青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ここまで聞けば、兄の妻は苦労したと同情する。しかし、あくまでも志乃から聞いた話ではあるが、兄の妻は母親の言うことをよく聞き、志乃には優しい態度は取らなかったそうだ。それを志乃は、兄の妻が実家の姉妹と仲が悪かったというから、何か思い出すのかという受け取り方をしていたそうだ。姉妹に対するトラウマという物だと。しかし、あまりに自分を見る兄の妻の顔がゆがむから、さすがに母親に相談したところ、“私には何も無い”と言葉を返されたそうだ。

 志乃は都内の大学に進学し、何か可愛らしい物を見つけては、兄の娘達に贈り物をしたそうだ。それでも、兄も妻もおかしな態度を取るのだという。打ち解けることはかなわなかった。義理の兄弟姉妹と仲が悪い場合、こういうことが考えられる。志乃の場合は、兄が妻に志乃のことで悪いことを吹き込んだということだ。配偶者が洗脳することがある。志乃は昔から反抗的でとか、小遣いと盗られたことがあるなど、ありもしないことを吹き込むことだ。幼少期から兄は志乃のことを嫌がっていた。それは考えられる。ゆがんだ親族関係が何年も続き、現在に至る。

 志乃の母親は誰に送金していたのだろうか。それとも、誰に使っていたのだろうか。志乃の父親の話では、北岡家では大きな物入りの時はなかったし、母親の実家でも何も無かったという。そもそも、北岡家に何かがあったときのために使ってくれと言っていた貯金だ。何も無いなら黙って使わないだろう。一度は自分が使ったと認めた母親だったそうだ。しかし、昨日は何のことか知らないと言ったという。頭の痛い問題だ。俺は息子に渡したのではないかと思っている。

 志乃の母親が夫と離婚した場合、志乃との縁は薄れるだろう。志乃と兄との関係はどうだろうか。もう赤の他人という形でいいのではないだろうか。しかし、母親が介護を受ける年になれば、嫌でも交流が生まれるだろう。今は母親のことを慕っている兄と妻が介護を志乃に投げ出すことは十分に考えられる。それならば、良い関係をも保っていた方がいい。しかし、なぜか兄は志乃と打ち解けようとしない。子供の頃から憎んでいるのは、後から生まれた妹に対する嫉妬なのか。

 そこで、俺はかつて晴海兄さんから向けられていた目を思い出した。跡取りとして父から教育されていた俺は、兄さんから遠ざかった存在だった。打ち解けたのはここ数年の話だ。俺の場合は憎い女の息子だということだっただろう。ゆがんだ親族関係というものだ。それを思うと、志乃のことでは心が痛くなる。俺は写真を見ながら、この家の者が全員笑顔になれる方法はない物かと思い巡らせた。無理な話なのだろうか。

「二葉。この写真に写っている本棚は大きい物だな。オーダーメイドか?」
「これはね。お父さんが手作りしたんだよ。志乃は本がたくさんあるから、普通の本棚じゃ入りきらなくてさ。お父さん、びっくりしていたね。おばあちゃんも……」
「それはそうだろう。息子の仕事先に働きかけると言われたら躊躇する。しかし、それしか選べなかった。兄貴が応じるかどうかは分からないが」
「お兄ちゃんって知り合いが多いね。俺、すごいなって思うよ。こっちで黒崎ホールディングスをやっていたもんね」
「大したことは無い。会社の車のリース関係で繋がりが出来ていた。……ん?ラインが入った。R&W社の江川さんからだ……」

 すると、俺の方にラインが入った。江川氏からのメッセージによると、庭で育てているシャインマスカットが43個も実り、食べきれないからもらってくれないかというものだった。江川氏が住んでいる家は賃貸の古民家であり、悠人が祖母と暮らしていた家だ。庭が広く、家庭菜園を楽しんでいると聞いている。

 悠人の実家も以前、騒動があった。今は落ち着いている方だと言える。人それぞれに家庭の事情があり、表向きには幸せそうに見えたとしても、中はそうではないケースが存在する。俺の場合は夏樹と暮らすようになるまでめちゃくちゃだった。そんな俺が幸せだと言えるようになった。

 さて、返信にはこう書くことにした。もちろん、受け取ります。ララちゃんは元気ですかと。ララちゃんとは犬の名前だ。すると、明日、オフィスに持って行くということと、犬の写真が送られてきた。アンと同じ犬種のシーズーだ。ここには平和がある。そして、志乃にも両親達にも安らぎがあれば良いと思いながらラインを返信し、一息ついた。
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