海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 ガタガタ……。 

 これから2曲目だ。ブレイクタイムが用意されている。ステージ中央の辺りへと、大きなキーボードが移動された。俺達は肩を叩き合い、次の演奏のスタンバイへ入った。そして、自分の持っていたベースを桜木さんへ渡した。この局では、桜木さんがベースを担当する。俺はキーボードだ。そのキーボードの前に座った。

「そろそろだよ!」
「うん!」

 夏樹がステージの中央に立った。そして、うちわを空へ向けて、振り上げていた。その姿に緊張感が消えて、2曲目に入った。

 司会者からの曲名が紹介されて、すうっと息を吸い込んだ後、キーボードへ触れた。それを合図にして、ベースの音とドラムがリズムを刻みはじめた。
 
 流れるようなイメージで旋律を奏でると、夏樹自身が波に漂う船のように見えた。それを感じながらキーボードに指先でが触れていった。すると、さっきのハードな曲とは違った、中性的で綺麗な歌声が響き渡った。
 
「るるるーーーーー、angel ofーーーー」

 この曲は、一人ぼっちだった自分のことを書いた曲だ。すでに過去になりつつある現実だ。悲しいはずの旋律が、歌声によって優しいものに変化していく。一人ぼっち家で過ごす夜は怖かった。朝が訪れた時にホッとしていた。バンド仲間の家で泊まった夜も同じだった。今は夜中に目が覚めると、すぐ近くで早瀬が寝息を立てている。安心して目を閉じると、今度は美味しそうな匂いで目を覚ましている。

 一人ぼっちじゃなかったら、その温かさに気づかなかったかもしれない。当たり前のことだと思って、すぐに手放していたかもしれない。大切だったと気づいた時には、もう遅かっただろう。
 
「……lalala~angel ofーーー」

 まるでステージの前には海が広がっているようだ。照明効果が変化していく。暗い夜空が白み始めて、水面がその色を変えたように見えた。そして、赤に光が昇りはじめて、朝焼けの光が差し込んで来るようになった。さらに歌声に絡みつくように、キーボードで旋律を編んでいった。

「……angel of ironーーーー」

 夏樹の歌声が響き渡り、最後の一音を奏でて指を降ろした。そして、一瞬の静寂の後、大歓声に迎えられた。大きな拍手に包まれて、胸がいっぱいになった。
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