137 / 348
12-2
しおりを挟む
仲直りをしてイチャついた後、ソファーへ寝転がってテレビをつけた。黒崎の体にもたれ掛かって頭を撫でられている。このまま微睡みたい。すると、お昼のニュースが流れていて、大学入試試験の話題になった。万理と朝陽が受験している頃だ。
「『試験2日を迎え……受験生たちが……』」
「万理と朝陽君、今頃受験してるね」
「ああ……」
「朝陽君は医学部だったね。万理は教育学部だよ」
「もう一年経つのか。早いな」
「そうだね。二葉ちゃん、どうするか決めたかな?黒崎製菓で秘書のバイトをする話」
「ママに聞いた。本人は迷っているそうだ。いくら何でも、母親が逃げて来た家の世話になりたくないだろう。黒崎製菓で秘書見習いをするのは、そういうことだ。ママとしては、娘を預けたくないのが本音だ。チャンスを取り上げたくないとも言っている」
「そりゃあ、迷うよ。倉口さんのことも考えるだろうし。関係が悪くなるかもしれないし」
「すでに悪くなっている。俺でも分かるぐらいだ」
「そんな……」
ママはこの家で嫌な思いをした。当たり前のことが出来ないと言われる一方で、やたら褒めてくる人が集まり、心のバランスを崩した。そんな時に、倉口さんが拠りどころになったそうだ。ママは倉口さんと再婚した後、ウォーキング教室を開いている。そして、そこからモデルデビューした生徒がいることも聞いた。
「ママの教室が忙しくなった頃からだと聞いた。ささいなことだとは言っていたが……」
「有名になったもんね。二年前の生徒さんがブランドモデルになったんだよね?すごいよね」
二葉が3歳になった頃に、ママがウォーキングスクールを始めた。自信が持てるようにと、引っ込み思案を直したい目的の子が通っていた。とてもアットホームな雰囲気でやっていたそうだ。
しかし、数年後に状況が大きく変わった。有名なデザイナーに見出された生徒が出たことがきっかけになり、ママの教室へ通いたいという人たちが詰めかけた。それが今も続いている。
「最初は小さなスクールだったそうだ。今とは大違いだ」
「すれ違っても同じ家に住んでるのに。二葉ちゃん達もいるのに」
「不器用な人だ。集中すると周りが見えなくなる。倉口さんが受け止めてくれればよかったが」
「そっか……」
都内に出て来た後、黒崎はママ達に会うことがない。たまに電話で話すのが精一杯の状態だ。お互いに遠慮があり、親子という感覚がないそうだ。しかし、自分を産んでくれた人であり、困った時には助けたい。そう思っているのに、どう接したらいいのか分からないと言っている。その反対に、うちの母と話している時は自然だから、付き合いの長さではないのだろう。
「……ママを都内へ呼ぼうと思っている」
「もう決めたの?」
「その方向だ。モデルスクールを、こっちで出さないかと話が来ている。地元の教室はそのまま残す」
「ママはどう言っているの?」
「スクールを出す気がある。俺のサポートは要らないと言った。もう倉口さんには任せられない。別居させたい。どうやら酒癖が悪いようだ。暴力までは分からない」
「そんな……。ママのことを連れて行ったのに?」
「そういうものだ。近くにいれば出来ることがある。まずは距離を置くと言っていた。ママには離婚の意思がある。だが、いつのことになるやら……」
「黒崎さーんっ」
わざと茶化したのだと分かっている。やや重苦しい空気になったからだ。だからこそ、突っ込んで聞ける。
「倉口さんとは揉めるかな?その……、財産争いとか、浮気したんじゃないかって疑われるとか」
「ママには財産がある。あの家の大黒柱だ」
「さすがだね……」
「俺の母親だ……」
黒崎が笑い声を立てた。自慢しているのが可愛いと思った。再会した頃とは大違いだ。
「『試験2日を迎え……受験生たちが……』」
「万理と朝陽君、今頃受験してるね」
「ああ……」
「朝陽君は医学部だったね。万理は教育学部だよ」
「もう一年経つのか。早いな」
「そうだね。二葉ちゃん、どうするか決めたかな?黒崎製菓で秘書のバイトをする話」
「ママに聞いた。本人は迷っているそうだ。いくら何でも、母親が逃げて来た家の世話になりたくないだろう。黒崎製菓で秘書見習いをするのは、そういうことだ。ママとしては、娘を預けたくないのが本音だ。チャンスを取り上げたくないとも言っている」
「そりゃあ、迷うよ。倉口さんのことも考えるだろうし。関係が悪くなるかもしれないし」
「すでに悪くなっている。俺でも分かるぐらいだ」
「そんな……」
ママはこの家で嫌な思いをした。当たり前のことが出来ないと言われる一方で、やたら褒めてくる人が集まり、心のバランスを崩した。そんな時に、倉口さんが拠りどころになったそうだ。ママは倉口さんと再婚した後、ウォーキング教室を開いている。そして、そこからモデルデビューした生徒がいることも聞いた。
「ママの教室が忙しくなった頃からだと聞いた。ささいなことだとは言っていたが……」
「有名になったもんね。二年前の生徒さんがブランドモデルになったんだよね?すごいよね」
二葉が3歳になった頃に、ママがウォーキングスクールを始めた。自信が持てるようにと、引っ込み思案を直したい目的の子が通っていた。とてもアットホームな雰囲気でやっていたそうだ。
しかし、数年後に状況が大きく変わった。有名なデザイナーに見出された生徒が出たことがきっかけになり、ママの教室へ通いたいという人たちが詰めかけた。それが今も続いている。
「最初は小さなスクールだったそうだ。今とは大違いだ」
「すれ違っても同じ家に住んでるのに。二葉ちゃん達もいるのに」
「不器用な人だ。集中すると周りが見えなくなる。倉口さんが受け止めてくれればよかったが」
「そっか……」
都内に出て来た後、黒崎はママ達に会うことがない。たまに電話で話すのが精一杯の状態だ。お互いに遠慮があり、親子という感覚がないそうだ。しかし、自分を産んでくれた人であり、困った時には助けたい。そう思っているのに、どう接したらいいのか分からないと言っている。その反対に、うちの母と話している時は自然だから、付き合いの長さではないのだろう。
「……ママを都内へ呼ぼうと思っている」
「もう決めたの?」
「その方向だ。モデルスクールを、こっちで出さないかと話が来ている。地元の教室はそのまま残す」
「ママはどう言っているの?」
「スクールを出す気がある。俺のサポートは要らないと言った。もう倉口さんには任せられない。別居させたい。どうやら酒癖が悪いようだ。暴力までは分からない」
「そんな……。ママのことを連れて行ったのに?」
「そういうものだ。近くにいれば出来ることがある。まずは距離を置くと言っていた。ママには離婚の意思がある。だが、いつのことになるやら……」
「黒崎さーんっ」
わざと茶化したのだと分かっている。やや重苦しい空気になったからだ。だからこそ、突っ込んで聞ける。
「倉口さんとは揉めるかな?その……、財産争いとか、浮気したんじゃないかって疑われるとか」
「ママには財産がある。あの家の大黒柱だ」
「さすがだね……」
「俺の母親だ……」
黒崎が笑い声を立てた。自慢しているのが可愛いと思った。再会した頃とは大違いだ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
取り残された隠者様は近衛騎士とは結婚しない
二ッ木ヨウカ
BL
一途な近衛騎士×異世界取り残され転移者
12年前、バハール王国に召喚された形代柚季は「女王の身代わり要員」として半引きこもり生活をしていたが、ある日婚活を始めることに。
「あなたを守りたい」と名乗りを上げてきたのは近衛騎士のベルカント。
だが、近衛騎士は女王を守るための職。恋愛は許されていないし、辞める際にもペナルティがある。
好きだからこそベルカントを選べず、地位目当てのホテル経営者、ランシェとの結婚を柚季は決める。
しかしランシェの本当の狙いは地位ではなく――
大事だから傷つけたくない。
けれど、好きだから選べない。
「身代わりとなって、誰かの役に立つことが幸せ」そう自分でも信じていたのに。
「生きる」という、柔らかくて甘い絶望を呑み込んで、
一人の引きこもりが「それでもあなたと添い遂げたい」と言えるようになるまで。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜
中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」
大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。
しかも、現役大学生である。
「え、あの子で大丈夫なんか……?」
幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。
――誰もが気づかないうちに。
専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。
「命に代えても、お守りします」
そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。
そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める――
「僕、舐められるの得意やねん」
敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。
その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。
それは忠誠か、それとも――
そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。
「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」
最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。
極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。
これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる