青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 2階に上がると、一気に吹き抜けていった風に驚いた。この階の窓を今朝から開けてあったそうだ。こんなに風が吹くなら、1階の湿気も飛びそうだ。

「けっこう風が入ってくるんだね」
「そうなんだよ。2階はそうなんだけど、1階はどういうわけか風が入らない。そこで、心霊スポットなんていう噂が出来るんだ」
「そうだね。暗くてジメジメしていたらそうなるよね。あれ?着信だよ?」
「あ、黒崎さんだ。ラインを送るのを忘れていたよ」

 お昼ご飯の時に彼にラインを送ると今朝言っておいた。そのラインが来ないから、電話が入ったようだ。今はもちろん出られるから、さっそく電話に出た。上楽先生は俺に気を遣って、ユーリーを連れて、先の方を歩いている今村先生の方に行ってしまった。

「もしもし。黒崎さん」
「もしもし。飯は食ったのか?」
「食べたよ。学食で予定通りだよ。一口カツのランチをおごってもらったんだ。メンバーは俺とユーリーと上楽先生と今村先生だよ。今村先生が学長先生からランチ代を預かっていて、そこから出してくれたんだ」
「礼を伝えておく。親父にも伝えておく」
「うん。そうしてよ。今ね、今村先生の案内で、キャンパスの中にある心霊スポットに来ているんだ。古い建物で、使っていない教室が並んでいるんだよ。さっきね、服を着ていない男性生徒が2人潜んでいたんだ。今村先生が怒ってさ~。怖かったよ」
「そうか。廃墟なのか?」
「そこまでじゃないよ。湿気があって、暗い感じなんだ。かび臭さもあるよ。今、2階に来ているんだけど、ここだと窓から風が入ってくるんだ。でも、1階はだめなんだって」
「そこはデザイナーの上楽君人じょうらくきみひと氏が建てた建物だ。上楽先生の親戚だ」
「そうなんだね!あんた、先生がここの大学の創業者一族って知っていたんだろ?」
「ああ、知っていた。朝陽が受ける授業の一番最初の講師なのも聞かされていた。社交はできたのか?」

 黒崎が笑っている。彼ならなにもかもスマートにこなせただろうが、俺はずっこけてばかりだから、そう思っているに違いない。そこで、ちゃんとできているよと、半分本当のことを伝えた。すると、違うだろうと、ツッコまれた。

「夏樹。正直に言え。何か失敗したんだろう?」
「何もしていないよ。先生達が優しいから、色々と話を聞いて、うんうんって頷いていただけだよ。俺が良い子にしているから、あんみつもおごってくれたんだ。それと、学食で焼いているクッキーをお土産にもらったよ」
「そのクッキーだが、都内の店で修行を積んだスタッフが焼いているはずだ。シャルロットキッチンのスイーツ担当に引き抜くつもりでいた人材だ」
「へえーー。世間は広いようで狭いんだね。ここの学食って、俺がいた大学よりも安いんだ。値段は同じぐらいなんだけど、盛りの良さが違うんだよ。一口カツは2個多い感じ。それって、大きな違いだろ?」
「ああ。大きな違いだ。分かってきたじゃないか」
「それはそうだよ。開発部にいるんだからさ。メニュー開発で鍛えられたもん。そうだ。南波さんがユーリーに連絡をしてくれたんだけど、怒っているんだ。上楽先生と一緒に居るからやきもちを焼いているんじゃないかっていう説があるんだ」

 俺は正直に伝えることにした。黒崎に内緒にしたところで、後で分かってしまう。そして、どうして言わなかったかという後悔が生まれるときがあり、俺はそれを知っているから、ペラペラと話してしまおうと思った。そして、それに対して黒崎は満足そうだ。俺が何でも秘密にしないで話すからだ。

「黒崎さん。あんた、満足そうだね。ふん。もう言わないよ」
「話してくれ。ユーリーはどうしているんだ?」
「ごく普通だよ。南波さんのことを追いかけるって感じじゃ無くて、ここで社交をしているよ。そうだ。ユーリーが小説を書いているのを知ってた?今日、帰った後で見せてくれるんだ」
「聞いたことはあった。誰にも見せないと言っていたが、お前には見せることにしたのか」
「あんた、笑っているね。何だが人が悪いよ」

 黒崎が笑い続けているから、なんだかムカムカしてきた。俺のことなどお見通しだと言いたいようだ。
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