青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
767 / 938

22-34

しおりを挟む
 18時。

 お義父さんがアンの散歩に出て、20分が経った。この時間はまだ日差しが強いが、今夜は大広間で大勢で晩ご飯を食べるから、早めに夜の散歩に出かけていった。アンは散髪をして身体が軽くなったのか、外に行く足取りが軽かった。それを今、黒崎と話しているところだ。

「黒崎さん。アンは短くして良かったんだよ。あんたは毛が長いのが好きだけどさ~」
「身体を守るための毛だ。長いのには理由があるはずだ」
「そんなことを言っても、本人からすると暑くてたまらなかったはずだよ」

 今回のアンのトリミングの毛の長さは俺が決めた。北山さんがおすすめする長さだ。バリカンで毛を刈って、とても短くしてしまうというものだ。耳の毛も短い。尻尾も整えてあり、わりとふさふさだ。これにすると、どの犬も気持ちよさそうにするというから、以前からやってみたかった。しかし、黒崎がうんと言わなかった。アンには毛を長くしたスタイルがいいと言って、意見を聞いてくれなかった。

 しかし、今年の暑さを迎えて、とうとう黒崎が折れた。そして、アンの新しい髪型を見て驚いていた。人相が変わったようになっていたからだ。毛を短くするとガリガリの身体かと思えばそうではなくて、けっこう肉が付いている。ダイエットに成功したとはいえ、ぽっちゃり体型だと思った。

「黒崎さん。いい髪型じゃん。あんた、俺にも髪の毛を長くさせようとするよね」
「お前もアンも、長い髪の毛が似合うからだ」
「俺、肩まで伸してリタイアしたじゃん。そこそこ短い方が良いんだ」

 俺の今の髪の毛は結構長い。顎の辺りまで髪の毛が伸びている。ステージでヘアセットして出て行くから、イメージを多く作れるように長くしてある。そして、その髪の毛を後ろでまとめたヘアスタイルにしてある。黒崎は俺にはもっと長い髪の毛でいてもらいたいなんて言っている。

 俺達が言い合いをしていると、お義父さんが帰ってきた。もちろん、アンも帰ってきた。人相が変わっているから、一見、いつものアンに見えない。黒崎はもう見慣れたと言っている。

「アン、お義父さん、おかえり。遠藤さんの家に行って来た?」
「行ってきたよ。トリミングの結果を見せてきた」
「佳代子さん、なんて言ってた?」
「一瞬、誰か分からなかったと言っていた。それにしても、面白い人が居たよ」
「へえーー、どんな人?」
「それがね……」

 お義父さんが遠藤さんの家にアンのことを見せに行った帰りのことだそうだ。見知らぬ40代ぐらいの男性が近づいてきて、お義父さんにこう聞いてきたそうだ。犬を変えましたか?と。その人は驚いた顔をしていたそうだが、お義父さんだってそんなことを聞いて驚いたそうだ。

「犬、変えましたか?って?うひゃひゃひゃ。なかなか思いつかない質問だねえ」
「向こうは私達のことを知っているんだろう。私は覚えていなかったが……」
「お義父さん、なんて答えたの?」
「変えていませんと答えた。この子は散髪して人相が変わりましたと説明したら、納得していた」
「うひゃひゃひゃ」

 きっと、日頃からお義父さんとアンのことを見かけていた人なのだろう。それだけアンの見た目が変わったということだ。それにしても、俺は嬉しくなった。そうやって、お義父さんが誰かから話しかけられるようになったからだ。

 お義父さんの眉間には深い皺がある。威圧感は黒崎のようにあるタイプで、とてもじゃないか、初対面から打ち解けられる人はいないと思う。それなのに、今日は話しかけてもらえて良かったと思った。

「お義父さん、よかったね。話しかけてもらえて」
「そうかい?私は遠巻きにされることに慣れている。とっさに答えが出てこなかった」
「まあ、いいじゃん。近所の人とももっと話そうよ。今日は賑やかだから良かったね」
「そうだね……」

 お義父さんはまだ近所の人と気軽に話している感じがなくて、お互いに緊張感が漂っている。しかし、アンのおかげで会話の糸口があり、会えば何か話すようになったそうだ。黒崎だってそういう面があったが、今では気軽に話をしている。

 今夜は遠藤さん達を招いての夕食会になる。朝陽と六槍さんも来る。お義父さんが話しかけられたことを話題に出せば、食いついてくれると思う。エミリアさんも話題が出来て良いだろう。

 そのエミリアさんは今、アレクシスさんと一緒にリビングにやって来た。結構長い時間、黒崎達と話をしており、それは懐かしい話もあり、心ゆくまで話せてスッキリしたと言ってもらえて、本当に良かったと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...