海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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2-1 未来への交差点付近(早瀬視点)

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 7月6日、金曜日。午前5時。

 俺の名前は早瀨裕理はやせゆうり。会社員をしている。いつもの時間に目が覚めた後、シャワーを浴びてきたところだ。リビングのテーブルに置いていた携帯が鳴った。この時間に連絡してくる相手は決まっている。母親からのラインが入っていた。

(早瀬玲子 5:03 裕理君の今月の予定を教えてちょうだい、か)

 母が予定を聞いてきた理由には察しがついている。今年31歳になる俺に、見合いを勧めてきているからだ。今回もその話だろう。悠人が眠っているから電話をかけた。そして、聞こえて来たのが、普段通りの優しい声だ。ただし上辺だけのものだ。俺が反抗しようものなら、高圧的な声色になる。

「裕理君、おはよう」
「お母さん、おはよう。見合いならしないよ」
「会うだけでもいいのよ。コンラッド株式会社の重役のお嬢様で、あなたと同じ大学出身よ」
「先月も話しただろう?一緒に住んでいる恋人がいる。真剣だ」
「それは承知の上よ。恋愛と結婚は別。別れろとは言わない。千尋製菓、早瀬家の跡取りとしての役目を果たして」
「それは出来ない」

 何度も繰り返している会話だ。母は俺の同性が恋愛対象だと知っているが、跡取り息子としての体裁を整えるように求められている。さらに、母からの言葉が続いた。

「叔父様は75歳になるの。そろそろ引退を考えているわ。それまでに身を固めてちょうだい」
「お父さんがいるだろう」
「あなたに期待しているの。あの人が黒崎グループへの就職を認めたからこうなったのよ」
「その話はいいだろう。お父さんとの話だ。見合いはしない」
 
 珍しく声を荒げて、俺の方から通話を終えた。

 俺が育った早瀬家は『千尋製菓』の創業者一族だ。祖父が会長職を、その弟が代表取締役社長を務めている。父は専務取締役という役員ポストに就いている。ただし、お飾りだと言われている。

 両親は本当の親ではない。母の妹が本当の母親だ。未婚で俺のことを産み、俺が4歳の時に亡くなった。その後、俺は母の姉夫婦の養子となった。それが今の両親だ。俺は早瀬家の跡取り息子として育てられた。父は婿養子で、発言力が弱いと親族の中では言われている。しかし、俺にとっては理解のある優しい人で、大好きな父だ。

 大学卒業後は、千尋製菓グループの取引先企業への就職が予定されていたものの、それを拒否をして、黒崎ホールディングスへ入社した。今の上司である黒崎圭一が社長を務めていた会社だ。早瀬家の名前が通用しないところへ行きたかったためだ。そして、家から出たかった。あれが人生初の反抗だったとは、情けないことだ。
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