聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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16-1 悠人への執着(悠人視点)

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 4月15日、月曜日。午前6時。

 カレンダーを見ると、72候の欄には、虹始見・にじはじめてあらわると書かれていた。春が深まり、雨上がりに綺麗な虹が見られる頃だという。今朝、虹が架かっていた。縁起が良いと思った。

 朝ごはんを作っているところだ。やっと新しいキッチンに慣れた。冷蔵庫から”キシヤマの出汁ポット”を取り出した。購入して正解だ。ひと味違うと感じる。

 さらに味噌の容器も取り出した。同じく”キシヤマ”の味噌だ。メーカーからの頂き物で、沢山あるからと、佐伯家へおすそ分けした。

 これを使っていることをキシヤマメーカーが知り、俺のことをCMに起用したいとの話が持ち上がった。IKUにて検討中だ。活動予定との兼ね合いがあり、すぐには話が動かせないそうだ。しかし、実現しそうだ。

「ふむふむ。味噌汁づくりから発生した話なのか……」

 島川さんから、俺のことがメーカーへ伝わった。良かれと思って話したのだと、謝られてしまった。余計なことだったかな?と。それはないよと答えておいた。変な話ではない。

「気にする人だなー。そそっかしいから……」

 10日前のことだ。朝食を買いに行った店で、早瀬と島川さんが喧嘩をした。もう連絡を取るなと言われた。早瀬に島川さんと仲直りしてくれと頼んだ後、スムーズに話が出来たそうだ。今はラインのやり取りをしている。もちろん早瀬も知っている。

 先週の水曜日に島川さんと会った。プラセルとミユー企画、IKUとの打ち合わせのためだ。モデルをやる自分も出席した。

 久しぶりに母と会えて嬉しかった。今の関係になる前は、会っていなくても平気だったのに。仕事を始めたことで、母の気持ちが少しだけ理解できた。気持ちに余裕がないことを。その打ち合わせが終了した後、母と2人で話した。ただし、母は別の会議の予定があり、早々に出て行ってしまった。

 その後のことだ。島川さんから話しかけられた。仲の悪いお母さんに会ってつらくないか?と。そこで誤解を解くことが出来た。今の気持ちを話すと微笑んでいた。

 島川さん自身も、立ち上げた会社が大きくなり、当初やりたかったことが出来なくなったそうだ。母の話ばかりをしたから、聞き役にさせてしまった。こうして話し相手になってもらえて嬉しい。そこまで言ってくれた。

 24歳も年下だが、聞き役になりたい。二人きりで会うことはしない。早瀬の予定が合わず、ラインのやり取りのみ続ける。しかし、あの時の会話が引っかかっている。母との関係を心配されてばかりだった。

(悠人君がモデルをやるのは、お母さんのためだろう?顔色ばかり窺っていたぞ?)
(それはないですよー。心配で見ていました。痩せたから……)
(そうか。お母さん思いなんだな。君のような息子がいるのに……、その……)
(……え?)

 あの続きを聞くことが出来なかった。何かあったのかと不安になり、次の日にラインを送った。しかし、何のことか忘れてしまったそうだ。思い出したら教えるよと言われて話が終わった。

「余計なことを言いそうで、失敗しそうだったのかな?忘れておこう……」

 何はともあれ、連絡が取れるようになってよかった。これで仕事が上手くいけば安心できる。すると今度は、べつの気になることが出来た。早瀬のことだ。なんだか雰囲気が違う気がする。

 ヒーローとクランというバージョンではない。冷たい人と面白くて賑やかな人という、ふたつのバージョンが、ひとつの性格に収まった。今回も分かれたのか?そうではないと思った。
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