青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 今もそう思っている。俺のことを見ている目には力があり、必ずや大成する男だと分かった。オーラが違う。今の会社でもリーダーをやっているなら、黒崎製菓でも発揮して貰いたい。そこで、大学はどこかと聞いた。そして、この答えに驚いた。俺が出ている大学だった。そこは黒崎製菓グループに多い就職先だ。どうしてうちを選んで貰えなかったのか。

「俺と同じ大学だ。黒崎製菓グループに就職者が多い。どうしてうちの会社じゃなかったんだ?」
「競争率が激しかったし、そもそも俺は大きな会社向きじゃないと思いました」
「岡田商事も大きな会社だ。エントリーすらしなかったのか?何年に受けたんだ?」
「……年です。エントリーしたけど、落ちました。すみません。作業に戻ります」
「そうか……」

 風林が作業に戻る姿を見送った。当時の採用担当部門にいた社員のことを思い浮かべた。舌打ちを打ちたい気分だ。一体、誰だったのかと思ったからだ。南波が今年26歳だ。採用面接の試験の年からいうと、同じ年だ。彼と同じ面接官だ。

「今田か……。翌年は橋本がメンバーに入った。見逃さないはずだ。いや、彼は最終面接メンバーだった。やっぱり今田だ。中野課長もいたが……」

 今田は人事部の課長だ。新卒者のエントリーシートを全て見る業務に当てっている。そこではじかれるとは思えない。だったら面接で落としたとしか思えない。風林に詳しい話を聞きたいが、難しいだろう。転職の話を前のめりで話を聞いてくれるなら聞けるだろうが、今の感触は良くなかった。

「いや、悪いとは言えないか……。どうして岡田商事を辞めたのか……」

 俺はどうしても風林から話を聞きたい。しかし、今は無理だ。そこで、今田に聞くことにした。今日は休日だ。月曜日に業務命令として当時の採用面接の経過を聞くことにした。風林にも話を聞くと決めた。南波が何か知っているかも知れない。別の大学だが、同期で面接を受けたということなら、覚えていることがあるかも知れない。

「会社に連絡しても取り次いで貰えない可能性が高い。今日、連絡先を渡しておく」

 今できることは俺の名刺を渡すことだ。さっき、待遇の話をしたときに悪い顔はしなかった。彼の連絡先を聞けるかも知れない。いや、聞いてみせる。これは浮気ではない。夏樹には理解させる。

 引っ越しの作業が終わるまでに南波に連絡を取ることにした。すると、部屋の奥からユーリーが電話で話している声が聞こえてきた。相手は南波だ。そこで、電話を替わって貰うことにした。

「ユーリー。南波と……。ん?電話か……」

 俺の方に着信が入った。相手は父だった。急用だ。一体何があったのか。俺の留守中に怪我をしたとか、急病だということか。その可能性が高い。今日は引っ越しだと分かっている。急に電話をかけてくるとなれば、そのどちらしかない。

「もしもし。親父。どうしたんだ?」
「営業企画部の北添君のおじいさんから電話が入った。彼が病気で休職するそうだ」
「なんだって?どこが悪いんだ?」
「精神的なものだそうだ。入院も治療方針に入っているそうだ。今は家にいるそうだ」
「そうなのか……」

 北添といえば、去年の秋に数人の男とで南波のことを取り合ったことがある社員だ。元から南波とは仲が良く、嫉妬した山下に因縁を付けられて、副社長室で話を聞いた。その後、他の男性社員も交えての争いに発展した。南波は誰のことも選ぶことなく、あれはなかったことのようになった。異動もしていないし、休暇を取ることもしていなかった。しかし、あれから社内での目が気になり、気に病んだのか。

 どうして彼の祖父が父に電話を掛けてきたかというと、父が入会している“長寿を目指す会”の会員であり、父と知り合いになり、連絡先の交換をしてあるからだ。何か取り計らってくれということだろう。こうして親や祖父母のツテを頼る者がいる。俺も同じだ。俺だって社長の息子だった。

 だから、それを悪いとは言わないが、無理難題を押しつけられるケースがある。例えば、夏樹の大学の同級生の葉月の叔父のことがある。彼はR&W社で勤務しているが、後輩に周囲と打ち解けられない社員がいて、大学の繋がりを利用して、彼のことを重要なプロジェクトに起用してくれという親がいた。そのプロジェクトに入れば社内で目立ち、友人ができて、周囲から馬鹿にされないと考えてのことだ。そんなことを親に頼んだ社員のことでは頭が痛かった。
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