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ニュースが終わった後、早瀬から置かれた手が離れた。さっきまであった手の感触がなくなったのに、まだぬくもりが残っている。名残惜しく思った。そして、余計なことを思い出して、胸の鼓動が打ち始めた。昨夜、ベッドで愛していると言われた時のことを思いだしたからだ。
照れくさいから、それを頭から消したくて、アイス珈琲のストローを口に含み、美味しいなあと、上ずった声を出してしまった。これでは挙動不審だ。怪しいヤツになっている。そういう俺のことを見て、早瀬が吹き出して笑った後、耳元に息を吹きかけてきた。
「わわわっ」
立ち上って逃げようとしたのに、両肩を押さえつけられて身動きができない。すると、体の前に腕が回されて、早瀬が後ろから覆いかぶさってきた。そして、楽しそうな笑い声を立てて囁かれた。悠人君と。
(昨夜の……、わわわ、だめだだめだだめだーー!)
早瀬の手がTシャツの中に入り、胸もとを撫でられた。ベッドで触られたりキスをされたりした感触を思い出して、背中に汗をかいてきた。そして、Tシャツを頭から引き抜かれた後、首筋に熱い息がかかった。キスマークをつけるつもりだ。強く吸われて小さな痛みが起き、肩に歯を立てられた。
「もう!裕理さん!」
「おっと……」
両足を振り上げて一気に降ろし、その反動で身体が前に動いた。無事に逃げ出せた後、ソファー越しに向かい合わせになった。いつもキスマークを付けられている。薄着だから見える時があるのに。嫌だと言っても聞いてもらえない。ジリジリと後ろに下がって、早瀬と距離を取った。
「悠人君。朝ご飯を食べよう」
「まだいらない!」
「そうか、それなら仕方ないな」
「え?」
「後から食べるならラップをしておくよ。早めに食べた方が美味しいけどね」
「あ……」
早瀬がキッチンへ行ってしまった。カウンター越しに、料理の皿へラップをかけているのが見えた。急に寂しくなったが、自分から言い出したことだから、引っ込みがつかない。
自分が蒔いたタネだ。自業自得だ。でも、早瀬の方こそ悪いと思う。ソファーへ腰かけて膝を抱えた。後ろの方では、カタカタと音がしている。振り返ると、彼がダイニングテーブルへ皿を運んでいた。手伝うよ、さっきはごめんね。その一言で仲直りができるのに、言い出せない。
(一緒に食べたいな……、珈琲の匂いがしてる……)
「ゆうとくーん?」
「んー?」
声をかけられて嬉しいのに、わざと気のない返事をしてしまった。これでは仲直りには程遠い。しかし、早瀬は普段通りで、こっちの気のない返事にも反応していない。
「さっき言った動物番組を放送しているはずだよ」
「チャンネルが分からないんだよ……」
「6チャンネルだよ。『マーリン先生が来た』だ」
「ありがとう」
可愛い動物が出てきたら、早瀬を呼ぼう。それなら自然に仲直りが出来そうだ。リモコンで6チャンネルに合わせると、言われた通りの番組がやっていた。司会者がパネルを持って動物の紹介をしている。
「『では、昆虫博士の、今日の虫はだ~れ?』」
「ええ!?」
さっき昆虫と聞こえた。俺は虫が大の苦手だ。キッチンの黒いヤツの存在を知った後からだ。ヤバイ!しかし、目を閉じる前に、草むらの虫が映し出された。
「ひいいいいいっ」
「ゆうとくーん?どうしたんだ?」
「虫の番組だよー!」
「虫だけじゃないよ。イリオモテヤマネコも出ているよ。こっちにおいで。一緒に食べよう」
早瀬は知っていてわざとテレビを付けさせたのだと思った。彼が笑いを押し殺して震えているからだ。さらにキッチンから声を掛けられた。笑い声まで聞こえてきて腹が立った。やっぱり仲直りをしたくない。テレビ画面から目を逸らしつつ言い返した。
「ううん。後で食べるよ……」
「虫が怖いなら、チャンネルを変えるといいよ」
「ううん。平気。このコーナーが終わったから」
タイミングが良いことに、イリオモテヤマネコの映像が流れ始めた。マーリン先生と呼ばれたオジサンが草原を走っている。そのお腹が揺れている。
カタカタ。食器の音がした。早瀬が食べ始めた気配があった。腹が空いてきたが、しばらく我慢するしかない。カタッ。椅子が引かれる音がした。彼が立ち上り、近くまで来る気配があった。
「悠人君、一緒に食べよう。ごめんね」
「うん!」
早瀬が謝ったから、今度こそは素直に返事が出来た。ダイニングテーブルへ行くと、サラダが用意されていた。それにはハチミツとマスタードを混ぜたドレッシングが掛けられていた。早瀬が作ってくれるドレッシングの中で、一番好きなものだ。
「美味しいよ。これが好きなんだ」
「ピリッと辛くて甘いからね」
「うん!」
まるで早瀬のような味だ。優しくて、俺のことを甘やかす。どんなに駄々をこねても許されている。それなのに、ここぞという時には叱られている。おまけにイジメてくる。朝起きた時に動物番組のことを教えてもらったのは、最初からそのつもりだったろう。
大人と子どもの共存、ハニーマスタードドレッシング。早瀬とドレッシングのことが、ますます好きなった。
照れくさいから、それを頭から消したくて、アイス珈琲のストローを口に含み、美味しいなあと、上ずった声を出してしまった。これでは挙動不審だ。怪しいヤツになっている。そういう俺のことを見て、早瀬が吹き出して笑った後、耳元に息を吹きかけてきた。
「わわわっ」
立ち上って逃げようとしたのに、両肩を押さえつけられて身動きができない。すると、体の前に腕が回されて、早瀬が後ろから覆いかぶさってきた。そして、楽しそうな笑い声を立てて囁かれた。悠人君と。
(昨夜の……、わわわ、だめだだめだだめだーー!)
早瀬の手がTシャツの中に入り、胸もとを撫でられた。ベッドで触られたりキスをされたりした感触を思い出して、背中に汗をかいてきた。そして、Tシャツを頭から引き抜かれた後、首筋に熱い息がかかった。キスマークをつけるつもりだ。強く吸われて小さな痛みが起き、肩に歯を立てられた。
「もう!裕理さん!」
「おっと……」
両足を振り上げて一気に降ろし、その反動で身体が前に動いた。無事に逃げ出せた後、ソファー越しに向かい合わせになった。いつもキスマークを付けられている。薄着だから見える時があるのに。嫌だと言っても聞いてもらえない。ジリジリと後ろに下がって、早瀬と距離を取った。
「悠人君。朝ご飯を食べよう」
「まだいらない!」
「そうか、それなら仕方ないな」
「え?」
「後から食べるならラップをしておくよ。早めに食べた方が美味しいけどね」
「あ……」
早瀬がキッチンへ行ってしまった。カウンター越しに、料理の皿へラップをかけているのが見えた。急に寂しくなったが、自分から言い出したことだから、引っ込みがつかない。
自分が蒔いたタネだ。自業自得だ。でも、早瀬の方こそ悪いと思う。ソファーへ腰かけて膝を抱えた。後ろの方では、カタカタと音がしている。振り返ると、彼がダイニングテーブルへ皿を運んでいた。手伝うよ、さっきはごめんね。その一言で仲直りができるのに、言い出せない。
(一緒に食べたいな……、珈琲の匂いがしてる……)
「ゆうとくーん?」
「んー?」
声をかけられて嬉しいのに、わざと気のない返事をしてしまった。これでは仲直りには程遠い。しかし、早瀬は普段通りで、こっちの気のない返事にも反応していない。
「さっき言った動物番組を放送しているはずだよ」
「チャンネルが分からないんだよ……」
「6チャンネルだよ。『マーリン先生が来た』だ」
「ありがとう」
可愛い動物が出てきたら、早瀬を呼ぼう。それなら自然に仲直りが出来そうだ。リモコンで6チャンネルに合わせると、言われた通りの番組がやっていた。司会者がパネルを持って動物の紹介をしている。
「『では、昆虫博士の、今日の虫はだ~れ?』」
「ええ!?」
さっき昆虫と聞こえた。俺は虫が大の苦手だ。キッチンの黒いヤツの存在を知った後からだ。ヤバイ!しかし、目を閉じる前に、草むらの虫が映し出された。
「ひいいいいいっ」
「ゆうとくーん?どうしたんだ?」
「虫の番組だよー!」
「虫だけじゃないよ。イリオモテヤマネコも出ているよ。こっちにおいで。一緒に食べよう」
早瀬は知っていてわざとテレビを付けさせたのだと思った。彼が笑いを押し殺して震えているからだ。さらにキッチンから声を掛けられた。笑い声まで聞こえてきて腹が立った。やっぱり仲直りをしたくない。テレビ画面から目を逸らしつつ言い返した。
「ううん。後で食べるよ……」
「虫が怖いなら、チャンネルを変えるといいよ」
「ううん。平気。このコーナーが終わったから」
タイミングが良いことに、イリオモテヤマネコの映像が流れ始めた。マーリン先生と呼ばれたオジサンが草原を走っている。そのお腹が揺れている。
カタカタ。食器の音がした。早瀬が食べ始めた気配があった。腹が空いてきたが、しばらく我慢するしかない。カタッ。椅子が引かれる音がした。彼が立ち上り、近くまで来る気配があった。
「悠人君、一緒に食べよう。ごめんね」
「うん!」
早瀬が謝ったから、今度こそは素直に返事が出来た。ダイニングテーブルへ行くと、サラダが用意されていた。それにはハチミツとマスタードを混ぜたドレッシングが掛けられていた。早瀬が作ってくれるドレッシングの中で、一番好きなものだ。
「美味しいよ。これが好きなんだ」
「ピリッと辛くて甘いからね」
「うん!」
まるで早瀬のような味だ。優しくて、俺のことを甘やかす。どんなに駄々をこねても許されている。それなのに、ここぞという時には叱られている。おまけにイジメてくる。朝起きた時に動物番組のことを教えてもらったのは、最初からそのつもりだったろう。
大人と子どもの共存、ハニーマスタードドレッシング。早瀬とドレッシングのことが、ますます好きなった。
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