青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 カタン。家の中に入ると、アンがリビングに駆けていった。そして、山崎さんが出迎えてくれた。お昼ご飯の支度の途中だろう。さっそく俺は保存容器に入れた厚焼き玉子となすの煮浸しを渡して、みんなで食べてもらうお菓子を渡した。

「マリーズカフェで買ってきたんだ」
「ありがとう。みんな喜ぶわ」
「山崎さんが好きなクッキーの大袋入りがあったから、入れておいたからね。プレーンが好きだったよね」
「ええ。こんなにたくさん、いいのかしら」
「いいんだよ。食べてよ。アンドリューの世話までしてくれているんだ。いつもありがとう」

 俺達が留守の時はこの家に2匹を預けている。お義父さんやユーリーが面倒を見てくれてくれるが、山崎さん達が食事の支度をしてくれている。何かお礼が出来ないかと思っていたところだった。ささやかだが、お菓子しか思いつかなかった。

 さて、俺達は料理を預けた後、リビングに向かった。すでにアンが到着しており、月島さん達に身体を撫でてもらっているところだった。やっぱりお客さんが来ているのが分かっていたようだ。

「月島さん。紫乙さん、ルーク、いらっしゃい。お昼ご飯はキチン南蛮だよ。厚焼き玉子となすの煮浸しも食べていってよ。なすは俺が育てたやつなんだ」
「そうなのか。ありがとう。急に来たのにお昼ご飯まで用意してもらって悪いよ。でも、ここの食事は美味しいから、お腹を空かせてきて良かった」
「うん。月島さんもチキン南蛮が好きだって、ユーリーから聞いているよ。紫乙さんも好きなんだよね?」
「ええ。大好きよ。しばらく食べていなかったわ。会社の近くのお弁当屋さんが閉店して、そこのキチン南蛮弁当が食べられなくなったから……」
「そうなんだね。周りに会社がたくさんあるけどね」
「おじいさんが年を取って、もう引退するんだって聞いたわ。跡継ぎはいなかったそうよ。でも、知り合いの人がお店を出して、雑貨店になっているわ」
「そうなんだね。シャルロットキッチンのカレーキチン南蛮も、また食べに行ってよ。3号店もオープンするんだよ」
「ええ。あれ、美味しかったわ。お兄ちゃんってば、3種類も食べたのよ」
「うっうっ。そんなに食べてもらえて嬉しいよ。小食男子をターゲットにした店だから、本当に小食の男の人が食べに来るんだ。でも、正直に言うと、たくさん食べる人も来て欲しかったんだ。来月からは、カレーキチン南蛮のソースに変化があるよ。カレーの味をまろやかな物に変えるんだ。今月はスパイシーだったからね」
「そうなのか。ユリウス君、一緒に行こう」
「いいよ。僕の怖い運転で行こう」

 ユーリーが微笑んだ。何かあったのだろうか。危ないことがあったのだろうか。そこで、話を聞いてみると、月島さんが車の中でユーリーのことを口説くから、運転に集中できなくて、一旦、コンビニの駐車場で休憩したそうだ。

「月島さんが悪いんじゃん。でも、ユーリー。本当にそういうことをされたのかよ?」
「ああ、された。こうやって今までの人にも言っていたんだと思うと、感慨深かったよ」
「ふうん。どんな口説き方?」

 人のそういう話に興味があるのが俺だ。大学時代は絵理奈ちゃんから教えてもらう恋バナに興味津々だった。今はそれが聞けなくなっているから、しばらくそういう話から遠ざかっていた。バンドメンバーも恋の話をしない。大和と琉芯には好きな人がいないから、そういう話が聞けない。

 さっそく俺がユーリーの隣に座ると、彼が手を握った。こういうことをされているそうだ。そこで、なるほどと思った。親友の距離を取るといいつつも、こういうことをするのか。だから、俺もユーリーの手を握り返した。そこで、黒崎の方を見ると、やめておけと言われた。月島さんが恥ずかしそうにしているからだ。紫乙さんは呆れたと言っている。

「紫乙さん。そんなことはないよ。ユーリーだって、口説いてもらえなかったら寂しいと思うんだ」
「でも、もう友達ってことなのに……」
「いやいや、いいんだよ~」

 俺はユーリーに話の続きを促した。そして、甘い口説き文句を期待した。すると、ユーリーが月島さんが可哀想だと言い出して、言うのをやめてしまった。そこで、俺は寸止めを食らってしまい、言ってよと言って、ユーリーにすがりついた。
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