青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 出来ることなら北岡家の財産を上の子にも譲ってもらいたい。上の子の生活費の援助が欲しい。この二つがお母さんからお父さんにされた要望だったそうだ。しかし、お父さんは出さなかった。そこで、志乃さんの貯金が使われたのだと想像すると、お金があるからいいでしょうと言っていたお母さんの言い方に、ぞっとする。そして、志乃さんと話そうとしないお兄さんの態度も気になる。

「本当のお父さんのところに行け、か。そう言いたくなるよね。向こうには相手にされないから会いに行かないけど、北岡家のお父さんは話を聞いてくれるから、めちゃくちゃやるなんて、だめだよ。俺でもそう言いたくなるかも」

 ため息をついて、再びベッドに寝転がった。志乃さんが法事に出ている間、黒崎達は倉口家に行き、朝陽が欲しがっている荷物を取ってこようと思ったそうだ。しかし、倉口さんは叔母さんの家で暮らしているから不在であり、留守中に入って勝手に荷物を取ると、後で何かなくなっている物があると言って、いちゃもんをつけられたらいけないから、取りに行かないことになった。倉口さんは黒崎に会いたくないそうだ。だから、立ち会わないそうだ。そして、朝陽のDNA鑑定はいつにするのかと、電話で話していたそうだ。

「親子じゃないって分かったら、倉口さんとはどうなるのかな。ママに慰謝料請求をするのかな……」

 色んな事が年内に動きそうだ。人の感情が入り乱れている中での話し合いは難航しそうだ。なるべく冷静にと言っても、なかなかそうはならない。人には色んな意図がある。相手のことを思ってそうする人が居れば、そうではない人も居る。お互いの主張だけでは、話し合いが何年も続くこともあるだろう。

「寝ようっと……」

 ふうっと、息を吐いた。寝られなかったら電話をしてきても良いと黒崎が言っていた。しかし、もう寝た頃だと思うから、電話はやめておく。俺からの電話は必ず取ってくれるだろう。そして、今夜はまだ一貴さんが帰っていなくて、ユーリーに頼れと言っていたのが面白かった。もしも泥棒が入ったときには追いかけてもらえという話だった。

「ん?これ、警報だ!」

 すると、スマホ画面に通知が流れた。セキュリティーシステムからの知らせだ。誰かが監視カメラに映ったら知らせが届くようにしてあるが、警報は鳴らない。画面を見ると、門の隣の塀を乗り越えて入ってきた人の姿が写真となって映し出されていた。侵入者だ。警備スタッフが訪ねてくることになるが、俺達にも出来ることがある。警察を呼ぶことだ。しかし、その前に、お義父さんの部屋に向かった。

「お義父さん!お義父さん!警報が鳴ったよ!」

 部屋を出ながら声を張り上げた。すると、お義父さんが部屋から出てきた。お義父さんも警報に気がつき、起きてきたそうだ。そして、俺に、部屋から出ないように言ってきた。俺の安全のためだ。しかし、そんなことは出来ない。そして、さらにスマホから警報が鳴った。俺と黒崎の家の窓ガラスが割られた映像が流れ始めた。

「私が警察を呼ぶ。お前はここにいなさい」
「ユーリーを呼んでくるよ!もう起きているかも。あ!南波さんが庭に居るんだった!」

 そのことを思い出して、背中に汗が流れた。そして、俺が2階から1階へ下りていくと、すでにユーリーが起きていて、部屋から飛び出したところだった。玄関を出て行こうとしている。

「ユーリー!俺も行くよ!」
「君は家の中にいろ!南波君を助けに行く!」
「俺も行くってば!」

 ユーリーが走って玄関のドアを開けた。俺も急いで追いかけた。庭のセキュリティーライトはけっこう明るい。夜だというのに一部分は昼間のような明るさのところがある。しかし、南波さんのテントがある場所は少し暗くて、侵入者が隠れに来るかも知れない。そう思うと、また背中に汗を掻いた。

「南波君!」
「ユーリー!落ち着いて!」

 ユーリーが走って行く姿を追いかけた。俺は走らない約束をみんなとしてある。しかし、こういう時だけは許してもらいたい。少しだけ走った。そして、ユーリーがテントに着いたのか、声が聞こえなくなり、俺は歩く速度を緩めた。
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