青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 では、俺が以前と同じように出世したいと望んでいれば、会社の中での俺の立場はどうだっただろうか。月の数度のミーティングだけで大きな顔をしていると言われただろう。いや、今もそうなのかも知れないと思った。俺の知らないところで俺のことを嫌がっている人がいるかも知れない。そう思うと、気が塞ぎ込んできた。

「黒崎さん。俺もなんだか気鬱だよ。人間関係ってさ~」
「その通りだ。北添も悩んでいるだろう。理久君とは最近どうだ?この間のミーティングで一緒だっただろう」
「理久とは相変わらずだよ。あの子は地位を欲しがってガツガツしているから、周りがドン引きしているよ。サエキ酒造の役員です。交換社員として来ています。そう言って、色んな会食に出て、知り合いを増やしているんだ。マイペースな子だったのになあ」
「あの子は親がかりの就職じゃない。本人の意志だ。しかしだな。親の名前を使いすぎる。いや、亡くなったおじいさんのツテか……」
「うひゃひゃひゃ。理久は天然系だよ。それでガツガツやるからさ~。周りは本気にしていなくって、ライバルはいないって感じだけどさ~」

 理久には頭が下がる思いをしている。サエキ酒造の役員として頑張っている。黒崎製菓グループに入り、会社を存続させる道を選んだ。お父さんのせいで会社が傾きかけていたが、亡きおじいさんの意志をつぎ、会社の復興に力を注いでいる。本人は浮気までしたお父さんへの仕返しだと言っている。そのお父さんは58歳になり、今後の道を模索中だという。60歳で辞めるか、続けるかのどちらかだ。ただし、お飾りの専務取締役として在籍しているから、月に数えるほどしか出社していないという。家にも帰ってこないそうだ。一人でマンションを借りて、そこに住んでいるのだと聞いてある。

「理久のお父さんってさ。会社に来なくなるかも知れないって、理久が言っていたよ」
「彼が父親のことをお飾りの役員だと罵っていたな。いなくても何も変わらないと」
「そうか……」
「あ、晴海お兄ちゃん……」

 俺と黒崎がハッとなって黙り込んだ。ここには元・お飾りの役員だった人がいる。専務取締役というものだった人だ。R&W社でその役職を与えられて、月の数回の出社で、しかもそれは会議だけだった。そして、とうとう役員に再任されず、事実上の解任となった。今の晴海さんとは全然違う。顔が生き生きしていなかった。今の彼は生気があり、当時から思うと本人ではないようだ。

「晴海お兄ちゃん。お兄ちゃんのことを言ったんじゃ無いんだよ~」
「いや、構わない。教授には過去のことを打ち明けてある。俺は生きていなかった。そう思っている」
「ああ、聞いているよ。お父さんとしては良かれと思ってした人事だったんだ。そう晴海君から聞いてある。今のアシスタントの道は自分で考えて選んだ物だ。生きがいがあるそうだ」
「そっか……」

 俺達はしんみりした空気になった。背後では引っ越しのお兄さん達が荷ほどきをしてくれている。そのスピードに驚き、何かあったらここの会社に依頼しようと思った。そして、ユーリーと一貴さんの姿がないことに気づいた。

「あれ?2人がいない。あ、来た来た……。何言ってるのかなあ。全く……」

 2人は奥の晴海さんの寝室から出てきた。何か笑いながら言い争いをしている。そして、その話題のことを知り、頭が痛くなった気がした。一貴さんとしてはユーリーのつるつるの身体に興味があり、寝室で脱がして胸板のツルツル度を鑑賞していたそうだ。ユーリーもユーリーだ。断ったら良いのに。

「カズ兄さん。いやらしげなことをするなよ~。ユーリーも断れよ~」
「一貴さんだからいい。この人には悪気はない。こういう人だ」
「なんだかそれって、バカって言っているみたいだよ?」
「いいや、馬鹿になんかしていない」
「その通りだ。僕はユーリーのことを尊敬している。寂しい気持ちにつけ込んでいない。なかなかいい肌だった。彫刻のようだ」

 なぜか一貴さんが両手をもみもみとほぐしながら歩いてきた。その手つきがいやらしくて、おっちょこちょいなところがなかったら怪しい人だったと思った。
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