青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ユーリーが車屋さんに行くのは急に決まったことでは無く、1週間前に決まったことだ。その時、黒崎は自分も行きたそうにしていた。いくらお義父さんが付いていくとは言え、細かな部分で困ったことがありそうだと思ったからに違いない。ユーリーは8歳までこの国で育ったが、後はドイツにいた。“日本語ペラペラの外国人”だが、販売店によっては戸惑うかも知れないし、本人だって困ることがあるかも知れない。それに、お義父さんは昔の人だから、若い人と話が合わないかも知れない。

「黒崎さん。あんた、一緒に行きたいんじゃ無いの?こっちには聡太郎君がいるから、そっちに行って良いよ」
「いや、お前の方に行く」
「お義父さん、一緒に行ってもらったら?」
「私達は2人で構わない。これでも車のことは知っている」
「そう?ユーリー。全部の店に行くの?」
「いや、1カ所だけでいい。これにしたい」
「ふうん……」

 ユーリーが椅子に座り、俺にパンフレットを広げて見せた。そこにはいかにも車ですという写真が載っていた。俺は見ても分からない。これでは男失格だと言われるだろうか。大学の授業で取り扱った地質の話なら興味がわく。人の興味の対象は様々だと思う。だから、胸を張っておくことにした。

「ユーリー。この車にしたいポイントはどこ?」
「かっこいいからだ」
「この間見せてもらったパンフレットにも良さそうな車が載っていたね」
「どれも大きな車だ。僕の場合はそう大きくなくて良い。隆さんの車も良いと思ったけど、どれも大きい」
「そうでもないよ。乗ってみなさい。私の車を乗ってくれ。心霊スポットに行ったときに乗った車がいいだろう。そんなに古くない。かっこいいだろう」
「そうだけど。僕は自分の車がほしい」
「お前が乗りなさい。いいから。販売店に行っても、私の車を選ぶと思うぞ。最近のデザインは……」
「ふうん……」

 お義父さんの話が始まった。結構車好きだと知ったのは最近だ。今はもう自分で運転しなくなって、車庫に入れっぱなしだ。時々一貴さんが運転して動かしたり、大勢で出かけるときは黒崎が運転して使っている。だから、そんなに車に対して思い入れは無いのかと思っていた。磨くのも黒崎任せだからだ。

 すると、ユーリーが二葉の方を見た。二葉の方はドキッとした顔をしている。車の運転免許を取れと言われるからだろう。彼女はおっちょこちょいだから、そういう面を気にして、自動車学校に行こうとしない。それでなくても忙しい。学校に通うことになったら秘書のバイトを減らさないといけないだろう。2週間ぐらいで卒業できると聞いたことがあるが、順調に進んでの話だ。二葉はそれに自信が無くて、かっこ悪いところを見られたくなくて、車の話題が出たときは気配を消している。しかし、今日はユーリーがツッコんだ。

「二葉。免許を取ったらどうだ?もしも撃たれそうになった時、車で逃げられる」
「どんな家だよ。俺は免許は要らないよ。電車でいいからさ」
「乗れると便利だぞ。ドイツに行ったら車がいい。早めに取っておけ。その分、上達が早い」
「うん……」

 二葉は今、進路に悩んでいる。志乃さんのことを追いかけてスイスまでは行けなくても、近くのドイツに行こうかと思っている。そこで、お義父さんがバーテルスビスケット会社への転勤を考えさせている。大学ではドイツ語専攻をしていたから、そこそこ話せる。去年の夏にドイツに行ったときも、そんなに困っていなかったそうだ。それにはノアの家族のフォローや、エミリアさん達のサポートのおかげもあったに違いない。だから、ドイツに行っても心強い味方がいるから大丈夫だ。

 しかし、二葉はこう考えている。高齢のお義父さんのことを置いていけないのだと。それに、倉口さんのことやママのこともある。朝陽のことだって心配している。そこを黒崎が取っ払ってやりたいと考えて、またドイツに遊びに行けと言って、夏休みの旅行を勧めているところだ。それが免許取得の学校通いになるかも知れないと思った。
 
「分かったよーーー。俺、免許を取りに行くよーー。取るだけで良い?」
「ああ、まずは取れ」
「はーーい」
「へえーー。決まったね!黒崎さんがいくら言っても聞かなかったのに」

 これで二葉の自動車学校通いが決まった。ユーリーの言うことなら聞くこともよく分かった。2人は良いコンビだ。過去世において兄弟だったのかと、月島さんのようなことを考えながらパンフレットを見た。そして、朝ご飯が運ばれてきて、洋食のスクランブルエッグの良い匂いを嗅いで食欲が刺激されて、みんなと一緒に食べ始めた。
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