青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 その理由を、さらに黒崎から聞くことが出来た。俺達がここのマンションに着いたとき、風林さんが俺のことを見て驚いていたそうだ。その時のことを黒崎が見逃すはずがなく、ずっと彼のことを監視していたそうだ。そして、ここにいる同僚に話を聞き、理由を知ったそうだ。

「風林さん。そうだったんですね!ありがとうございます!」
「いえ、そんな……。すごいですね。人気があるし、かっこいいし……。パックのご飯を食べているって本当ですか?俺、インタビューを読んだことがあるんです」
「はい。食べます。もちろん、ご飯も炊きますけど、俺一人の時はそっちを食べることが多い気がします。この人、俺のパートナーなんですけど、炊きたてのご飯じゃないと食べないから、ご飯を保存できないんです。パックのご飯も美味しいですよね」
「ええ。とても美味しいと思います。親しみがわきました」
「そうでしたか……」

 ひょんなことで俺と風林さんが話をすることになった。黒崎からは期待の目で見られている。昔は俺が誰かと話す度に監視していた黒崎だったのに、今は少し違う感じがする。風林さんを落とせと言っている気がした。そこまで彼のことが気に入ったということだ。しかし、俺の方は情けないことに、これ以上の話題が出てこない。そこで、晴海さんからサポートが入った。

「風林君。弟の話を聞かなくても良いぞ。すみません」
「いえ。嬉しかったです。夏樹さんとも話が出来たし、思い出に残りました」
「夜19時でどうだ?もっと遅い時間でも良いぞ。ん?兄さん。そんなことを言うのか」

 晴海さんが逃げろと風林さんに言ったことで、黒崎が眉をしかめた。そして、強引に夜の電話の約束を取り付けてしまった。時間は風林さんの希望で、今日の20時になった。彼が家に帰って食事をして、休憩をした後だという。たしかに疲れているだろう。そして、黒崎の威圧感の前で自分の希望を言えるのには尊敬した。黒崎からじろじろと見られていても臆していないことにもだ。俺だったらたまらない。

「風林君。約束が出来て嬉しい。ありがとう」
「はい。でも、俺は今の会社を動く気はありませんよ」
「君、今までヘッドハンティングを受けてきただろう。俺には分かる。今の会社もヘッドハンティングだな?」
「大学時代の友達が移ったばかりの会社に誘われました。俺、作業に戻ります」
「ああ、また後で声を掛ける」

 風林さんが作業に戻っていった。俺としては黒崎に浮気心があるなんて思ってはいないが、黒崎の方からその話がされた。浮気ではないぞという一言だった。

「分かっているよ。さっきの話のどこが浮気だよ?」
「まるでデートの誘いだ。ヘッドハンティングも同じだ」
「ふうん。やきもちを焼けっていうの?焼けないよ。さっきのは仕事だっただろ~。黒崎さん、笑っていないで、作業をしようよ。はい。置いてきて」

 そう言って、俺は段ボールの中から洗面器を取りだして、黒崎に渡した。これをバスルームに置くのが仕事だ。バスルームの中の物は整頓して置いてある。洗面器だけなかったから、どの箱に入っているのだろうと探していたところだった。

「ふう。黒崎さんってば、自分のことをナンパ師みたいに言ってさ~。悪ぶりたい年頃なのかな?」
「そうじゃないだろう。君にヤキモチを焼いて貰いたい子供だ」
「晴海お兄ちゃん。そう思うんだね」
「ああ、教授がそう言っている。俺もそう思う」
「うんうん。ところで、ユーリーと一貴さんが居ないんだけど、どこだろうね?」
「寝室の布団で横になっている」
「まったく……」

 寝室は荷物の整理が終わったところだ。まだベッドは届かないから、それまで布団で寝るというから、もう敷いてある。俺が寝室に行くと、新しい布団に喜びながら、ユーリーがゴロゴロと転がっていた。そして、その様子を一貴さんがスマホカメラに収めていて、なんて気が合う人達なのかと思った。
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