青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ほんの冗談で口にしたことなのに、ここまでされる覚えは無いと思った。そこで、黒崎の手を取ってこっちに引っ張った。仕返しだ。

「黒崎さん、酷いよ。ほんの冗談だったのに」
「本気で言っていただろうが。おっさんなんで言われる筋合いは無い。お前も同じだ」
「どこがだよ?俺、まだ23歳だよ。あんたは38歳。この年齢差をなんて言うんだよ?おっさんと青年じゃん」
「何度も言うな」
「いてててて。いひゃい。やめろって。いひゃいよーーー」

 黒崎がもう一度俺の頰をつねり、声を上げたことで、南波さんたちがこっちを向いた。聞こえてしまったのだろう。最近の俺は特に声が大きくなったからだ。そこで、黒崎からおっさんだと言われたのは、それが関係しているのかと思った。

「俺がおっさんだっていうのは、声の大きさ?」
「それだけじゃない。行動そのものだ。風呂上がりにソファーに寝転がるところがおっさんだ」
「それぐらい誰でもしているよ~。あ、食べた後で寝転がることもかよ?それも、誰だってそういう時があるよ。なんだよ、黒崎さん。ギックリ腰をやったくせに」
「うるさい」
「もうつねられないからね~」

 俺はユーリーの後ろに隠れた。腰痛を起こした人を強引にどかすことなど出来ない黒崎が立ち止まった。こういうところは優しい。ユーリーは、やれやれといった感じで笑っている。

「圭一。そこまでにしておこう。キャンプ予定地まで行こう」
「そうだな。もう荷物は無いのか」
「ないみたいだね。車のドアを閉めているもん」

 全ての物が運び出されたようだ。向こうでは、南波さんが荷物を広げて、三脚を取り出した。そして、スマホをセットし始めた。動画配信の生中継をするのだろう。今回も俺は声だけしか出られない。前回は半分だけ顔を出したが、ほんの少しだった。今回は顔を出さないようにする。事務所との約束だ。俺はなんせ誤解を与える発言が無くならないから、今もまだその対応策を取っている。

 南波さんのそばに行くと、さっそく配信を始めていた。スマホカメラに向かって話しかけており、さっそくしてくれたコメントに一つ一つ答えている。そこで、俺もスマホを取り出した。南波さんの放送を見るためだ。

「……みんな、おはよう。もうこんにちはって時間だけどね。今日は都内某所でキャンプをするよ。え?どこかで見たことがある場所だって?木に見覚えがあるの?すごいね。こっちにあるのは夏椿の木だよ。え?嘘?適当に答えただけ?ははは。そうだよね。木だけで分かるってすごいよね。あ、分かる人が居るんだね。あ、黒崎製菓の家?ははは。さあ、どこかなーーー」
「うちだって分かっているみたいだね」

 南波さんの番組のコメントを読んでいくと、ナツキの家というコメントを見つけた。それに対して南波さんが笑って誤魔化した後、テントを立てる作業に入った。視聴者の人達はこれも楽しみにしているそうだ。のんびりと、そして、テキパキと組み立てられるテントを見て、心が癒やされるそうだ。

 南波さんは普段はお祖父さんの住んでいる山でキャンプをするから、時々、鳥の鳴き声が聞こえるそうだ。この庭にも鳥が居る。しかし、近くには居ないようで、鳴き声が聞こえてこない。聞こえたら、リラクゼーション効果が増したのに。

「うーーん。居ないみたいだなあ。あ、月島さん。かっこいい」
「ははは。僕もテントを組み立てられる」
「ヒョーーー。今日のユーリーは大人しくしないといけないね」

 月島さんが南波さんの作業を手伝い始めた。なんだか息が合っていて、ささっとテントが立ち上がってきた。二人でやると早いのだろう。月島さんが流れるように作業を進めていき、南波さんが笑顔を浮かべた。

「月島さん。ありがとうございます。おかげで早く立てられそうです」
「人手はあった方が良い。テントを立てた後は昼食だ。ここで食べるのか?」
「いえ。おうちにお邪魔して食べようと思っています。カメラも中に入れて、中継します」
「そうか。お腹が空いただろう。急いで立てるからね」
「ヒョーーーー」

 思わず声を上げた。月島さんがさっとテントを立ち上がらせたからだ。もう出来上がっている。こんなに早いということは、月島さんもキャンプに行っているのだろうか。イメージには無い。どちらかというとインドア派に見える。静かな部屋の中で本を読んでいるイメージだ。

「月島さんもキャンプをするの?」
「いや。僕はしない。恥ずかしい話だけど、昔狙っていた子がキャンプが好きで、ついて行っていたんだ。そこでテントの立て方を覚えた。ははは」
「そうなんだね。……ユーリー。そうなんだって。知ってた?」
「いや、聞いたことはない。そうか。好きな子が居たのか……」
「ふうん……」

 ユーリーの言葉が消えるようだったから、良い感触だと思った。つまりはヤキモチだ。今だって南波さんと仲良くテントを立てている。お互いに微笑み合ってやっている。イチャイチャしているという感じもある。
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