森林の星空少年~あの日のメエメエ

夏目奈緖

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 ピンポーン。門のところにあるインターフォンを鳴らした。佐伯家に到着である。この家は日本風家屋であり、庭からは松木の木の匂いがしている。門は昔は木で出来ていたらしいが、数年前に頑丈な素材に変えられている。防犯対策ということだった。しかし、門の鍵は開けられたままだ。扉が開いたままになっているときもある。

 俺達はこうしてインターフォンを鳴らした。久弥からは門が開いているときは玄関まで入ってくれと言われているが、さすがに躊躇している。俺達の家は要塞のようであり、厳重なセキュリティーを解かないと入れない。門から玄関までは防犯カメラが作動していて、動き回っている。そんな環境に居る俺達としては、ナチュラルに玄関まで入って行くと鉄砲の弾が飛んでくるかも知れないという思いを抱えている。

 待っていると、久弥の声がした。門に付けられた装置からである。今行くと言われた。そして、久弥が出てきた。ダルダルな格好である。オーバーサイズTシャツにジャージのズボン、スリッパである。

「おおーーー、来たか。裕理も上がって行けよ」
「俺はここで良い。今日は悠人のお泊まりだ。自立心を養うために、ここで帰ることにする」
「そうか。悠人。こいつがこんなことを言っているぞ。いいのか?」
「ふむふむ。俺は大人になったんだ。平気だよ」
「そうか。じゃあ俺は帰るとする。これが悠人の荷物だ。着替えが入っている。昼ご飯はたくさん食べさせてある。晩ご飯までは何も食べなくても平気だ。念のためにおやつを入れてある。十穀米クラッカーだ」

 早瀬が久弥に荷物のバッグを見せた。久弥はそれを肩に抱え上げて、俺に入るように言った。

「久弥。俺が持つよ。それ、結構重いだろーーー」
「これぐらいは平気だ。裕理。いつでも来てくれ」
「ああ。じゃあ、悠人のことを頼む。朝になったら迎えに来る」
「そうしてくれ。朝ご飯を食べに行こう。フレンドリーラブリーの喫茶店だ。モーニングセットが食べられる」
「ふむふむ。楽しみだなーーー」

 フレンドリーラブリーとは、ここの近所にあるテイクアウト専門の惣菜店だ。パンもある。とても美味しくて、俺達は常連だ。そこのモーニングセットを買って食べるのが休日の定番だったが、この度、店の隣に喫茶店が開店した。店内の商品や喫茶店だけのモーニングセットを食べられる。明日の朝はみんなで行こうと決めている。

「じゃあ、悠人君。良い子にしているんだよ。少しぐらいは久弥になら迷惑を掛けても良い。頼れる男だ」
「うん。理久も居るから寂しくないよ」
「そうだ。理久がいる。ああ、来てくれた。太郎の方だ」
「あ、ほんとだ!たろうーーーー」

 玄関にフェレットがやって来た。ということは、理久が近くに居るだろう。そう思ってキョロキョロしてみると、どこにも姿がない。そこで、玄関を出てみた。家の奥の方からも声すらしない。

「りくーーー。太郎がここにいるよーーー」

 呼びかけてみたが、返事はない。そこで、太郎のことを抱き上げた。人に馴れており、俺が抱いても驚かない。太郎が来たのは玄関の外からだ。そこで、外に出てみると、庭木の垣根に理久の姿を見つけた。身を潜めて、門の方を伺っているようだ。

「理久!どうしたんだよーーー」
「あ、悠人君!今、遊んでいるんだ。敵に見つからないようにして門まで行く特訓なんだよ」
「ふむふむ。童心を忘れない君のことが好きだよ。敵はどこにいるの?」
「あそこだよ。門の外に潜んでいるんだ。エアー敵だよ」
「そうだね。さっき、俺達が入ってきた時には、他には誰も居なかったよ」

 理久の姿に呆れてしまった。防災頭巾をかぶり、迷彩服を着ている。庭の中で一人で遊べるなんて、さすがのマイペースさだと思った。

「じゃあ、俺は帰るよ」
「うん」

 早瀬が理久に声を掛けて、門の方に歩き始めた。俺は早瀬の背中にすがりつき、門まで一緒に行くことにした。明日の朝まで会えない。寂しい思いがよぎったが、男としては表に出せない。そして、ばいばいと手を振って別れた。
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