青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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22-1 思い描いた物

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 7月25日、月曜日。午前5時。

 今日から5日間、アレクシスさんが来日する。そして、エミリアさんが2週間滞在する。そのため、午前8時半に到着する飛行機を追いかけて、空港まで迎えに行く。そのため、俺達は一時間早く起きて、行動している。朝ご飯もいつもよりも早く食べることになる。俺達も嬉しいが、二葉が喜んでおり、再会できるから良かったと思った。

 フェリックスさんが一人で大丈夫かと心配したところ、向こうにはエミリアさんの妹のソフィアさんが残っているから、何かあったら対応してくれるそうだ。それに、ユーリーが言うには、親戚が多いから助けは求められるはずだと言っていた。

 エミリアさん達が一緒に来日するのは、観光のためだ。お義父さんの家が建って100年経つのが来年であり、その前にお祝いに来てくれるというのが目的だと聞いている。8年間も一緒に暮らしていたから、懐かしい光景をもう一度目に焼き付けたいとのだと言っていた。

 俺達はすっかり夏シーズンを迎えた。黒崎家の庭では先々週にスプリンクラーで水をまいたことで植物が生き返り、夏の暑さを耐え抜いている。明日も業者に来てもらって水をまくことになっている。全く雨が降らないからだ。その上でこの気温の高さで、畑のトマトの実が割れて、九条ネギはしなびしている。そして、ナスまで実が割れて、今月の収穫は調子が悪い。せっかく今日はエミリアさんが来日するというのに、美味しい野菜を食べてもらいたかった。

 今、アンがお義父さんに誘われて、散歩に出かけた。俺はもう畑の水やりを終えた。毎朝暑いから、6時前には終わらせるようにしている。そこで朝ご飯の準備に取りかかるところだが、今朝はその準備がない。今日から数日間はお義父さんの家でご飯を食べるからだ。エミリアさん達の来日により、俺達も呼んでくれた。

 今、黒崎がシャワーから出てきたところだ。これからお義父さんの家に行く。俺はユーリーにアイスコーヒーを飲ませて、背中の汗をふいてあげた。俺が水やりしている間、そばで朝の稽古をしてくれていたからだ。上半身裸でいる。

「ユーリー、すごい汗だね。帰ったらすぐにシャワーをあびないといけないよ」
「ああ、そうする。すぐに終わる。今朝はホットサンドだぞ。村木シェフの再現レシピだそうだ」
「キセイのシェフだね。本を出したなんてすごいね。“家で作れるをコンセプトに、キセイの人気メニューを収録、家庭料理をふんだんに掲載しました”」

 そう言って、俺はユーリーが持って来て本を眺めた。表紙にはその村木シェフが載っている。俺がどうしても行きたいと思っているキセイという店のシェフだ。ユーリーの勤めている出版社から出た本だ。俺に見せに来てくれた。この本の中で取り扱っている料理はどれも美味しそうだ。この中でもホットサンドは村木シェフが家で作っているものであり、厨房のまかないとして出している物だそうで、食べてみたいと思った。そこで、今朝のお手伝いさん達が作ってくれるわけだ。

「ユーリー。すごい、汗が引いたね。アイスコーヒーを飲んだだけじゃん」
「僕は器用なんだ。ここぞというときに汗を引っ込められる」
「なんだかいやらしい話みたいだから、聞かないことにするよ」
「そんな話じゃない。僕はそういう話はしない」
「分からないよ。ほら、黒崎さんが笑っているよ」

 俺達のそばに、服を着た黒崎がやって来た。ニヤニヤ笑っている。こういうときは必ずいやらしいことを考えているに決まっているから相手にしない。そして、ユーリーの方は誤解だと言っている。そこで、汗を引っ込められる話を聞いてみることにした。

「分かったよ。話を聞かせてよ」
「ああ。いい男がいたとして、そいつの前では汗を流したかったら流したままでいればいい。しかし、上楽先生のようなタイプの前ではサラサラの肌がいい。その違いによって汗を引っ込められるんだ」
「いやらしいとまでは言わないけど、なんだかカズ兄さんが言っていることに似ているよ。一緒に居るうちに似てきたんじゃないの?はいはい。もう行くよ。アンドリュー、こっちにおいで」

 そろそろ俺達は向こうの家に移動しないといけない。アンはお義父さんと向こうに向かうとして、アンドリューは俺達と一緒に行く。もうすっかり大きくなって、庭の中を歩き回れる。しかし、迷子になってもいけないし、遠くに行くのが心配だから、庭の中では抱いている。そういうわけで、アンドリューは俺達が居る場所しか歩かない。おっとりした性格もしている。

「アンドリュー。こっちだよ。おいでよ」
「なかなか来ないな。キャットタワーがいいんだろう」
「しかたないなあ」

 アンドリューはキャットタワーの一段目の箱の中でくつろいでいる。二段目三段目にいくのが難しかった子猫の頃、諦めて、一段目にいた。今だって子猫だが、随分と大きくなって、3段目ぐらいはいけそうだ。しかし、失敗が怖いのか、行こうとしない。そこで、一段目にいることが多い。

「アンドリュー。向こうの家に行くよ。ユリウスと会うんだろ」
「猫は身軽だなあ。君のところに走って行った」

 ユーリーが言うとおり、アンドリューは身軽だ。さっと俺の胸に飛び込んできた。お義父さんの家に行くというのが雰囲気で分かっているようで、こうして俺の元に来てくれる。俺は可愛い可愛いと言って頭を撫でて、みんなで玄関を出た。
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