青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 午前1時。

 目が覚めると、まだ夜中だった。ほんの2時間前に寝付いたのに、もう目が覚めてしまった。ここは俺達の家だ。寝室のベッドの上で寝ていた。晩ご飯をお義父さんの家で食べた後、帰ってきた。最近はお義父さんの家で泊まることが増えたから、一瞬、ここがどっちの家だったかと考えることがある。

 隣を見ると、黒崎がいなかった。書斎にいるのだろう。アンとアンドリューがそれぞれのベッドで寝て、寝息を立てている。

「二人とも、よく寝ているなあ……」

 2匹の寝顔を見て、ホッとした心持ちになった。動物を見ると癒やしになる。それは黒崎も言っていた。帰ってきたときにアンが迎えに出てきてくれて、アンドリューが部屋の中で起き上がってこっちを見ているのを見ると、帰ってきた甲斐があるというものだと言っていた。

「アン、アンドリュー。いけない。名前を言わない方が良いな……」

 彼らは耳が良いから、自分の名前をつぶやかれたと気がついて目を覚ましてしまう。そこで、寝返りを打って、寝転がり直した。しかし、目が冴えていて寝付けそうも無い。そこで、お茶でも飲んでくることにした。黒崎にも煎れてあげようと思った。

 ギシ。そっとベッドから抜けた出した。そして、アン達に気づかれないように寝室のドアを開けて廊下に出た。すると、昼間よりもずっと気温は低いが、熱気が襲ってきた。

「暑いなあ。冷たい紅茶を入れてこようっと。黒崎さん、何を飲むかな?」
「夏樹か?」
「そうだよ。俺だよ」

 書斎に近づいたときに、中から声を掛けられた。もちろん、黒崎の声だ。廊下にいるのは俺で間違いない。そこで、部屋のドアを開けて中を覗いた。すると、黒崎が片手で頭を掻いていた。寝ていたのだろうか。

「黒崎さん。寝ていたの?」
「ああ。少しだ。いつの間にか寝ていたようだ」
「この間の夕食会で飲みすぎていただろ。疲れが出てきたんじゃ無いの?」
「いや、楽しかったから、そんなことはない」
「そんなことはあるよ。エミリアさんが気にしていたよ。アレクシスさんもだよ。自分達に気を遣って、たくさんお酒を飲んだんじゃないかって言っていたんだ。そうなの?」
「楽しかったからだ。たしかに、飲み過ぎかもしれないな」
「あ、認めたね~。良い子、良い子……」

 部屋の中に入っていって、黒崎の頭を撫でてやった。そして、冷たい紅茶を入れてくるが、飲むかと聞いた。その答えは飲みたいだった。机の上を見ると、水の入ったタンブラーが置かれていた。冷えた水が入っているのだろう。

「冷えているやつだよね?温かい物を入れてあげようか?」
「冷たい物でいい。ペットボトルから出すだけだ。手間が無い」
「あんたの味覚が普通になって良かったよ。夜中にアイスティーを入れる身になってくれて嬉しいよ」
「お前に影響された。楽なのはいい。しかし、レストランではきちんと入れた物を出したい」
「そうだね」

 黒崎は今年に入るまで、ペットボトルの紅茶を飲まなかった。とても美味しいと思うのにだ。拓海さんとの紅茶の思い出があるそうで、懐かしいし忘れたくないから、紅茶を飲むときは茶葉から入れた物を飲みたがっていた。しかし、俺が便利だというから、俺に付き合ってくれるようになった。

「行ってくるよ」
「待て。聞いておきたいことがある」
「どうしたの?」
「正木さんのことだ。黙っていてすまなかった」
「いいよ。和久さんが内緒にしてくれって言っていたんだって知っているからさ。それにしても、世間は狭いね」
「晴海兄さんから聞いた。苦情を言われたそうだな。もちろん、お前に対してじゃないが。親父とこの家への恨み言だ」
「うん。はっきり言っていたよ。でも、仕方の無いことだと思うんだ。彼女が何人もいるなんて、どこかで恨んでいる人がいてもおかしくないよ」
「親父のことを嫌わないでやってくれ……。許してやってくれ……」
「黒崎さん……。分かっているよ。当時のお義父さんは今とは違う価値観だったんだ。今なって蒔いた種を刈り取っているんだ」

 黒崎が優しいことを言ったから嬉しくなったし、胸も痛くなった。黒崎こそ、お義父さんに恋人が何人もいる状況を嫌っていたはずだ。それなのに、許してやってくれなんて言えるなんて、すごい進歩だと思った。
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