青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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24-37(黒崎視点)

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 午前9時。

 ホテルのレストランにて朝食中だ。先ほど夏樹と電話で話してある。向こうはまだ落ち着いているとは言えず、荒らされた家の中も片付けられない状況だ。俺の居ない時に限ってこんなことが起きてしまった。幸いなのは、誰ひとりとして怪我人が出ていないことだ。庭に居た南波も無事だった。

 俺の向かいには二葉が居る。スクランブルエッグを食べながらスマートフォンで画像を見ている。昨日、志乃と撮った写真だ。彼女の実家で話をした後、2階の部屋に上がって写真を撮っていた。高校時代は何度も泊まりに来た志乃の部屋には思い出が詰まっているのだろう。

「二葉。スマホを見ながら食べるな。行儀が悪いぞ」
「ごめんなさい。つい……。お兄ちゃんも見てよ。高校時代の部屋と何も変わらないんだ。見比べてよ」
「そうか。見てやる。……ここが部屋なのか」
「そうだよ。本棚も机もそのままなんだ。テディベアだけは今はいないけどね。志乃が今の家に持って行っているから……」
「そうだな。大切にしている物だ。従姉妹が買ってくれた思い出の人形だ」
「うん。羽田空港にあった店で買ってきてくれたやつなんだ。今はその店はなくて、従姉妹も亡くなったけど、テディベアだけはいるんだ」
「そうだな……」

 俺は二葉を叱るのをやめた。そして、一緒に画像を見た。そして、画面をスクロールさせて、高校時代の志乃の部屋と昨日の部屋の写真を見比べた。たしかに同じだ。きちんと片付けられている。二葉の部屋とは大違いだ。二葉の部屋は散らかり放題であり、何でも寛容なユーリーがさすがに咎めていた。使っているマグカップは3日間洗われておらず、それに珈琲を注いで飲もうとしていたという。腹の方は平気だろう。黒崎家の血を引き継ぎ、腹だけは丈夫な面が遺伝している。

 今日の法事はテディベアの送り主である母方の従姉妹のことがメインだ。7回忌だという。今から25年前に羽田空港で買ったテディベアは今も大切にされており、ハーミッシュと名付けられている。従姉妹が購入した際に、テディベアの製作者が名前を付けて店頭に出されていたという。ハーミッシュは世界に30体あり、26番目の彼が志乃の元にいる。

「お前の高校時代の写真は無いのか?部屋で撮った写真だ」
「あるよ。志乃との思い出はいつでも見られるようにしてあるんだ。これだよ」
「そうか。ああ、髪の毛の長い時代だな」
「うん。お母さんに言われて長くしていたんだ」

 新しい画像には、高校時代の二葉と志乃が映し出されていた。肩までの髪の毛が志乃で、背中まである長さが二葉だ。こうして見ると、今よりもずっと幼い印象だ。しかし、どちらもしっかりしていただろう。そういう感じがする。この時は二葉はまだ志乃の母親のことを信頼していた。“優しいお母さん”という印象だったそうだ。まだ志乃の兄が結婚する前で、母親が彼の元に、家事を手伝いにアパートに通っていたという頃だ。兄が結婚した後から母親は変わってしまったという。

 志乃が高校3年生の時に兄が結婚し、兄の妻と妻の4歳になる娘が親族に加わったそうだ。兄から何か聞いたのか、兄の妻は最初から志乃のことを警戒していた様子で、おかしな態度を取られていたという。挙動不審というものだ。そして、妻の娘は乱暴で、勝手に入った志乃の部屋のぬいぐるみを放り投げて遊んでいたという。それを叱らないのが兄貴と妻だったそうだ。部屋に入れるのを嫌がった志乃は母親から“許してあげなさい”と咎められて、妻の娘がやりたい放題だったという。

 兄の妻は過去に実の姉の夫と恋愛し、いわゆる不倫関係になり、娘を授かったと聞いている。そして、実の姉との離婚が成立しないままで姉の夫と同居を始めた後に、彼から暴力を受けて逃げ出した。そして、1人で娘を育ててきた。実家の助けは借りられなかった。その後、逃げた先で新しい職業に就き、志乃の母親と知り合った。母親は彼女に同情し、息子との結婚を進めた。そして、息子は彼女のことを気に入り、結婚を前提に交際が始まり、3ヶ月後には同居し、8ヶ月後に結婚した。子供を授かったからだ。
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