785 / 938
22-52
しおりを挟む
さて、俺は紅茶を取りに行くことにしよう。黒崎を部屋に残して階段を下りていった。すると、下りた場所の窓にあるステンドグラスに目がとまった。これは俺の誕生日の時にプレゼントされたもので、きちんと磨いて管理している。しかし、音楽の仕事が忙しくなった後、家事の代行サービス会社に掃除を依頼するようになり、しばらく自分で磨いていない。
「なんだか罪悪感があるなあ。ごめんね。明日は君のことを磨くよ……」
ステンドグラスに向かって声を掛けた。そして、キッチンに入って冷蔵庫を開けた。すると、中にはよく冷えたペットボトル飲料が並んでいた。俺はその中から紅茶を取り出して、グラスに注ぎ入れた。
「ふんふんふん~。ららら~。紅茶のコマーシャルソング、ハマっているんだよねえ……」
今入れている紅茶のコマーシャルには歌が流れている。俺はその楽曲が好きで、キッチンにいるときには自然とハミングしてしまう。
――アンリ。
「え?どこから?」
すると、どこからか声がしてきて、アンリと名前を呼ばれた。まるで俺がアンリさんだと言われているかのような呼び方だった。この間、月島さんが教えてくれたのは、俺は過去世において、アンリさんの同僚だったという話だ。だから、アンリと呼ばれることには違和感がある。
「どうしてアンリって呼ばれたのかな?俺の名前、なんて言ったんだろう。それと、この声はどこから聞こえてくるのかな?……ヨーク、いるの?」
ヨークの名前を呼んだ。彼はどこにいても名前を呼べば来てくれる。そして、返事が返ってきた。今、宇宙船でお風呂に入っているところだという。だから、声だけしかしない。
「お風呂なんだね。さっき、アンリって呼ばれたんだ。誰かな?」
「……君の同僚の悪戯だよ。君とアンリはとても仲が良くて、いつも一緒にいたんだ。君の過去世での名前はシュリだ」
「へえーーー。全然覚えていないよ。ヨークってさ、カズ兄さんが寝ている間に宇宙船に帰ることが多いよね。その間はウーリが番をしているじゃん。当番制にしているの?」
「……ああ。決めてはいないが、自然とそうなっている。……ん?圭一だ。僕達に嫉妬している。ああ、怖い、怖い」
「そんなことないだろ~。あ、帰った。じゃなかった、いないんだった……」
「……夏樹。ヨークと話していたのか」
ヨークが言ったとおり、黒崎がキッチンに入ってきた。俺の話し声がするからだという。眉をひそめている。嫉妬しているということなのか。
「黒崎さん。嫉妬しているの?俺とヨークだよ。半分カズ兄さんみたいな人だよ」
「うるさい。独占させろ」
「仕方ないねえ。俺で良かったら持って行ってよ……」
黒崎が眉をひそめたままで俺の背中から抱きしめてきた。俺は紅茶の入ったグラスを持って、それを飲んだ。すると、ストレートティーの爽やかな匂いが広がった。そして、黒崎にさっきヨークから聞いたことを話した。俺の名前がシュリという名前だったことをだ。
「信じる?あんた、滅多に人を信用しないけど、壁をすり抜けてくる人を見たら、信じざるを得ないだろ」
「ああ、俺は人を信用しないと決めてあった。しかし、それだけじゃいけないと分かった。お前の影響だ」
「黒崎さん……」
「もう一度言う。親父のことを嫌わないでやってくれ」
「もちろんだよ。大丈夫だよ」
黒崎の腕の力が強くて、心を痛めているのが分かった。こういう時に俺が出来ることは、安心してもらうことだ。そのため、俺は彼の腕を掴んでさすった。俺はここにいると教えるためだ。
「あんたさ。俺がいなくなると思った?」
「ああ、思った。シュリという名だったと聞いた以上、お前に返る場所があることを実感した。行かないでくれ」
「あんたにも名前があったんだろ。ヨークに聞いてみようよ。それとさ。今から死ぬことを考えても仕方が無いなって思うんだ。でも、次の瞬間にお互いに死んでいるかも知れなくて、後悔がないように、伝えたいことを伝え合えたら良いなって思っているよ」
「……ばかやろう。死なんて訪れない」
「はいはい。分かったよ~」
駄々をこねる黒崎にため息をついて、俺は彼の腕を抱き返した。その身体は温かくて、生きていることを実感した。今の俺にはそれで十分だと思った。
「なんだか罪悪感があるなあ。ごめんね。明日は君のことを磨くよ……」
ステンドグラスに向かって声を掛けた。そして、キッチンに入って冷蔵庫を開けた。すると、中にはよく冷えたペットボトル飲料が並んでいた。俺はその中から紅茶を取り出して、グラスに注ぎ入れた。
「ふんふんふん~。ららら~。紅茶のコマーシャルソング、ハマっているんだよねえ……」
今入れている紅茶のコマーシャルには歌が流れている。俺はその楽曲が好きで、キッチンにいるときには自然とハミングしてしまう。
――アンリ。
「え?どこから?」
すると、どこからか声がしてきて、アンリと名前を呼ばれた。まるで俺がアンリさんだと言われているかのような呼び方だった。この間、月島さんが教えてくれたのは、俺は過去世において、アンリさんの同僚だったという話だ。だから、アンリと呼ばれることには違和感がある。
「どうしてアンリって呼ばれたのかな?俺の名前、なんて言ったんだろう。それと、この声はどこから聞こえてくるのかな?……ヨーク、いるの?」
ヨークの名前を呼んだ。彼はどこにいても名前を呼べば来てくれる。そして、返事が返ってきた。今、宇宙船でお風呂に入っているところだという。だから、声だけしかしない。
「お風呂なんだね。さっき、アンリって呼ばれたんだ。誰かな?」
「……君の同僚の悪戯だよ。君とアンリはとても仲が良くて、いつも一緒にいたんだ。君の過去世での名前はシュリだ」
「へえーーー。全然覚えていないよ。ヨークってさ、カズ兄さんが寝ている間に宇宙船に帰ることが多いよね。その間はウーリが番をしているじゃん。当番制にしているの?」
「……ああ。決めてはいないが、自然とそうなっている。……ん?圭一だ。僕達に嫉妬している。ああ、怖い、怖い」
「そんなことないだろ~。あ、帰った。じゃなかった、いないんだった……」
「……夏樹。ヨークと話していたのか」
ヨークが言ったとおり、黒崎がキッチンに入ってきた。俺の話し声がするからだという。眉をひそめている。嫉妬しているということなのか。
「黒崎さん。嫉妬しているの?俺とヨークだよ。半分カズ兄さんみたいな人だよ」
「うるさい。独占させろ」
「仕方ないねえ。俺で良かったら持って行ってよ……」
黒崎が眉をひそめたままで俺の背中から抱きしめてきた。俺は紅茶の入ったグラスを持って、それを飲んだ。すると、ストレートティーの爽やかな匂いが広がった。そして、黒崎にさっきヨークから聞いたことを話した。俺の名前がシュリという名前だったことをだ。
「信じる?あんた、滅多に人を信用しないけど、壁をすり抜けてくる人を見たら、信じざるを得ないだろ」
「ああ、俺は人を信用しないと決めてあった。しかし、それだけじゃいけないと分かった。お前の影響だ」
「黒崎さん……」
「もう一度言う。親父のことを嫌わないでやってくれ」
「もちろんだよ。大丈夫だよ」
黒崎の腕の力が強くて、心を痛めているのが分かった。こういう時に俺が出来ることは、安心してもらうことだ。そのため、俺は彼の腕を掴んでさすった。俺はここにいると教えるためだ。
「あんたさ。俺がいなくなると思った?」
「ああ、思った。シュリという名だったと聞いた以上、お前に返る場所があることを実感した。行かないでくれ」
「あんたにも名前があったんだろ。ヨークに聞いてみようよ。それとさ。今から死ぬことを考えても仕方が無いなって思うんだ。でも、次の瞬間にお互いに死んでいるかも知れなくて、後悔がないように、伝えたいことを伝え合えたら良いなって思っているよ」
「……ばかやろう。死なんて訪れない」
「はいはい。分かったよ~」
駄々をこねる黒崎にため息をついて、俺は彼の腕を抱き返した。その身体は温かくて、生きていることを実感した。今の俺にはそれで十分だと思った。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~
野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。
残念ながら話もできたし、触ることもできた。
様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。
そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。
厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。
きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。
それから五年。
地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。
真詞の運命が大きく動き出す。
人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半)
別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半)
・前半 巡(人外)×真詞
・後半 岬(人間)×真詞
※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。
※ キスを二回程度しかしないです。
※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。
※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる