青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 俺は如月常務に3回会ったことがある。2回はコンサートの控え室に来てくれた時だった。1回はこの家だ。飲み会の後で酔っ払った一貴さんを送ってきてくれたときだった。それぞれの印象はごく普通といった感じだった。とても10人も恋人候補者がいる人に見えなくて、一貴さんからその話を聞いた先月は驚いてしまった。

 一貴さんと如月常務はプラセルの中ではいい関係を築いているそうだ。プラセルの社長としては一貴さんは失敗をせず、完璧な社長といった感じでデスクに座っている。実はおっちょこちょいな人だということはバレている。

 それは如月常務だけではなく、部長や他の役員も知っていることだ。それを公表したのは、この家に住み始めて、少し経ってのことだ。一貴さんがお義父さんと敵対視ながらも同居していた時期を乗り越えて、居間の関係に落ち着いたときに、実はそそっかしいところがあるのだと打ち明けて、プラセルの好感度アップ作戦を打ち立てて、現在に至る。何かと放っておけない姿を見せてもみんな去って行くことはなくて、支えてくれている。そんな中の1人が如月常務だ。一貴さんが業界で嫌われていたときに、わざわざ自らも嫌われ役をしてくれた人で、彼も好感度を上げた方が良いそうだ。しかし、まずは社長からということで、目立つことをせずに、ずっと嫌われ役でいてくれている。

 そこで、一貴さんが如月常務のことを話し始めた。元気にしていることと、最近の男性との交際歴のことを話してくれるそうだ。

「お父さん。如月常務は相変わらず10人の男性と交際しています。出張の土産は10人分です。来年は僕とイチゴ狩りに行きたいそうで、恋人候補者も連れて来たいと言っています。……農園の社長と懇意になりまして、その関係です」
「そうか。行って来るといい。しかし、先だろう。もっと手前で出かけたらどうだ。秋になったら栗拾いが出来る。いってきたらどうだ。忠明の知り合いに農園を経営している人が居る。都内からそう遠くない場所にある」
「そうですか。栗拾いでしたら、大勢で行っても狭苦しくないですね。如月常務はインドア派に見えて、アウトドア派なんです。キャンプにも興味を持っていて、南波君の放送にも注目しています。この間、見たと言っていました。可愛らしい青年が映っているから、目が釘付けになったそうです。今日の放送も見ると言っていました」
「そうだろうな。ははは。南波君。如月常務が見ているから、配信を付けてくれないか?」
「はい!そうします」

 お義父さんが微笑みかけて、南波さんが頷いた。そして、配信が再開された。南波さんがスマホに向かって話し始めて、ちょっとトラブルが起きて、急に配信をやめたことを説明した。今は解決に動いており、家の主の勧めで配信を再開したことも説明した。

「……みんなーーー。お昼ご飯を食べるからね。あ、聞こえていたの?警察って……。えーーっとね。この家の人の友達が警察から事情を聞かれていて、その人と連絡を取っていたんだ。それで、その友達のそばに行こうってことになって、飛行機を手配しているところなんだ。僕はここに残るよ。何があったかって?ごめん。それは言えないんだ」
「二葉、飛行機が取れたかな……」

 キチン南蛮を食べながら、二葉の部屋の方向を向いた。みんなそれぞれ昼ご飯を再開させている。南波さんの放送も再開されて、元通りの空気感に戻っていった。黒崎は手早く昼ご飯を食べ終えてしまった。食べるのが速い人だが、今日は特に早かった。ゆっくりしていられないからだ。

「夏樹。二葉の部屋に行って来る。明日まで留守にするが、ここで待っていてくれるか?」
「もちろん大丈夫だよ。カズ兄さんもユーリーも居るから、安心して行ってきてよ。時間があれば、お父さん達の家にも寄ってよ」
「ああ、そうさせてもらう。勝手に決めてすまない」
「何言っているんだよ。二葉を1人で行かせない方が良いから、あんたが付いていくことは賛成だよ。志乃さんだって、うちのお父さんだって、あんたが来てくれたらホッとすると思うんだ。ん?カズ兄さん、どうしたの?」

 俺が黒崎と話していると、一貴さんに電話が掛かってきた。そして、顔がこわばっている。漏れ聞こえてくる話から、相手は六槍さんだと分かった。そして、モデルが逮捕されたという言葉も聞こえてきた。この間の人だろうか。朝陽が代理でモデルを務め事になった原因になったモデルさんだ。また逮捕されたということか。

 そして、俺達が一貴さんの話を待っていると、今から行くと言って、電話を切った。そして、みんなから見つめられて、何があったのかを話してくれた。オンライズの元モデルさんが逮捕されたのでは無く、別の人だった。着物のショーと広告に出てもらうモデルさんが麻薬所持で逮捕されたということだった。ショーは1週間後であり、広告はもう出来上がっていて、3ヶ月後に発表されるそうだ。オンライズの時よりもまだスケジュールに余裕がある方だが、代替えのモデルを探すために、至急、会社に集まることになったそうだ。

「お父さん。行ってきます」
「一貴。慌てるな。車で行かずに、タクシーを使いなさい」
「はい。六槍君が手配してくれました。もう着きます」

 一貴さんが立ち上がった。対応策を練るために、もう社長の顔になっている。そして、月島さんに挨拶をした。今日はゆっくり話したかったが、また席を設けたいと。それには月島さんが頷き返して、10分後に到着したタクシーに一貴さんが乗り込み、出発した。
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