青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 そこで、ヨークのことを紹介しようかと思った。しかし、それはできないと思った。水端さんが彼の姿を見られたなら信じてもらえるだろうが、何も言っていないから言わない方が良いと思った。

(でも、言った方が良いかも。結構周りの人は知っているんだ……)

 水端さんは優しいから、否定すること無く話を聞いてくれるだろう。そんな気がしている。今もポーッとした顔で一貴さんのことを見ている。さっきまでと顔が違う。それは一貴さんも同じで、ヨークそのものになっている。やっぱり水端さんが好きになったのはヨークだと思った。

「ヨーク。話しても良いんじゃない?なんちゃって……」

 一貴さんになっているヨークに話しかけた。しかし、何も返事を返してこない。美しい作法でブイヤベースを飲んでいる。そして、とても美味しいと言って微笑んだ。その微笑みはかっこよくて、水端さんが蕩けるような顔になった。

「一貴社長ーー。やっぱり僕のことを驚かせようとしていたんでしょう。人が悪いなあ。あ、もしかして、わざとやっていたんですか?僕に嫌われようとしていたんでしょう」
「そんなことはない。家の中モードだったんだよ」
「そんなことありますって。キャーーー!かっこいい!」
「あちゃーーー……」

 一貴さんがナプキンで口元を拭いた。それだけで水端さんが悲鳴を上げた。これはもうヨークを見てかっこいいと言っているのが確定だ。そして、ヨークにはその気はないということも確定したのだと思った。

 水端さんがヨークの姿を見られたら良いのだが、人によって違いがあり、見られる人とそうでない人がいる。俺だって見られるようになったのは最近だ。それも、ウーリが掛けた魔法によって見られるようになった。ウーリは水端さんに魔法を掛けてくれないだろうか。

「ウーリ。見せてあげてよ。なんちゃって……」

 一貴さんの中にいるウーリに話しかけた。しかし、また返事が無い。すると、ピザが運ばれてくるだろうと言い出した。みんながブイヤベースを食べた後だからだ。そして、俺の方を見た。俺は食べるのが遅れていて、半分ぐらい残っている。

「いけない。俺、全然食べていなかったよ~」
「慌てることは無い。ゆっくり食べろ」
「そうだね。こんなに美味しいのに、アツアツで食べれば良かったよ」
「すまない。僕の面倒を見ていたからだ」
「あ……」

 一貴さんから見つめられた。その顔は優しくてかっこよくて、いつもの一貴さんでは無かった。ヨークが遊んでいるのだと思った。その証拠に、水端さんが顔を赤くしている。俺だって顔が赤くなりそうになった。そこで、この人は一貴さんであり、ヨークなのだと思い直して心を整理した。

「カズ兄さん。どうしたんだよ。急にさ~。会社モードではそんな感じなの?」
「これが僕だ。会社での僕を見たいと言っていたじゃないか。どうだ?」
「かっこいいと思うよ。テーブルマナーも良くてさ……」
「キャーー!かっこいい!」

 水端さんがもう一度悲鳴を上げた。ヨークがナプキンで俺の口元を拭いてくれたからだ。汁が垂れてきていたのだという。これではさっきと反対だ。俺が世話を焼かれている。一貴さんの姿でそうされると落ち着かない。

「カズ兄さん。俺、落ち着かないよ~。ヨーク、言っても良いんじゃない?なんちゃって……」
「こういう僕は面白いだろう。面白いままがいい。もう少し続ける。ピザも食べたい。ビールも飲みたい。ああ、しまった。トイレに行きたくなった」
「場所は分かる?」
「分かるよ。水端君。失礼するよ」
「はい!いってらっしゃい!」

 水端さんが顔を赤くしたままで微笑んだ。それに対して一貴さんは微笑み返しをして、席を立った。いつもの一貴さんならこういう時にお皿をひっくり返すか椅子を倒すのに、そんなことはなくて、かっこよく立ち上がった。そして、トイレに行った。
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