アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
47 / 283

6-4(夏樹視点)

しおりを挟む
 11時。

 お義父さんが淹れた珈琲のお代わりを飲みながら、よく似た外見をしている二人を眺めた。食べているのはロールケーキだ。これはお義父さんからのお土産で、お茶を飲んだホテルで買ったものだった。クリスマスプレゼントの分は、さっき宅急便で届いた。

 えらく大きな箱だから驚き、さらに開封して声を上げてしまった。まんべんなく焼き菓子が詰まっていたからだ。いろんな店で選んだそうだ。どれも日持ちがするし、飽きないように種類も多い。お煎餅も入っていた。

 全て自分で買いに行き、それはもう楽しい一日だったと笑っていた。村井さんとお台場でランチを取り、春になったら俺と遊びに行くプランも立てたそうだ。初めて会った時よりも若返った気がする。眉間の深い皺が薄くなったし、目尻も下がって優しい顔になった。

(休みの日だもん。普段はこういう感じなのか。黒崎さんと似ているよ。楽しそうだな……)

 黒崎製菓入社後のことで、2人が話している。最初は距離感を持った話し方をしていたけれど、だんだんと打ち解けてきたようで、軽く言い合いをはじめた。

 黒崎の人事の話だ。現在社長としてトップに立っている人が、新しい会社で役員と部長職を兼任するのは珍しいそうだ。黒崎が謙虚だと噂が広がったことを、早瀬さんから聞いたばかりだ。入社するときは副社長のポストに就き、、数年後に代表取締役社長のコースに乗る。そう思っていたら、黒崎は部長職を選んだ。お義父さんもそうした方がいいと思っていたそうで、父親の顔を立てたのだと、黒崎製菓の社員たちからそう受け取られたそうだ。

 黒崎製菓の上層部の人達が黒崎に対して好意的になったそうだ。彼のことを鼻持ちならない社長だとは思っていないけれど、ここまで謙虚だとは知らなかったそうだ。早瀬さんがそう言っていた。腰を据えてかかると分かるから、信頼されたそうだ。早瀬さんは何でも知っているから不思議だ。お義父さんも信頼しているそうだ。一緒に仕事をしたことがなくても、お義父さんには分かるそうだ。

「圭一、口ごたえをするな」
「なんだと?」
「私に立てつく気か?まだ言えないだろう」
「ホールディングス化したのは俺だぞ?意思決定が迅速に行えるようになっただろうが。事業分けして子会社にすることで……。あんたの指示を手本にした」
「その手腕は認めてやろう。それだけはな」
「あのなあ……」
「レストラン事業、ケータリング。子会社化したメリットは大きい。細かい仕事をしているそうだな?人に任せられる度量が足りない」
「ああ……」
「気持ちは分かる。私もそうだった」

 黒崎がため息をつくと、お義父さんが優しく彼の背中を叩いた。さっきまで眉間に皺を寄せていた親子が、同じように表情を和らげた。それを見ているだけでも、心が温かくなった。

「レストラン事業は営業企画部だ。実質的な経営は任せるが、それだけではないぞ。本当にいいのか?最終の答えを出せ」
「やるに決まっている」
「分かった。お前が認められた後、晴れて引退が出来る。私のことを会社から追い出せ」
「3年後に海外移住させてやる」
「……楽しみだ。私の力など微力なものだ。そう気負わなくてもいい」
「お父さん……」
「黒崎製菓へ入社する意思を固めてくれてありがとう。うちの近所で新居を探しているそうだな?」
「何のことだ?」
「素直じゃない子だ」
「あんたに言われたくない」
「圭一、私の元へ帰ってくれてありがとう」
「お父さん……」

 黒崎が言葉を失った。お義父さんの肩が小さく震えたからだ。泣いているところは見られたくないと思う。アンを抱き上げて、さり気なくリビングから出た。寂しかった父親としての涙を見てもいいのは、黒崎だけだと思うからだ。

 2人の関係は、絡み合った紐のように見える。今は丁寧に解いているところだ。その後は真っ直ぐに伸ばす作業だ。すれ違いから生まれた誤解を解いて軌道修正し、靴紐を通して結びなおす。

 完成するまで、何年かかるのかは分からない。それでもいいから、お節介を続けることに決めている。たとえ黒崎達から嫌がられたとしても。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」 大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。 しかも、現役大学生である。 「え、あの子で大丈夫なんか……?」 幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。 ――誰もが気づかないうちに。 専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。 「命に代えても、お守りします」 そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。 そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める―― 「僕、舐められるの得意やねん」 敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。 その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。 それは忠誠か、それとも―― そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。 「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」 最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。 極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。 これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※この物語はフィクションです。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

【完結】君を知らないまま、恋をした

一ノ瀬麻紀
BL
体調を崩し入院した篠宮真白(しのみやましろ)は、制限のある生活を送ることになった。 そんな中、真白は自由に走り回れるもう一つの世界を知る。 そこで過ごす時間は、思うように動けなかった真白にとって、大切なものだった。 仮想空間での出会いや経験を通して、真白の世界は少しずつ広がっていく。 そして真白が本当の気持ちに気づいた時、すべてが繋がり始める――。 ※ タイトル及びあらすじ変更しました。(2/10)

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...