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5-1 黒崎の誕生日
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12月10日、月曜日。午前8時。
今日は黒崎の誕生日だ。黒崎は仕事の休みを取り、2人で近場のデートスポットへ出かける。朝はゆっくりしようと、いい天気だから庭に降りた。自然と発声練習をしたくなり、ウォーミングアップのストレッチを始めた。黒崎が背中を押して手伝ってくれた。
「ウーーン。いたた……」
「もう一回だ」
「ふうーー」
地面に手をついて、足の間から空を見上げた。細かな雲が広がり、その雲間からは太陽の光が差し込んでいる。まだこの時間は優しい光だ。眩しくないから見つめていると、身体がフラついて転がりそうになった。
「あ、わわ……」
「気をつけろ」
支えられたのにバランスを崩して転がってしまった。黒崎の腕が受け止めてくれたから痛くない。しっかりと抱かれて、空を見上げた。
「いい天気だね~」
「こら、起き上がれ」
「もう少し、このまま……」
「甘ったれ。これでどうだ?」
「うん?」
ヨロけた体制が変わり、抱き上げられた。さらに空を見上げることができて、抱かれたままで両腕を伸ばした。さらに黒崎の腕に力が込められて、抱き直された。
「夏樹、落とすぞ」
「ウーーン」
「終わりだ……」
スタ。あっけなく地面に降ろされてしまった。往生際が悪く、地面に座り込んでやった。それを黒崎が笑って見ている。
座ったままで両手を後ろにつき、空と庭を眺めた。この家は緩やかな坂の上に建っているから、視界を遮る高い建物がない。さすがに星空は地元にいた時よりも見えづらい。それでも、空が綺麗だから満足している。
「そろそろアンが帰ってくる頃だね?」
「ああ。リクと遊ばせると言っていたぞ」
お義父さんがアンを連れて、遠藤さんの家に遊びに行っている。すっかり親しくなった。遠藤さんは、昔はロックバンドを見出して、メジャーデビューする手伝いをする仕事をしていた。若い人からベテランのミュージシャンまで顔が広い。佳代子さんが言うには、その現場から退いて経営陣側の仕事をするようになったことで、取っつきにくいイメージに変化したという。俺や悠人と話す様になり、元のざっくばらんな人に戻ったし、若返ったと言っていた。お義父さんも同じだ。会社の中で世間話をする人が増えたそうだ。
「噂をすればだ」
「んー?帰ってきた?」
大きな門がある方向から、お義父さんと遠藤さん夫妻、アンとリクが歩いてくるのが見えた。
「おかえりなさーい」
「ただいま」
お義父さんに抱かれていたアンが、地面に降りて走ってきた。真っ先に黒崎へ飛びついて抱き上げられていた。世話を多くしているのは俺の方なのに。黒崎はアンのことを甘やかし放題で叱らないからだ。嫌われ役をしている俺は寂しい。
「リク、おはよう」
リクがやって来て、恒例の挨拶をしてくれた。両方の前足を持ち上げて握手をすることだ。遠藤さんと挨拶した後、黒崎がラッピングされた箱を受け取った。誕生日プレゼントだ。
「はい。お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
まさかこの年でプレゼントをもらうとは。黒崎がそんな風に照れくさそうに笑っている。
「ピアノの楽譜よ。マイヤードさんのアレンジが好きだったでしょう?復刻版を見つけたの」
「ご存知だったんですね……」
「拓海さんから聞いたことがあったのを思い出したの。主人が知り合いに当たってくれて」
「あの小さな子が……」
あの子が35歳になったと言って笑っている。黒崎のことを6歳の時から知っている分、今のくだけた青年に成長したのが意外だそうだ。
今日は黒崎の誕生日だ。黒崎は仕事の休みを取り、2人で近場のデートスポットへ出かける。朝はゆっくりしようと、いい天気だから庭に降りた。自然と発声練習をしたくなり、ウォーミングアップのストレッチを始めた。黒崎が背中を押して手伝ってくれた。
「ウーーン。いたた……」
「もう一回だ」
「ふうーー」
地面に手をついて、足の間から空を見上げた。細かな雲が広がり、その雲間からは太陽の光が差し込んでいる。まだこの時間は優しい光だ。眩しくないから見つめていると、身体がフラついて転がりそうになった。
「あ、わわ……」
「気をつけろ」
支えられたのにバランスを崩して転がってしまった。黒崎の腕が受け止めてくれたから痛くない。しっかりと抱かれて、空を見上げた。
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「もう少し、このまま……」
「甘ったれ。これでどうだ?」
「うん?」
ヨロけた体制が変わり、抱き上げられた。さらに空を見上げることができて、抱かれたままで両腕を伸ばした。さらに黒崎の腕に力が込められて、抱き直された。
「夏樹、落とすぞ」
「ウーーン」
「終わりだ……」
スタ。あっけなく地面に降ろされてしまった。往生際が悪く、地面に座り込んでやった。それを黒崎が笑って見ている。
座ったままで両手を後ろにつき、空と庭を眺めた。この家は緩やかな坂の上に建っているから、視界を遮る高い建物がない。さすがに星空は地元にいた時よりも見えづらい。それでも、空が綺麗だから満足している。
「そろそろアンが帰ってくる頃だね?」
「ああ。リクと遊ばせると言っていたぞ」
お義父さんがアンを連れて、遠藤さんの家に遊びに行っている。すっかり親しくなった。遠藤さんは、昔はロックバンドを見出して、メジャーデビューする手伝いをする仕事をしていた。若い人からベテランのミュージシャンまで顔が広い。佳代子さんが言うには、その現場から退いて経営陣側の仕事をするようになったことで、取っつきにくいイメージに変化したという。俺や悠人と話す様になり、元のざっくばらんな人に戻ったし、若返ったと言っていた。お義父さんも同じだ。会社の中で世間話をする人が増えたそうだ。
「噂をすればだ」
「んー?帰ってきた?」
大きな門がある方向から、お義父さんと遠藤さん夫妻、アンとリクが歩いてくるのが見えた。
「おかえりなさーい」
「ただいま」
お義父さんに抱かれていたアンが、地面に降りて走ってきた。真っ先に黒崎へ飛びついて抱き上げられていた。世話を多くしているのは俺の方なのに。黒崎はアンのことを甘やかし放題で叱らないからだ。嫌われ役をしている俺は寂しい。
「リク、おはよう」
リクがやって来て、恒例の挨拶をしてくれた。両方の前足を持ち上げて握手をすることだ。遠藤さんと挨拶した後、黒崎がラッピングされた箱を受け取った。誕生日プレゼントだ。
「はい。お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
まさかこの年でプレゼントをもらうとは。黒崎がそんな風に照れくさそうに笑っている。
「ピアノの楽譜よ。マイヤードさんのアレンジが好きだったでしょう?復刻版を見つけたの」
「ご存知だったんですね……」
「拓海さんから聞いたことがあったのを思い出したの。主人が知り合いに当たってくれて」
「あの小さな子が……」
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