夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 黒崎とお義父さんと話し始めて、そばの花壇の縁へ座った。佳代子さんがリクのハーネスを受け取った後、俺の方へやって来た。そして、遠藤さんも花壇の縁に座った。

「大学の冬休みに入ったら、悠人君とお出かけするのよ。夏樹君も一緒にどうかしら?」
「……実はね。うちの会社へ連れて行って、スタジオ見学もしようかと思っているんだよ」
「へえー。面白そうですね」
「ちょうど、インギー・レンフリードが来日している。悠人君がファンだ。間近で演奏を聴けるチャンスだよ。本人は気さくな人だから、スケジュールが合えば聴かせてもらえそうだ」
「お邪魔じゃないですか?」
「そう遠慮せずに。せっかくだから」
「ありがとうございます。ご一緒させていただきます」
「よかった」

 悠人と遠藤さんは仲が良くて、食事をしたり出かけたりしている。知らない人が3人を見たとき、本当の親子だと間違われたことがあった。我が家に遊びに来た時には、必ず遠藤さんの家にも顔を出している。俺たちがスタジオでバンド練習をしていると、様子を見に来てくれる時もある。その時、悠人が嬉しそうにしている。

「詳しいことは知らせるよ」
「はい。ありがとうございます」

 遠藤さん達がリクを連れて帰っていく姿を見送った。その後、日課である発声練習を始めた。お義父さんと黒崎は花壇へ腰かけたままで話している。

「アーー」
「親父。あのタルト菓子はだな……」
「圭一。あの資料の計画は……、違う。やり直せ」
「アーー、グワーー。ルルルーー」
「なんだと?」
「まだまだだ。判断が」
「アーーー」
「親父。そのうち追い出すぞ」
「ふふん、やってみろ。ああいう仕事のやり方ではなあ。何年先になることか」
「ワアーーーー」
「だいたいなあ、役員連中のなかでは……」
「半数を入れ替えた。使いこなせ」
「2人とも……」
「……親父!」
「……圭一!」

 黒崎親子の言い合いがヒートアップしていく。このまま放置すると収まらないことは実証済みだ。本日の練習の成果をカミナリで表現する。すぅっと深呼吸をして、喉を広げるイメージをした。そして、お腹から発声をしてやった。

「2人とも!ケンカしないでよ!」
「……」
「……」

 同時に押し黙った親子の前に仁王立ちになった。今日ぐらいは喧嘩をしてもらいたくない。この家で黒崎の誕生日を祝うのは小さい頃以来だと知った時には胸が痛くなった。黒崎は何気なく言ったことだった。

 ひと通りの言い合いが終わった後、お義父さんがアンを連れて帰って行った。2人で出かけて来いと、気を利かせてくれた。

「さあ、出かける支度しようよ」
「汗をかいただろう?シャワーを手伝ってやろうか?」
「イヤらしいおじさんだね~~」

 黒崎の耳たぶを引っ張った後、腕を引っ張って、家の中に入った。
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