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ところで、志乃の母親が息子の妻に助けを求めたという話を聞いてある。彼女が母親のアパートに来たかどうかは不明だ。志乃が警察車両に乗って居る間には来ていないそうだ。そして、電話を掛けても出ないのだという。しかし、一度しか電話を掛けていないそうで、中山の義父が、もう一度かけるように言った。そして、兄にも掛けろという。
「分かりました。……あ、繋がった。もしもし。お義姉さん。お母さんのことで聞きたいことがあって……」
「……」
志乃が兄の妻と電話で話し始めた。今いいかしら、私、忙しい時間にごめんね。そんなごく普通の言葉しか出ていない。それなのに、志乃の表情が曇った。兄の妻から、話せることはないと言われたそうだ。
「もしもし、お義姉さん。どうして?お母さんから電話が入ったんでしょう?え?お父さん?お父さんはここにいるわよ。お父さんが?何を言っているかって?」
「……」
話の流れから察しが付いた。兄の妻は志乃に話すことは何も無いのでは無く、彼女は彼女なりの意図があって発言しているのだと。元から志乃の味方では無いのだろう。母親側についていると察した。そして、父親のことを気にしている。父親がどういう動きをするかが気になっている。志乃のことは眼中にないのか。いや、そうではない。父親の動き次第で、彼女の中での志乃の立ち位置が変わるのだろう。
そこで、俺が口を開きかけてやめた。こちらも何も話すことはないと言えと言いそうになったからだ。しかし、ここには志乃の父親が居る。俺が前面に出ることは避けたい。中山の義父もいる。隣に居る二葉は焦れているようだ。自分が何か言ってやりたいという顔をしている。やはり、1人で来させないで良かったと感じた。
「お父さんとおばあちゃんとで話をしているの。お母さんの様子はどうかって聞こうと思って。お父さんは明日の法事に出るって言っているわ」
「……志乃さん。お父さんが何を言っているかは言わないように」
「はい。……もしもし、お義姉さん。お母さんの様子が聞きたかっただけだから。じゃあ」
志乃が中山の義父からのアドバイスを受けて、兄の妻との電話を終えた。そして、次は兄に電話を掛けた。こちらも一度かけたが出なかったという。兄の妻がそばに居るかも知れないが、1人で部屋にこもっているかも知れないという。そして、電話が繋がった。
「……もしもし、お兄ちゃん。私。お母さんのことで聞きたいことがあって……。え?うるさいって?何を喧嘩売っているのよ。お父さんがどうしているかって?言う必要ないわ!」
兄から“うるさい”と言われたそうだ。そして、兄もまた妻と同じく、父親のことを気にしている。どちらも志乃の話を聞こうとしないのか。この様子から察するに、母親のことは聞いてあるのだろう。俺は兄の態度に苛立ってきた。黒崎家として出来ることがある。それを使わせてもらう事に決めた。
「お兄ちゃん。もういいから切るわよ。じゃあ……」
志乃が電話を終えた。ここまで聞こえてくる兄の剣幕だった。声の大きいタイプらしい。しかし、志乃から聞いた印象では、非常に大人しい性格をしているようだった。地元の高校に進学後、不良グループから絡まれたことをきっかけにして不登校になった後で退学したというからだ。絡まれたのはただ一度だ。たばこを吸わないかと誘われたそうだ。そこで仲間に入れば良かったのかもしれない。たばこは吸わずにだ。しかし、母親の言うとおりに誘いを断り、格好を付けていると言われて、殴るぞとまで言われたそうだ。可哀想だと思うが、家に帰ったら志乃に八つ当たりしていたというから、同情ができない。
兄は母親の言うことは何でも聞くそうで、父親の顔色も窺うタイプだと断定した。しかし、北岡家の父親は育ての親であり、本当の父親では無く、関係が壊れている。それは、13歳の時からの別居だ。それでも“お父さんは”と質問して気にするのはどうしてだろうか。別居という形で自分のことを捨てた育ての父親を慕っているのか。そして、志乃への態度はどうしてだろうか。お前さえ生まれなければ自分は北岡家の息子で居られたのだと言いたいのだろうか。愛情など欠片も無い態度だ。
志乃が悲しそうな顔で俺達の顔を見た。こんな兄貴と縁を切れないとは、血縁関係というのは厄介だと思った。一生続く縁だ。知り合いに、35年間兄弟と会っていない男がいる。それでも、病院への入院時や、店の出店時の保証人などに兄弟の名前を書くのを求められることがあったそうだ。存在するだけの兄弟でも、そうなる。仲が良い兄弟なら、神に感謝するレベルなのか。
さて、俺は志乃の表情から申し出を口にするタイミングだと察した。俺の方から話したいことがあると口にすると、全員が俺の方を見た。
「提案したいことがあります。黒崎家からの協力です。志乃さんのお母さんは息子の言うことなら聞くらしいですね。密な親子関係だと推測しています。まるで志乃さんがいないかのようだ。また、息子は息子でお母さんの言うことを聞く。そこで、息子さんの自動車関連の職場に働きかけをさせて下さい。人事に関係する役員の1人を知っています。昇格するかどうかは息子さん次第です。お母さんに二度と警察を呼ばせないようにさせられたらの話ですが……」
「……」
さすがに志乃の父親と祖母が驚いていた。そこまでしていただくわけには。そういう言葉を向けられたが、これは効果のある対策だと思う。志乃の母親と話し合いをしたとしても、進展は無いかも知れない。そして、離婚に向けての別居中だと言うが、母親の方が離婚には応じず、このままの関係が続いていく可能性がある。
それならば、息子を利用させてもらう。これが志乃と二葉との友情と、これまでの礼の一部だ。どうしても受け取ってもらいたい。俺も父の名前を出して、これから後、30分掛けて説得し、ツテを使う同意を受け取った。
「分かりました。……あ、繋がった。もしもし。お義姉さん。お母さんのことで聞きたいことがあって……」
「……」
志乃が兄の妻と電話で話し始めた。今いいかしら、私、忙しい時間にごめんね。そんなごく普通の言葉しか出ていない。それなのに、志乃の表情が曇った。兄の妻から、話せることはないと言われたそうだ。
「もしもし、お義姉さん。どうして?お母さんから電話が入ったんでしょう?え?お父さん?お父さんはここにいるわよ。お父さんが?何を言っているかって?」
「……」
話の流れから察しが付いた。兄の妻は志乃に話すことは何も無いのでは無く、彼女は彼女なりの意図があって発言しているのだと。元から志乃の味方では無いのだろう。母親側についていると察した。そして、父親のことを気にしている。父親がどういう動きをするかが気になっている。志乃のことは眼中にないのか。いや、そうではない。父親の動き次第で、彼女の中での志乃の立ち位置が変わるのだろう。
そこで、俺が口を開きかけてやめた。こちらも何も話すことはないと言えと言いそうになったからだ。しかし、ここには志乃の父親が居る。俺が前面に出ることは避けたい。中山の義父もいる。隣に居る二葉は焦れているようだ。自分が何か言ってやりたいという顔をしている。やはり、1人で来させないで良かったと感じた。
「お父さんとおばあちゃんとで話をしているの。お母さんの様子はどうかって聞こうと思って。お父さんは明日の法事に出るって言っているわ」
「……志乃さん。お父さんが何を言っているかは言わないように」
「はい。……もしもし、お義姉さん。お母さんの様子が聞きたかっただけだから。じゃあ」
志乃が中山の義父からのアドバイスを受けて、兄の妻との電話を終えた。そして、次は兄に電話を掛けた。こちらも一度かけたが出なかったという。兄の妻がそばに居るかも知れないが、1人で部屋にこもっているかも知れないという。そして、電話が繋がった。
「……もしもし、お兄ちゃん。私。お母さんのことで聞きたいことがあって……。え?うるさいって?何を喧嘩売っているのよ。お父さんがどうしているかって?言う必要ないわ!」
兄から“うるさい”と言われたそうだ。そして、兄もまた妻と同じく、父親のことを気にしている。どちらも志乃の話を聞こうとしないのか。この様子から察するに、母親のことは聞いてあるのだろう。俺は兄の態度に苛立ってきた。黒崎家として出来ることがある。それを使わせてもらう事に決めた。
「お兄ちゃん。もういいから切るわよ。じゃあ……」
志乃が電話を終えた。ここまで聞こえてくる兄の剣幕だった。声の大きいタイプらしい。しかし、志乃から聞いた印象では、非常に大人しい性格をしているようだった。地元の高校に進学後、不良グループから絡まれたことをきっかけにして不登校になった後で退学したというからだ。絡まれたのはただ一度だ。たばこを吸わないかと誘われたそうだ。そこで仲間に入れば良かったのかもしれない。たばこは吸わずにだ。しかし、母親の言うとおりに誘いを断り、格好を付けていると言われて、殴るぞとまで言われたそうだ。可哀想だと思うが、家に帰ったら志乃に八つ当たりしていたというから、同情ができない。
兄は母親の言うことは何でも聞くそうで、父親の顔色も窺うタイプだと断定した。しかし、北岡家の父親は育ての親であり、本当の父親では無く、関係が壊れている。それは、13歳の時からの別居だ。それでも“お父さんは”と質問して気にするのはどうしてだろうか。別居という形で自分のことを捨てた育ての父親を慕っているのか。そして、志乃への態度はどうしてだろうか。お前さえ生まれなければ自分は北岡家の息子で居られたのだと言いたいのだろうか。愛情など欠片も無い態度だ。
志乃が悲しそうな顔で俺達の顔を見た。こんな兄貴と縁を切れないとは、血縁関係というのは厄介だと思った。一生続く縁だ。知り合いに、35年間兄弟と会っていない男がいる。それでも、病院への入院時や、店の出店時の保証人などに兄弟の名前を書くのを求められることがあったそうだ。存在するだけの兄弟でも、そうなる。仲が良い兄弟なら、神に感謝するレベルなのか。
さて、俺は志乃の表情から申し出を口にするタイミングだと察した。俺の方から話したいことがあると口にすると、全員が俺の方を見た。
「提案したいことがあります。黒崎家からの協力です。志乃さんのお母さんは息子の言うことなら聞くらしいですね。密な親子関係だと推測しています。まるで志乃さんがいないかのようだ。また、息子は息子でお母さんの言うことを聞く。そこで、息子さんの自動車関連の職場に働きかけをさせて下さい。人事に関係する役員の1人を知っています。昇格するかどうかは息子さん次第です。お母さんに二度と警察を呼ばせないようにさせられたらの話ですが……」
「……」
さすがに志乃の父親と祖母が驚いていた。そこまでしていただくわけには。そういう言葉を向けられたが、これは効果のある対策だと思う。志乃の母親と話し合いをしたとしても、進展は無いかも知れない。そして、離婚に向けての別居中だと言うが、母親の方が離婚には応じず、このままの関係が続いていく可能性がある。
それならば、息子を利用させてもらう。これが志乃と二葉との友情と、これまでの礼の一部だ。どうしても受け取ってもらいたい。俺も父の名前を出して、これから後、30分掛けて説得し、ツテを使う同意を受け取った。
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