青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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20-8(黒崎視点)

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 午前11時半。

 俺は今、収録現場に来ていて見学中だ。ナレーションの収録は滑り出し順調で、板東さんが顔色良く作業を進めている。夏樹と聡太郎君を起用したのが良かったらしく、二人の息が合っている。まず最初に撮った物はファンクラブに載せるメッセージボイスだった。その音源がこの部屋で聞けたが、マイクを通りて聞こえる声と普段の声では若干の違いがあった。緊張感があるという違いだ。夏樹の声がやや硬質になっていた。

 俺の隣には長谷部さんがいる。今日も忙しいようで、電話を掛けて戻ってきていた。久弥との時間調整のための電話連絡だったそうだ。マザーという楽曲の発売が10月に延期されて、バンドメンバーのプロモーション活動も予定が変わった。そのための調整が行われている。

「長谷部さん。お忙しそうですね」
「ありがたいことです。月夢君のことでお礼を伝えないといけません。ありがとうございました」
「こちらこそ。フレッシュな新人の子に歌ってもらえて、秋商品が喜んでいます」

 月夢とは、IKUに所属している新人歌手のことだ。現在19歳という若さだ。歌唱力があり、彼の作詞作曲する楽曲は音楽関係者の間で評判が良く、黒崎製菓の秋の新商品のコマーシャルで起用させて貰うことにした。

 月夢は自分の楽曲に自信が無く、今まで出していない。IKU所属の作詞家・作曲家の中から選んで曲の作成を依頼して歌っていたが、今回のコマーシャルから自分の楽曲を発表することになる。俺としてはヒットするのでは無いかと思っている。音源を聞かせてもらうと、なかなか良かった。本人の優しさ、繊細さがよく現われている楽曲だと思った。どうしてそれを知っているかというと、月夢と会食で会ったからだ。コマーシャルに起用することがほぼ決まりかけたときに会い、話を聞くことにしていた。

 会食の場に来ていた月夢は緊張していた。たった一人で来たわけでは無く、マネージャーの加藤さんと飯野さんが同席していた。加藤さんはかつて悠人がデビューするときに担当してたマネージャーで、現在は月夢を担当している。そして、夏樹達にもお馴染みの飯野さんだ。

(良い子だった。悠人君と知り合いだったのか。彼はいい人財を引き寄せる達人だな)

 月夢が悠人と親しいことを飯野さんからその席で聞いた。去年のギタリスト祭典では、彼のスタッフを務めたのだという。経験のためだ。そこから付き合いが深まり、時々食事を共にしているのだそうだ。月夢はバンドに加入しておらず、孤独感にさいなまれることがあるそうだ。そして、楽曲の売れ行きはそこそこといった具合で、ヒットを出していない。なにもヒットを出すことが人生の目的ではないだろうが、勝負をかけてみたいという気持ちは分かる。そこで、黒崎製菓で何か手伝いが出来ると良いと思った。

「圭一さん。月夢が楽曲作成に意欲を出しました。ありがとうございます。ピアノで弾いてもらって感想を聞かせてもらって、大変喜んでいます」
「何でも無いことです。月夢君の優しい旋律が心地よかった。IKUのコンテストで発掘した人材だそうで、佐々木和久プロデューサーの目にとまったなら、相当光っていたんでしょう」
「ええ。でも、本人は歌が好きなのに自信の無い子でしてね。悠人君が世話を焼いていて、あちこち連れて行っています。植本さんの番組に呼んでもらったり、彼の楽曲制作を表に出すために説得したり」
「夏樹はまだ会ったことがない。いつも悠人君と一緒にいたが、大学を卒業した後はほとんど会っていない。会ってもレコーディングの合間だと聞いています。悠人君と電話をしようにも、向こうがレコーディング中だと思って遠慮してしまっている」
「はい。これは私達の反省すべき点です。もっと会う機会を作ります。レコーディングにはメンバー全員を呼ばないので、メンバー間のコミュニケーションの減り方が気になっています。久弥さんがピリピリしていましてね。レコーディングとなったら長時間になるので、なるべくメンバーを休ませたいということで、呼び出していないんですよ」
「そう聞いています。長く続けるバンドだから、そう慌てなくても良いでしょう。俺の方も慌てたようです。夏樹は悠人君と一心同体だ。いや、バンドメンバー全員とそうだ。心配要りません。ん?電話か」

 すると、父から電話が掛かってきた。そこで、一旦外に出て掛けようとした。すると、板東さんから隣の部屋でしてくれて良いとの許可をもらった。防音になっているそうだ。クーラーも効いているから涼しいそうだ。それには礼を伝えて、隣の部屋に移動した。
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