青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 お義父さんの息子達は仲が良いとは言えない。母親同士がいがみ合ってきた歴史があるからだ。そんな状態で暮らせてきたお義父さんはどんな心境だったのだろう。黒崎家を存続させるためだったはずだったと、黒崎は言っていた。愛人を作ることが家のためであり、家のために動いてくれる人を養子に迎えるという形を取ることがベストだと信じられていた。

 それが最近になり、ほどけてきているように思う。良い意味でだ。晴海さんが当主になったことでリラックスムードが流れて、晴海さんが言うには、一番でなくてもいいという、ホッとした感じが漂っているのだという。この間の法事でもそれが感じられた。いがみ合うなんて嫌だ。これも何かの縁だと思って、親しくしたいと思っている。

 ふうっと息を吐いた。そして、天井を見上げて、眼鏡を外して目を閉じた。ずっとパソコンの画面を見ていたから目が疲れているようだ。

「夏樹。コラムは仕上がったか?」
「あ、アレクシスさん。もう飲んでいるの?」
「ビールだけだ。風呂上がりの一杯が美味い」

 リビングに赤い顔をしたアレクシスさんが入ってきた。大分飲んでいる気がする。しかし、本人は一杯だけだと言っている。本当だろうか。昨日も飲んでいたのに今日も飲むなんて、肝臓が強いと思った。

「あんたの肝臓はどうなっているんだよ?昨日はあれだけ飲んでいたのに、また飲んでいるんだから」
「ほんの一杯だけだ。本当だ。風呂上がりだから顔が赤いんだ。食事の時は飲まないようにする。さすがに飲み過ぎになる」
「本当に~?」
「圭一も今夜は飲まないだろう。付き合うことにする」
「昨日は二人で飲んでいたね」

 昨日の夕食会では、ユーリーとの仲の良さが見られたが、黒崎との仲の良さもよく分かった。二人がビールを何本も開ける姿は呆れるぐらいだった。一体どれだけの量を飲むのだろうと思ったからだ。黒崎からすると、ビールに付き合ってくれる人がいてくれて嬉しいようだ。ユーリーもビールを飲むが、少しだけだ。ほとんどワインを飲んでいる。

「圭一はもうすぐで帰ってくるだろう?」
「うん。さっき連絡が入ったよ。定時で帰るって。会食の予定を入れていないし、会議も揉めずに済んでいるから、あんたがいる間は早く帰ってくるってさ。あっという間に3日が過ぎたね。ドイツに帰る日が来るね。寂しくなるよ」
「そう言ってもらえて嬉しい。ん?セキュリティーシステムで何かあったみたいだぞ」
「本当だ。なんだろう?」

 壁のモニターには門の様子が映し出されている。そこに、一貴さんの車があった。パスワードを入れないと中には入れない。まさか、パスワードを忘れたというのだろうか。さっそく俺は一貴さんに電話を入れた。すると、話し中になった。向こうからも電話が掛かってきているのだろうと思った。

「門まで行ってくるよ」
「待て。俺も行く。お前は一人で出歩くのは禁止だろう」
「黒崎さんは過保護なんだよ。向こうにはカズ兄さんがいるんだから」
「それでも危ない物は危ないという考え方だ。お前は何か引き寄せると圭一が言っていた」

 アレクシスさんと一緒にリビングを出た。すると、晩ご飯の良い匂いがして来た。今日はイタリアンメニューだ。ピザがある。それから、俺の畑で採れたトマトを使ったパスタもメニューにある。今朝、摘んできて、キッチンに届けてある。

「良い匂いだねえ。カズ兄さんにもう一回、電話を掛けてみるよ」

 プルルルル。一貴さんに電話を掛けると、呼び出し音が鳴った。これで電話が繋がると思った。そして、向こうが電話に出た。なんだか悲しそうな声を出している。何か起きたのには間違いない。

「カズ兄さん。どうしたの?ずっと車を停めているだろ」
「ヨークに意地悪をされた。パスワードを忘れさせられたんだ」
「やっぱり忘れたんだね。意地悪なんてされないだろ~。あんたが忘れたんだろ~。昨日から新しくしたからさ。今、そっちに行っているから待っていてね」

 一貴さんは人のせいにすることがある。ヨークが忘れさせるわけがないと思った。しかし、電話の向こうでは、今日帰る道順も一瞬忘れてしまい、焦ったのだと訴えかけてきた。まさか本当に意地悪をされたのだろうか。

「アレクシスさん。どう思う?」
「そんなことはしないだろう。一貴君が忘れているんだ」
「そうだよねえ」

 アレクシスさんと意見が合った。そして、俺達は庭に出て、門に向かって歩いていった。すると、大きな門の外では一貴さんが車の中で待っていた。しょげている。それを見ていると責めるのは可哀想で、何も言わないでおこうと思った。
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