聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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16-4(早瀬視点)

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 14時。

 8階の会議室にて、経営戦略部の会議へ出席した。今から5日前のことを思い出した。戦略会議のメンバーを収集した日だ。その翌日にはプラセルの件で計画を打ち出し、その内容が島川に伝わる形で刺激した。さっそく連絡を寄越してきた。会社を潰されると受け取った様子だ。

(……早瀬君。脅しか?)
(……好きなように受け取ってくれ。計画を動かす。繊維業界の方だ)
(……何しないと言ったはずだ)
(……業務として進めている)

 その後は連絡を寄越してこない。対策を取っているようだが、具体的ではなく、社長が療養中であることが痛手のようだ。
 
 会議を終えてオフィスへ戻ると、秘書室から声を掛けられた。島川から連絡が入ったという伝達とメモを受け取り、うめき声をあげた。あの男の神経が理解不能だ。

「……『ブランドの中から、似合いそうな服を選びました。配送の手配済み。明日、オフィスに到着します』なんだって?」

 痛手ではないと言いたいのか。この件で連絡を寄越せというのか。先に用事がある。悠人に電話をかけるためにロビーへ出た。ギターを弾いている頃だ。電話を鳴らした方が早い。

 すると、ロビーに高野の姿があった。こちらに用事がありそうだ。待つように伝えて、悠人に電話をかけた。開口一番にのんきな声が聞こえたから安心した。洗濯機の音もしている。

「……もしもしー?帰っているよ」
「……洗濯をしているのか?何か溢したのか?」
「昼ご飯のトマトソースだよ。蓋を開けたら散ったんだ……。今から洗うよ」
「帰ったら洗ってあげる。浸け置きをしておけ。火傷はしてないのか?」
「大丈夫だよ。床が汚れたから掃除するよーー」
「それもやる。煮込みハンバーグのストックがある。プレートに入れて、温野菜サラダも食べておけ。ロールパンの前にだぞ。勉強とギターは一時間ずつだ。……どうした?何があった?」
「……ひいいいっ。カブトムシ!」
「……帰った後で話を聞く。その子は悪さをしない。じゃあ」

 電話の向こうで悲鳴が上がった。気が気ではない。放置していた間に、うちの庭には虫が棲みついていた。業者を入れて整えようと手配しようとした時、悠人が虫を追い出すのは可哀想だと言い出した。虫全般が大の苦手なのに。いつも悲鳴を上げている。

「……早瀬さん。生活感がありますね」
「……高野。いつの間に来たんだ?」

 通話を終えた後、そばに来て笑っている高野を小突いてやった。その用件を聞くと、島川のことだった。伊吹の経営手腕を知って、島川の方から交流を求めて、付き合いが始まったそうだ。

 伊吹は25歳の若き経営者として有名だ。メディアを利用する技に長けており、ここの役員連中が舌を巻いていた。島川との交流があるのは不思議ではない。高野と伊吹は親友同士だ。ストレートに彼らの関係を聞いておく。

「島川さん側に付いているのか?」
「まさか。島川さんから妨害を受けた側だ。伊吹が嫉妬されたからだよ。だから、君のことを手伝うそうだ。大変なことになったね」
「どうして知っているんだ。黒崎からか?」
「伊吹の情報収集によるものだ。成功した暁には、技術者を紹介してくれと言っている。うちのエンジニアだ」
「図々しいな……。こちら側だけで対処する。礼を伝えてもらえるか?」
「了解しました。島川さんとは個人同士で付き合いがあるそうだ。小学3年生を想像して接すると良いらしい。子供っぽい一面を引き出せるからだ。以上が伝言だ」
「助かったと伝えてくれ」
「早瀬さんと友達になりたいそうだ。なかなか友達ができないからと……」
「もちろん喜んで……」

 食事の約束をしようという話になり、俺の方の希望の日程を伝えた後、高野と別れた。そして、スマホを取り出した。この待ち受け画面には、夏樹と顔を寄せ合って笑っている悠人がいる。5日後に発売される新曲 ”Far from heaven.天国から遠く離れて" の、プロモーションの仕事で撮ったものだ。この楽曲の歌詞は夏樹との久弥との共同作品だ。その歌詞を決めている段階で、俺の書斎をノックしてきた。夏樹から相談されたそうだ。

(……裕理さーん。英語で表現するなら、どんなものがいいと思う?ニュアンスが変わるからさ)
(……どの部分だ?”誰が間違っているのか、正しいかどうかは重要ですか?”か )
("善と悪、良いか悪いかで判断したい”意味だよ。状況で変わるだろー)
(……”Who is wrong or right? Is it important?……曲に乗りそうか?)
(ありがとうございます!これで完成しそう!)

 あの言葉は、自分のことを指しているかのようだった。悠人のことを守りたい。ただそれだけのことだ。正しいのか?状況によって変化することだ。良いことか悪いことなのかで判断したい。
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