青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 7月29日、金曜日。午前8時。

 エミリアさん達が来日して5日が経った。羽田空港国際ターミナルに到着したところだ。今日は午前中の飛行機でアレクシスさんがドイツに帰ってしまう。その見送りに来た。メンバーはお義父さんと二葉とユーリーとエミリアさん、晴海さんだ。晴海さんは昨日の夜からお義父さんの家に泊まっていて、アレクシスさんとの最後の夜を楽しんでいた。

 晴海さんとしては、昔は心の余裕がなくて、アレクシスさん達と同じ屋根の下に暮らしていたのに、ゆっくりお茶を飲む感じでは無かったそうだ。遊んだことはあったという。しかし、お互いに勉強ばかりだったし、お義父さんに連れられて食事に出かけていたから忙しく、遊んだのは数回のみという思い出だ。小さい子なのにテーブルマナーを教えられて、上手くできないといけないプレッシャーから食事が喉を通らず、随分と痩せた子供だったそうだ。今の晴海さんもスマートだが、筋肉質な身体をしており、健康そうに見える。

 アレクシスさんとは気が合っていたし、当時は拓海さんと食事の席で一緒になることが多かったから、色んな思い出があるそうだ。ユーリーは小さかったから覚えていない話も多くて、昨夜はアレクシスさんと晴海さんが盛り上がっていた。

「さあ、行くか」
「うん。荷物はこれで全部だね」

 アレクシスさんが荷物を持って、俺達に振り向いた。ダルダルのジーンズ姿ではなく、スーツを着ている。過去に入国審査で止められることがあったから、随分とてこずったそうだ。それ以来、飛行機に乗るときにはきちんとした格好をしていると言っていた。見た感じは怪しそうに見えないが、色んな人を見ている係の人からすると、引っかかるものがあるのだろう。

「夏樹。何を笑っているんだ?思い出し笑いだろう」
「あんたが入国審査で止められることを想像したんだ。カズ兄さんでさえ普通に香港には入れたし帰ってこられたのに、どうしてかなって思ったんだ」
「銃でも持っていると思われたんだろう。おかしいな。ユリウスはパスするのに、俺だけがそうなってしまう。圭一も止められたことが無いんだろう。あの人相なのにな」
「うひゃひゃひゃ。それ、帰ってから言っておくよ」
「俺はさっさとドイツに帰ることにする」

 そう言って、アレクシスさんが荷物のスーツケースを持って歩き出した。俺達もぞろぞろと後を付いていった。そして、チェックインと手荷物預かりカウンターのところまできて、お義父さんがここで別れようと言った。ギリギリまで一緒に居ると名残惜しくなるからだろう。

 アレクシスさん達が32年前に黒崎家からドイツに帰っていく日に見送りに行ったのは、お義父さんと拓海さんと晴海さんだったという。今、ここには拓海さんは居ない。それがとても寂しいことだと、昨夜、お義父さんが話してくれた。その時の会話も教えてくれた。
 
(拓海君。晴海君。隆叔父さん。どうかお元気で!拓海君、クッキーをありがとう。飛行機の中で食べるよ)
(アレクシス。いつでも手紙を書いておいで。俺の方からも出すからね。返事も書くし、書いてくれ。ほら、晴海、お別れを言え)
(また会う日まで、どうかお元気で)
(ありがとう。ユリウス、どこに行くんだ?隆叔父さんの方に立っても、お前のことをドイツに連れて行くんだぞ。母さん。ユリウスがまた駄々をこねそうだ。日本にいたいって……)
(僕、帰りたくない!母さん、日本にいようよ!)
(いけません。もう向こうでお父さんが待っているのよ……)

 その後、エミリアさんとソフィアさんはユーリーのことを抱き上げて、搭乗口へ向かったそうだ。アレクシスさんはしっかりとした表情で弟のことを諫めていて、なんて頼りになる子になったと感動したと、お義父さんが話していた。
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