーだ。興味がある。君ならこれぐらいあるだろう」
「いえ……。いや、そうです」
「当たりか。単刀直入に言う。俺の勤務先は黒崎製菓だ。これだけ出す。どうだろうか。本気だ」
「え?」
「これだけ出す。興味を出してくれたか」

 俺は指で数字を作った。その最終的な数字に風林が驚いた顔をした。それに加えて、賞与の回数と金額を伝えた。これで動いて貰いたい。俺の見る目は正しいと自負している。今までヘッドハンティングをしてきてある。転職者の採用面接にも何度も出ている。しかし、基本は密漁が良い。こうして出会えた人財を大切にしたい。

「仕事は営業と事務がある。君なら営業がいい」
「俺は現場で動く方が好きなんです」
「そうか。なら、営業でどうだ」
「地道にコツコツをするのが好きなんです。俺、オフィスワークは向いていないと思います。最初に入った会社がそうだったので」
「そうか。どこだ」
「岡田商事という会社です。大学卒業後に……。あ……」
「そこまで話してくれるのか。俺との相性が良い証拠だ。帰りまでに考えてくれ」
 
 風林が漏らした話に喜びが生まれた。こうして会話の糸口を導き出し、話をさせるのが快感だ。いや、風林が気を悪くするだろうか。しかし、こうして俺は今までやってきた。黒崎ホールディングス時代はヘッドハンティングを多くやって来ている。俺に目の狂いはない。その自信がある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...