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翌日、午前8時。
黒崎家の庭に立っているところだ。業者を入れて水やりをするのが今日になり、立ち会いをすることになった。もちろん、お義父さんもいるし、家の中にはユーリーも居る。そして、風邪を引いたままの一貴さんも寝ている。今日はその中のユーリーと、散歩をしているところだ。
「夏樹。庭全体が水浸しになる。君も濡れても良い格好をしておくといい」
「うん。あんたまで立ち会いしてくれるなんて、ごめんね。7月7日の七夕の短冊はきちんと神社に持って行くからね」
そう言って、俺は昨日の朝までおいてあった七夕の笹を掲げていた場所で立ち止まった。七夕の夜、俺達は小さなパーティーをした。サンドイッチを持ち寄って、庭で食べるというものだ。中心に置かれたのは願い事が書かれた短冊が下げられた笹であり、願いが叶うことを願っていた。そして、短冊を取りまとめ、神社に祈願に出すことになっている。それは明日の予定だ。
俺の願い事は、家族みんなが健康で暮らせますようにというものだ。それからもう一つ、仕事が順調に進みますようにというものだ。そして、ユーリーの願い事はといえば9つもあり、彼の短冊で笹が重くなっていた。なにやら、子供の頃に書いた短冊で願い事が叶ったそうで、毎年のように七夕祭りをやっているそうだ。
「夏樹。君の願い事は2つしか無かったな。今からでも増やしたらどうだ?」
「2つで良いよ。あんまい多いと叶わないかも知れないもん。あんたの願い事も、どれも叶えたいものだろ?」
「ああ。僕が担当した書籍のヒット祈願。恋人ができますように。アメリカにいる好きな子が恋人と別れますように。料理が上手になりますように。健康で暮らせますように。一貴さんのおっちょこちょいが直りますように。他にも色々ある」
「その、恋人と別れますようにっていうのはだめだよ~。そんなことを願ったら、神様から怒られるよ?」
「もうとっくに怒られている。この間、怖いことがあった」
「どんなことだよ?」
「神社に行ったら、シャツのボタンが5つも取れたんだ。神様から怒られたに違いない」
「なんだよ、それ~」
ユーリーの話に驚いた。そのシャツは比較的新しい物であり、ボタンはほつれていなかったという。それが5つも取れるなんて、普通のことではない。よく聞いてみると、短冊の願い事を書いた後だったという。それなら神様から何か言いたいことがあったのだろう。
「ユーリー。ぶるぶる。その短冊は神社に持って行かないようにしようよ」
「でも、僕の願いだ」
「恋人と別れてどうするんだよ。あんたが付き合うのかよ?でも、相手にだって選ぶ権利はあるんだ。あんたを付き合うとは限らないだろ」
「あ……」
「ほらね。その人と付き合えますようにって書かないといけなかったね。でも、もう来年だよ。もう七夕は終わったもん」
「しまった……」
ユーリーががっかりした顔になった。そこまで気がつかなかったそうだ。そんな彼のことを励まして肩を叩いた。すると、お義父さんの家の1階の窓が開き、一貴さんが手を振ってきた。風邪の具合はどうだろうか。
「カズ兄さん。具合はどう?」
「昨日よりマシになった。喉が痛い」
「御園クリニックの薬はよく効くから、もう少しの辛抱だよ」
「そうだな。今日は水をまくんだろう。見たいと思っていた」
「部屋から見られるよ。装置を持ってきて、スプリンクラーで水をまくんだ。そんなに楽しい作業じゃないよ。ドキドキワクワクはしないと思うんだ」
一貴さんは昨日の朝から寝ていたから退屈をしているようだ。そして、起き上がってきて作業の邪魔をするといけないから、楽しくないよと強調して言っておくことにした。しかし、本人はそのことに気づいているから、見たい見たいと連呼し始めた。
「分かったよ。見せてあげるよ」
「バイトの子、かっこいいんだろう?濡れた上半身を見てみたい」
「やっぱり見せない」
一貴さんの言い方に呆れてしまった。昨日、至急来てもらうことにした業者のバイトの子がお父さんに会いに来ていたのだが、なかなかかっこいい子だったそうだ。そこの会社の人3名と、バイトが6名いるそうだ。バイトはみんな大学生であり、定期試験の間なのによく時間があるなと驚いた。それはそのはずで、そこの会社の時給が良いことが人気の理由らしい。そして、一貴さんが彼らのことを眺められるといって喜んでいる。
「ユーリー。何か言ってやってよ」
「一貴さんの性格は直らない。そのままだ」
その一貴さんが書いた短冊は欲のない物だった。俺はそう思う。心が平穏で暮らせますように。そう書いてあった。そして、そのわりには刺激的なことを求める一貴さんにまた呆れかえり、さっさともう一度ベッドで寝るように叱りつけたのだった。
黒崎家の庭に立っているところだ。業者を入れて水やりをするのが今日になり、立ち会いをすることになった。もちろん、お義父さんもいるし、家の中にはユーリーも居る。そして、風邪を引いたままの一貴さんも寝ている。今日はその中のユーリーと、散歩をしているところだ。
「夏樹。庭全体が水浸しになる。君も濡れても良い格好をしておくといい」
「うん。あんたまで立ち会いしてくれるなんて、ごめんね。7月7日の七夕の短冊はきちんと神社に持って行くからね」
そう言って、俺は昨日の朝までおいてあった七夕の笹を掲げていた場所で立ち止まった。七夕の夜、俺達は小さなパーティーをした。サンドイッチを持ち寄って、庭で食べるというものだ。中心に置かれたのは願い事が書かれた短冊が下げられた笹であり、願いが叶うことを願っていた。そして、短冊を取りまとめ、神社に祈願に出すことになっている。それは明日の予定だ。
俺の願い事は、家族みんなが健康で暮らせますようにというものだ。それからもう一つ、仕事が順調に進みますようにというものだ。そして、ユーリーの願い事はといえば9つもあり、彼の短冊で笹が重くなっていた。なにやら、子供の頃に書いた短冊で願い事が叶ったそうで、毎年のように七夕祭りをやっているそうだ。
「夏樹。君の願い事は2つしか無かったな。今からでも増やしたらどうだ?」
「2つで良いよ。あんまい多いと叶わないかも知れないもん。あんたの願い事も、どれも叶えたいものだろ?」
「ああ。僕が担当した書籍のヒット祈願。恋人ができますように。アメリカにいる好きな子が恋人と別れますように。料理が上手になりますように。健康で暮らせますように。一貴さんのおっちょこちょいが直りますように。他にも色々ある」
「その、恋人と別れますようにっていうのはだめだよ~。そんなことを願ったら、神様から怒られるよ?」
「もうとっくに怒られている。この間、怖いことがあった」
「どんなことだよ?」
「神社に行ったら、シャツのボタンが5つも取れたんだ。神様から怒られたに違いない」
「なんだよ、それ~」
ユーリーの話に驚いた。そのシャツは比較的新しい物であり、ボタンはほつれていなかったという。それが5つも取れるなんて、普通のことではない。よく聞いてみると、短冊の願い事を書いた後だったという。それなら神様から何か言いたいことがあったのだろう。
「ユーリー。ぶるぶる。その短冊は神社に持って行かないようにしようよ」
「でも、僕の願いだ」
「恋人と別れてどうするんだよ。あんたが付き合うのかよ?でも、相手にだって選ぶ権利はあるんだ。あんたを付き合うとは限らないだろ」
「あ……」
「ほらね。その人と付き合えますようにって書かないといけなかったね。でも、もう来年だよ。もう七夕は終わったもん」
「しまった……」
ユーリーががっかりした顔になった。そこまで気がつかなかったそうだ。そんな彼のことを励まして肩を叩いた。すると、お義父さんの家の1階の窓が開き、一貴さんが手を振ってきた。風邪の具合はどうだろうか。
「カズ兄さん。具合はどう?」
「昨日よりマシになった。喉が痛い」
「御園クリニックの薬はよく効くから、もう少しの辛抱だよ」
「そうだな。今日は水をまくんだろう。見たいと思っていた」
「部屋から見られるよ。装置を持ってきて、スプリンクラーで水をまくんだ。そんなに楽しい作業じゃないよ。ドキドキワクワクはしないと思うんだ」
一貴さんは昨日の朝から寝ていたから退屈をしているようだ。そして、起き上がってきて作業の邪魔をするといけないから、楽しくないよと強調して言っておくことにした。しかし、本人はそのことに気づいているから、見たい見たいと連呼し始めた。
「分かったよ。見せてあげるよ」
「バイトの子、かっこいいんだろう?濡れた上半身を見てみたい」
「やっぱり見せない」
一貴さんの言い方に呆れてしまった。昨日、至急来てもらうことにした業者のバイトの子がお父さんに会いに来ていたのだが、なかなかかっこいい子だったそうだ。そこの会社の人3名と、バイトが6名いるそうだ。バイトはみんな大学生であり、定期試験の間なのによく時間があるなと驚いた。それはそのはずで、そこの会社の時給が良いことが人気の理由らしい。そして、一貴さんが彼らのことを眺められるといって喜んでいる。
「ユーリー。何か言ってやってよ」
「一貴さんの性格は直らない。そのままだ」
その一貴さんが書いた短冊は欲のない物だった。俺はそう思う。心が平穏で暮らせますように。そう書いてあった。そして、そのわりには刺激的なことを求める一貴さんにまた呆れかえり、さっさともう一度ベッドで寝るように叱りつけたのだった。
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