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一貴さんの車が車庫に入って停まった。無事に門をくぐってこられたからだ。パスワードは完全に忘れていて、頭から消え失せているそうだ。家の中に入った後でパスワードを教えようと思った。メモに書いておけば良いが、防犯上良くないと言うことだから、それはやめておく。
記号ありのパスワードは一貴さんが覚えられなくて不便だったから、先月から記号無しのパスワードに変えて、自分で入って来られるようになっていた。しかし、防犯上定期的にパスワードを変えたいから、昨日から変えた。もちろん、記号無しだ。しかし、一貴さんは忘れてしまった。
「カズ兄さん。あたらめて、おかえり」
「ただいま。圭一が帰って来る前で良かった。呆れられたところだ」
「俺は黙っていないよ。報告するもん。ねえ、アレクシスさんもそうするだろ?」
「ああ。言っておいた方が良い」
アレクシスさんが味方をしてくれた。秘密を作らない方が良いという考え方は黒崎と同じだ。それに、パスワードのことは知っておいた方が良いと思う。家族の困り事はみんなで共有するべきだ。特に一貴さんはおっちょこちょいだから、何かが起こるかも知れない。
「カズ兄さん。今夜はイタリアンだよ。食べたいって言っていたピザがあるはずだよ」
「それを楽しみに帰ってきた。チーズにバジルソースが合う。マルゲリータだ」
「佐山さんがピザ生地を作ってくれたんだよ。バジルソースだって手作りなんだ」
「もう帰っただろう。プレゼントは明日渡す」
「あ、何か持って帰ってきたの?」
「ああ、佐山さんのお孫さんにと思って、子供服を持って帰ってきた。うちに子供服を置いてくれってことで、取引先からプレゼントされた物がいくつもあった」
「そうなんだね。ちゃんと女の子用を持って帰ってきた?」
「もちろんだ。男の子用は社員の子供にと思って残してきた。アレクシス、君に渡すジーンズもある」
「ありがとう。君の選ぶ物は上品だ」
一貴さんが車の後部座席から紙袋を取り出して、アレクシスさんに渡した。オンライズと書かれた袋だった。20代をターゲットにしているブランドだと知っているアレクシスさんが驚いた。俺には無理だと言っている。
「一貴君。俺には難しい。若い子のジーンズは無理だ」
「いや、そんなことはない。今期のオンライズは年齢層を幅広くターゲットにしてある。朝陽君がモデルだけど、40代でも着られる服がある。ジーンズは定番の形だ。君のイメージに合う」
「そうか?履いてみる」
「ここで履くなよ~」
アレクシスさんがダルダルのジーンズを脱ぎ始めたから止めた。冗談だとは思う。しかし、一貴さんは目を爛々とさせている。いい男の着替えを見るのは至福のひとときなのだという。
「カズ兄さん。変な気を起こすなよ~」
「起こしても良いぐらいにいい男だ。ユーリーとはまた違った魅力がある。野性的というか、男らしい感じがいい。少し圭一に似ているな。前から思っていた」
「そうか。あの男に似ていると言われて光栄だ。家に入ってから履いてみる。荷物が多いな。持ってやる」
「ありがとう。これが佐山さんへのプレゼントで、お手伝いさん達へのお土産の羊羹と、これはエミリアさんの着替えだ。フルールというブランドから持ってきた」
「すまない。母さんはこっちで服を買うつもりでいて、本当に身軽な状態で来てしまった」
一貴さんが次から次へと荷物を取り出した。車までは秘書室の人が運んでくれたそうだ。六槍さんは今日は休みを取っていたからいない。昨日はあの後、朝陽とどうだっただろうかと思うと、口の端がにやけてしまう。そして、それを二人から指摘された。
「どうした、夏樹。そんなに笑って……」
「そうだぞ。どうしたんだ。にやけている……」
「いやね……。朝陽とどうなったかなって思うと、こんな顔になるんだよ」
口元のニヤニヤが収まらない。一貴さんは2人のことをどう思っているだろう。さっそく聞いてみると、妄想はしないと返事が返ってきた。いい男の着替えは見たいくせに、噂話はしないというのか。
「なんだよ、今更、良い子ぶるなよ~」
「いじめないでくれ。アレクシス、助けてくれ」
「夏樹。そうだぞ。因縁を付けるな。彼らは彼らのスピードがある。もしまとまらなくてもがっかりするな。恋というのは不思議な物だ。周りがはやし立てると上手くいかなくなる」
「そうだけどさ。あ、黒崎さんだ!」
一台のタクシーが入ってきて、お義父さんの家の車寄せに停まった。そして、黒崎が下りてきた。今日は取引先と会うから、黒に近い色味のスーツを着てあって、迫力が増している。わりと遠目からでもそれが分かるぐらいだ。そして、タクシーが走り去って行き、黒崎がこっちを見て、眉をひそめた。アレクシスさんが半分ジーンズを脱ぎかけているからだ。
「黒崎さん!心配しないで!アレクシスさんの冗談なんだよ。カズ兄さんが脱がしたわけじゃ無いからね」
「ああ、夏樹君!そんな言い方をすると誤解を受けるじゃないか!」
「圭一。俺は無事だ」
「ばかやろう。そうじゃないと困る」
黒崎が俺達の元にやって来た。色々あった家なのに、俺達はこうしてふざけていられる。そんな日々に感謝だ。いつまでもこの時が続くことを願った。そして、大きな満月の下で騒いでいる俺達は家の中から漂ってきた料理の匂いにつられて静かになり、家の中に入っていった。
記号ありのパスワードは一貴さんが覚えられなくて不便だったから、先月から記号無しのパスワードに変えて、自分で入って来られるようになっていた。しかし、防犯上定期的にパスワードを変えたいから、昨日から変えた。もちろん、記号無しだ。しかし、一貴さんは忘れてしまった。
「カズ兄さん。あたらめて、おかえり」
「ただいま。圭一が帰って来る前で良かった。呆れられたところだ」
「俺は黙っていないよ。報告するもん。ねえ、アレクシスさんもそうするだろ?」
「ああ。言っておいた方が良い」
アレクシスさんが味方をしてくれた。秘密を作らない方が良いという考え方は黒崎と同じだ。それに、パスワードのことは知っておいた方が良いと思う。家族の困り事はみんなで共有するべきだ。特に一貴さんはおっちょこちょいだから、何かが起こるかも知れない。
「カズ兄さん。今夜はイタリアンだよ。食べたいって言っていたピザがあるはずだよ」
「それを楽しみに帰ってきた。チーズにバジルソースが合う。マルゲリータだ」
「佐山さんがピザ生地を作ってくれたんだよ。バジルソースだって手作りなんだ」
「もう帰っただろう。プレゼントは明日渡す」
「あ、何か持って帰ってきたの?」
「ああ、佐山さんのお孫さんにと思って、子供服を持って帰ってきた。うちに子供服を置いてくれってことで、取引先からプレゼントされた物がいくつもあった」
「そうなんだね。ちゃんと女の子用を持って帰ってきた?」
「もちろんだ。男の子用は社員の子供にと思って残してきた。アレクシス、君に渡すジーンズもある」
「ありがとう。君の選ぶ物は上品だ」
一貴さんが車の後部座席から紙袋を取り出して、アレクシスさんに渡した。オンライズと書かれた袋だった。20代をターゲットにしているブランドだと知っているアレクシスさんが驚いた。俺には無理だと言っている。
「一貴君。俺には難しい。若い子のジーンズは無理だ」
「いや、そんなことはない。今期のオンライズは年齢層を幅広くターゲットにしてある。朝陽君がモデルだけど、40代でも着られる服がある。ジーンズは定番の形だ。君のイメージに合う」
「そうか?履いてみる」
「ここで履くなよ~」
アレクシスさんがダルダルのジーンズを脱ぎ始めたから止めた。冗談だとは思う。しかし、一貴さんは目を爛々とさせている。いい男の着替えを見るのは至福のひとときなのだという。
「カズ兄さん。変な気を起こすなよ~」
「起こしても良いぐらいにいい男だ。ユーリーとはまた違った魅力がある。野性的というか、男らしい感じがいい。少し圭一に似ているな。前から思っていた」
「そうか。あの男に似ていると言われて光栄だ。家に入ってから履いてみる。荷物が多いな。持ってやる」
「ありがとう。これが佐山さんへのプレゼントで、お手伝いさん達へのお土産の羊羹と、これはエミリアさんの着替えだ。フルールというブランドから持ってきた」
「すまない。母さんはこっちで服を買うつもりでいて、本当に身軽な状態で来てしまった」
一貴さんが次から次へと荷物を取り出した。車までは秘書室の人が運んでくれたそうだ。六槍さんは今日は休みを取っていたからいない。昨日はあの後、朝陽とどうだっただろうかと思うと、口の端がにやけてしまう。そして、それを二人から指摘された。
「どうした、夏樹。そんなに笑って……」
「そうだぞ。どうしたんだ。にやけている……」
「いやね……。朝陽とどうなったかなって思うと、こんな顔になるんだよ」
口元のニヤニヤが収まらない。一貴さんは2人のことをどう思っているだろう。さっそく聞いてみると、妄想はしないと返事が返ってきた。いい男の着替えは見たいくせに、噂話はしないというのか。
「なんだよ、今更、良い子ぶるなよ~」
「いじめないでくれ。アレクシス、助けてくれ」
「夏樹。そうだぞ。因縁を付けるな。彼らは彼らのスピードがある。もしまとまらなくてもがっかりするな。恋というのは不思議な物だ。周りがはやし立てると上手くいかなくなる」
「そうだけどさ。あ、黒崎さんだ!」
一台のタクシーが入ってきて、お義父さんの家の車寄せに停まった。そして、黒崎が下りてきた。今日は取引先と会うから、黒に近い色味のスーツを着てあって、迫力が増している。わりと遠目からでもそれが分かるぐらいだ。そして、タクシーが走り去って行き、黒崎がこっちを見て、眉をひそめた。アレクシスさんが半分ジーンズを脱ぎかけているからだ。
「黒崎さん!心配しないで!アレクシスさんの冗談なんだよ。カズ兄さんが脱がしたわけじゃ無いからね」
「ああ、夏樹君!そんな言い方をすると誤解を受けるじゃないか!」
「圭一。俺は無事だ」
「ばかやろう。そうじゃないと困る」
黒崎が俺達の元にやって来た。色々あった家なのに、俺達はこうしてふざけていられる。そんな日々に感謝だ。いつまでもこの時が続くことを願った。そして、大きな満月の下で騒いでいる俺達は家の中から漂ってきた料理の匂いにつられて静かになり、家の中に入っていった。
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