青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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  すると、黒崎が書斎で電話をすると言い出した。俺が支度をする間、2匹の面倒を見て欲しかったのに。それに、俺達には秘密は無い。最近では、風林さんから電話が入ったときには俺の前で電話をしてくれていた。それなのに、まるで隠れるようにして書斎に行こうとするから、なんだか不審に思った。

「なんだよ。俺に隠し事?」
「そうじゃない。ここだと落ち着かないからだ。すぐに終わる」
「分かったよ。ごめんね。行ってきて」
「ああ。すまない」

 そう言って、黒崎が俺達を置いて、2階に上がってしまった。後に残された俺は寂しい気分だ。風林さんが悩みを抱えているのなら、黒崎に話すことで解決に向かうのなら、どんどん聞いてあげてもらいたい。しかし、なんだか黒崎がコソコソしているような気がして気になってしまう。これをヤキモチというのだろうか。

「なんだよ~。女の人からのメッセージカードの時と気分が違うじゃん。マジなヤキモチじゃん」

 黒崎が会食の席で女性からプライベートな連絡先を書いたメッセージカードを受け取る度に家に持って帰ってきている。俺に隠し事をしないためだ。そして、俺はそれを見てヤキモチを焼いて、しばらく口を聞かないでいる。持って帰ってこないで断るケースや、俺に分からないように処分するケースもあるとは思っている。その度に黒崎が俺の機嫌を取ってくる。洋菓子店のスイーツを買ってくるなどだ。

 そこで、俺の今のモヤモヤが何なのか分かった。風林さんと話す度に、黒崎が俺の機嫌を取ってこないからこうなっているのだと気がついた。しかし、やましい気持ちは全くないからその必要がないのだと思っているし、俺もそう思っている。しかし、ここにきて、気持ちのキャパオーバーが起きつつあるのだろう。

「ふん。後で機嫌を取ってもらおうっと……」

 そう決めた後、冷蔵庫から水を取りだして飲んだ。冷えた水が身体に染み渡り、少しだが、胃がキリキリした。これは症状が重いと思った。治すためには何をしてもらおうかと考えた。

「アン、アンドリュー。パパは2階に居るんだよ。浮気をしているんだ」

 言ってはいけないと思いながらも愚痴をこぼしてしまった。すると、アンが俺の足下で遊び始めて、ハンバーガーのオモチャを投げてくれと頼んできた。そこで、俺が軽く放り投げると、一目散に走り出した。そして、それをキャットタワーの上からのんびりとアンドリューが眺めており、俺の心とは正反対な平和な空気が流れている。

 さて、汗も引いてきたことだし、服を着ることにした。スーツでは無いが、きれいめの格好だ。白のシャツに黒のズボンを合わせることになっている。この格好を決定したのはIKUの方だ。衣装提供はプラセルだ。

 服は寝室から取ってきてある。ソファーの背に並べて掛けてある。その一つ一つを大事に着て、スタンドミラーの前に立った。俺の全体像が映る鏡だ。すると、髪の毛のセットはまだとは言え、なんだか俺の顔が沈んだ顔のように見えた。今の気持ちが表れているのだろう。

「これ、まずいな。気持ちの切り替えをしないとなあ……。ん?もう一回?」

 すると、アンが俺の足下にやって来た。さっき放った分で一人で遊んでいたのに、気持ちが伝わったのか、遊ぼうと言って、オモチャを差し出してきた。俺はその姿に胸がキュンとした。

「アン、ありがとう。俺なら大丈夫だよ。えい!放ってあげる」

 コロコロ。俺がもう一度軽く放ったオモチャが床に転がった。しかし、アンは追いかけていかずに、俺のそばに居て、見上げている。すると、アンドリューまでそばに来た。

「なんだよ。二人とも。俺が元気が無いからだろ~。そんなことはないよ~。もうすぐでパパが下りてくるからさ~。あ、下りてきた」

 噂をすれば影がさすということなのか、黒崎が2階から下りてきた。そして、アン達が俺のそばに集まっていることに心配そうな顔になった。そして、何かあったのかと聞いてきた。

「あんたが2階に行ったから、俺、ヤキモチを焼いたんだ。そしたら、アンとアンドリューがそばに来てくれたんだよ」
「ヤキモチなんか必要ない。すまなかった。込み入った話をしていた」

 黒崎が俺のことを抱き寄せて、頰にキスをした。いつもの黒崎だ。機嫌を取ってこようとしている。しかし、俺はモヤモヤしっぱなしで素直になれなくて、機嫌が悪いまま、出発の時間が来てしまった。
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