青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 さて、買い物を済ませたところだし、飛行機に乗る準備をしよう。もうどこにも寄らずに手荷物を預けて、保安検査場へ行くことになった。黒崎も俺もスーツは持って来ていない。かしこまった場ではないと言ったとおり、かしこまっていたら余計に緊張すると考えてのことだ。親子鑑定の他の用事と言えば、実家に行くか田中先生に会いに行くかぐらいしかない。そして、倉口家に寄ることになる。朝陽が欲しいものを取ってくるためにだ。

 ついさっき名前が出たとおり、六槍さんとは仲良くやっているようだ。朝陽のことが好きすぎて、プラセルの勤務が終わったら電話を掛けてきて、朝陽が一人で居るかどうか聞いてくるそうだ。安心したいからだろう。そこで、部活動中で三橋君と一緒に居ると聞くと、三橋君に電話を替わってもらい、朝陽のことを頼んでいるそうだ。それを俺は束縛と呼んでいる。朝陽のことを取られないようにしているのだろう。

 休みの日は二人とも土日だ。しかし、六槍さんは適度な距離を保つようにしているそうだ。朝陽の勉強時間の確保のためだ。もしも留年になったり成績が下がったりするといけないからだ。そこで、水曜日と、日曜日の午後だけ朝陽に会いに行っているそうだ。朝陽としてはもっと一緒に居ても良いらしいが、それこそ六槍さんの仕事の疲れを取るために、毎日は一緒に遊ばないようにしているという。朝陽からすれば六槍さんはプラセル時代の先輩であり、友達だ。六槍さんはそれを理解して、しかし、朝陽に振り向いてもらいたくて、“引っ付いている”と言っていた。会えなくても、電話だけはマメにしているようだ。

「あさひーー。六槍さんから心配されているだろ。向こうに着いたら電話を掛けると良いよ」
「うん。そうするよ。本当は一緒に来たかったみたいだよ」
「そうだね。倉口さんに会っておきたかったかな……」
「どうして俺のことが好きなのかな。俺なんかに目を向けなくても、六槍君はモテると思うんだ。こんなにだめな俺なのに……」
「あさひーー。どうしたんだよ~」

 急に朝陽が沈んだ顔になった。そして、俺に打ち明けてくれた。親が誰かも分からない状態で、倉口家はぐちゃぐちゃで、ママとも会っていなくて、それでも自分の力でどうにかできない自分はだめな人間だと思うのだと。もう大人であり、本当だったら元の大学の4年生であり、医者になる道を歩んで、病院での実習をたくさん受けていただろうということだ。元の大学の同級生よりも遅れを取り、兄貴に迷惑を掛けまくって、ここにいるのだと。

「そんなことはないよ~。元の大学を休学しなかったら、六槍さんと会っていなかったんだよ。そりゃあ、もしかしたら、カズ兄さんから紹介されて出会っていた可能性もあるけどさ……。朝陽のことが好きなんだよ。自信を持てよ~」
「俺、一貴社長に良い身体をしているって、褒められたんだ」
「うん……。ママに似ているよ」
「六槍君、お母さんの若い頃の写真をネットで見て、かっこいいって言っていたんだ。俺、モデルをやって痩せたんだ。引き締まった感じ。そしたら、六槍君が俺の身体に触って、嬉しそうにするんだ。身体が目当てかな……」
「もうーーーー、そんなことはないよ~。黒崎さーーん。朝陽がネガティブになっているよ~」

 俺がいくら励ましても朝陽が元気を出さない。そこで、先を歩いている黒崎に声を掛けた。そしたら、黒崎が振り返り、俺から事情を聞いて、男前の顔を歪めて笑った。

「そうだ。身体だけだ。そうやって前は遊んでいただろうが」
「もうーーーー。黒崎さん!まともに話を聞いてあげてよーーー。あ、しまった……」

 俺の声が響き渡ったようで、色んな方向から視線が集まってしまった。そこで、ペコッと会釈をして謝り、もう保安検査場に行こうよと言って、歩き出した。すると、後ろでは黒崎が朝陽の頭をくしゃくしゃと撫でていた。ちゃんと兄貴の役目をやっている。元気を出せ、俺も緊張している。そんな黒崎の言葉が優しいと思ったのだった。
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