青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 俺はそれを見て、ほろりと涙が出そうになった。不器用なのは本人の責任では無く、本人だって乗り越えたいと思って頑張っている状況だ。そんな人を笑って見ているなんて嫌だ。しかし、水端さんは優しい笑顔を向けてくれる。一貴さんは、こんなにいい人のことをないがしろにしたのか。

「カズ兄さんさ。水端さんと二人で食事に出かけろよ~。いい人じゃん」
「そういうわけにはいかない。僕に対して恋愛感情を持っているなら、避けるべきだ。僕だって自分に好意を向けてくれる人を放っておけない。そこで、間違いが起こるといけない。僕は修輔君が好きなんだ」
「なるほどねえ。求められたら弱いってやつか~。でも、聖河さんにアタックしているみたいだよ?」
「いいのか?ローザー君が可哀想だ」
「別れた2人だからねえ。聖河さんの束縛男ぶりさえなかったら付き合っていたのに……」

 すると、また一貴さんがハマグリの貝殻をテーブルの上に落とした。それをナプキンの上に置いて、全部で6個の貝殻が乗せられている。そして、六槍さんの前からビールグラスを取って、ビールを飲み始めた。

「全部飲んだ」
「おかわりを入れてあげるよ。はいはい」
「どうもどうも」
「僕が入れたいです!」

 俺がテーブルの上に置いてあるビール瓶からビールを注ごうとすると、水端さんが立ち上がり、ビール瓶を手に取った。そこで、一貴さんがビールグラスを彼の方に向けた。そして、和気あいあいとした空気の中、ビールが注がれた。

「どうもありがとう」
「これぐらいはさせてください。一年前の会食を思い出しました。料亭での会食でした。ピンと張り詰めたような空気感の中、あなたが完璧な作法で食事をするものだから、僕、すごいなって思っていたんです。今日は家の中モードってやつですか?」
「ああ。そうなんだよ。夏樹君がいると家の中のようだ」
「やっぱりそうだったんですね。前と大違いだ。まるで別人です」
「ごほ、ごほ……」

 一貴さんが注がれたビールをグッと飲んだ後でむせかえった。事情を話せたら良いのだが、やっぱり信じてもらえないだろうと思うと躊躇してしまう。そして、飲み干したビールのおかわりを水端さんが注いでくれたとき、一貴さんがグラスを傾けすぎてしまった。

「おっと……、すまない」
「おっと……。もしかして、僕に緊張していますか?狙っていたからでしょう。知っているんですよ。もう一人いたメンバーに声を掛けたことを。岡田君です。プライベートな連絡先を教えていたでしょう。デートに誘っていましたよね」
「ごほ、ごほ……」

 今度は俺がウーロン茶にむせかえる番になった。一貴さんは狼狽えていない。それどころか、にこやかな対応という感じでビールを注いでもらい、ぐぐっと飲んだ。なんだかおかしい。落ち着きすぎだと思った。そこで、ヨークが来たのだと分かった。しかし、姿は見えない。

「ヨーク、いるの?なんちゃって……」

 一貴さんに向けて話しかけてみると、俺の方を見てニコッと笑った。その顔はウーリだと思った。悪戯好きな彼が来たということは、何かしそうだ。そう思ってドキドキしていると、急に一貴さんの動作が流れるようになった。そして、美しい手つきでブイヤベースのエビを食べ始めた。これはヨークだ。

「あれ?一貴社長。会社モードですか?」
「ああ。ビールを飲んだから気持が切り替わったよ。今日は会食の席だ。家の中モードはまずい」

 一貴さんがにこやかに対応を始めた。水端さんが驚いた顔をしている。俺も驚いた。こんなに違いがあるのかと思ったからだ。そして、一貴さんがまたビールを飲み干した。どんどん飲んでいる。そして、水端さんがスタッフさんにビールのおかわりを頼んでくれて、すぐに届いた。

「一貴社長。どんどんいきましょう」
「ありがとう。君は飲まないのか?」
「もちろん、僕も飲みます。今、グラスを空けますね」

 そう言って、水端さんがグラスのビールを飲み干した。そこで、一貴さんがビール瓶を持って水端さんに差し出して、彼のグラスに注ぎ入れた。その動作も流れるようであり、こぼすなんてあり得ない程だと思った。水端さんがまた驚いている。

「一貴社長。さっきまでのことは僕を驚かせようとしていたんじゃありませんか?」
「そうでもない。恥ずかしいところを見せてしまったね」
「わあーーー、懐かしいなあ。一年前のあなたです。こうやってビールをついでくれましたね!」
「そっか……」

 その席ではヨークがいたに違いないと思った。ということは、水端さんが好きになったのはヨークでは無いかと思った。こういう場合はどうなるのだろう。恋愛するのは一貴さんだというが、相手が見ているのは違う人になる。
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