夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
66 / 348

6-8

しおりを挟む
 黒崎製菓の概要や、進行しているプロジェクトの一例などの講義が始まった。早瀨さんの声は優しいからホッとする。それに、分かりやすい言葉で説明されているから聞きやすい。でも、しだいに参加者への指名が増えていき、緊張感が高まった。

「……G列の山本さん。こちらの説明の中の……は、どう感じましたか?」
「は、はいっ。わたしの考えで……」
「……K列、新城さん。こちらは?」
「はい。僕は……」

 一生懸命にノートを取る間も、次々に指名された。そして、聞き漏らすことが出来ないほどのタイミングで質問が飛ばされてくるから、ホッとする間が無い。

 この部署では、相手の顔と名前の一致を叩きこまれるという。如月が枝川さんからそう聞いたそうだ。その話は大げさではないと思った。優しい早瀬さんしか知らないから、別の人を見ているかのようだ。たしかに怖い感じがある。

 さらに講義が進み、参加者が疲れてきた頃に、スクリーンに新しいものが映し出された。これでこの時間は終わりだということだと思う。小さなため息が漏れたのは、偶然ではないだろう。俺と同じくホッとした参加者がいるのだろう。しかし、如月は楽しそうにしている。

 その新しいスライドを見た参加者から、大きな笑いが起こった。手書きのイラストが表示されたからだ。唇を尖らせた表情の男の子が、ソフトクリームを持っている。

「……このイラストは、午後からの講義の予告です。この少年はソフトクリームが大好きで、いつも食べています。彼に起きた出来事と、お菓子やレストランの話をします。……黒崎常務が担当します。今よりも、ずっとリラックスしたものになります」
「本当ですかー?」
「ええー?」
「黒崎常務が講義を担当すると参加者が帰るので、改善しました」
「そんなことないですよねー?」

 参加者から口々に言葉が飛び交った。それを笑いながら早瀬さんが言い返していく。俺も楽しくなって笑っていると、早瀬さんがにっこり笑った。そして、俺の方を見た。

「……C列の黒崎君に質問します。ソフトクリームを食べていて、落としたことはありますか?」
「はい。何度もあります」

 本気で答えたことなのに、笑いが起きてしまった。何度かの質問と答えを繰り返して、この時間の講義が終了した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け 完結しました。 たまに番外編更新予定です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

処理中です...