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20階に到着した。緊張しなくて構わないと黒崎から言われて促されるまま、オフィスへ入った。広いフロア内には沢山のデスクが並んでいた。パソコンに向かって会話をしたり、電話をしたりしていた。
出入り口のそばには、カフェスペースがあった。新しく作られたばかりだということだ。ファミレスのようなドリンクバーの機械が並んでいた。その中にいる人同士が会話をしている。疲れた顔をしているが、笑っていた。
「どうした?」
「入口に『役員室』って出ていたよね?社長室みたいに、個室かと思っていたんだ。奥に部屋があるの?」
「いいや。このフロアにある。そこだ」
黒崎が指した方向には、ガラスの衝立で仕切られたデスクが並んでいた。確かに違う雰囲気だ。全体よりも落ち着いている。
「個室をやめさせた。入社する直前だ」
「そうなんだ。偉い人が仕事をしていますって感じだったの?」
「そうだった。エグゼクティブデスクに、深々としたソファーがあった。社員の足が遠のくし、大事な情報が届くのが遅くなる」
入社する時に提案したものだそうだ。黒崎ホールディングスでは、社長室と会議室にしか入ったことがないから、役員室がどういうものかは想像でしかない。
(わあ、注目を浴びてる。それはそうだよね……)
緊張して俯いていると、笑顔が向けられていることに気づいた。近くにいた人や、遠くの方の人が笑っている。いらっしゃい。そう声をかけられているようだ。
「黒崎さん……」
「どうした?」
「みんなが笑っているよ。どこか変?」
「お前が可愛いからだろう。どうするのか教えただろう?」
「あ、そうだった」
教えられたことを思い出した。控えめに笑って軽く頭を下げた。こんにちはと。クスクスと笑い声を立てられたから、ますます恥ずかしくなった。歓迎されていることは分かる。手を振ってくれる人がいるからだ。
「黒崎さん……」
「手を振り返せ」
「うんっ」
緊張のあまり、ブンブンと大きく手を振った。すると、ドッと笑いが起きてしまった。どうしていいのか分からない。役員室デスクに行って、隠れてしまいたいと思った。
「早く行きたい。恥ずかしいんだ」
「隠れる場所はないぞ?俺の席はオープンだ。他の役員もそうだがな」
「え?」
その言葉通り、どこにも隠れる場所はなかった。ゆったりとしたスペースには、移動可能なホワイトボードが置かれている。デスクの前には、椅子が置いてある。ここへ来た人が座るために。
「もっと豪華かと思っていたよ」
「黒崎ホールディングスの社長室も、シンプルだっただろう?」
「うん。ここよりは豪華だったけど」
「社長室だからな。招き入れる相手を思ってのことだ。ここは必要ない。俺は役員の一人だ。……少し待っていてくれ」
こっちへ社員さんが歩いて来た。その後ろからも、書類を持った人がいる。ただ静かにして、ドキドキしながら待った。
「常務。この間のアイデアですが……」
「14時に会議が終わる。その時に声を掛ける……」
「ありがとうございます……」
短い会話の後、足早に立ち去った。他にも同じように役員室へ来ては。短い会話と時間の約束をして立ち去った。社長室のように応接セットがないから、どこに居ればいいのか分からない。
「黒崎さん。どこで待っていたらいい?ここは邪魔だよね?」
「邪魔じゃない。お前を見に来たんだ。おかげで社員が寄り付いてくれて助かった」
黒崎が意地悪そうに笑った後、デスクの奥の椅子を移動した。それを、黒崎が座る椅子の隣に置いた。
「ここに座っていろ」
「ええ?ここで?」
「ここしかない。デザートのアイデアが欲しい。いくつか描いてくれ」
「うん。描くよ」
やることがあって良かった。スケッチブックを広げると、黒崎が描いた絵を見つけた。デザート皿に盛りつけられたケーキだ。日付を見ると一年前であり、レストランの内装がラフに描かれていた。
さっそく、次の頁へ描き始めた。手作りのマフィンと、シフォンケーキだ。ペーパーナプキンの上に置いている。お洒落ではないし、豪華でもない。そう目を引かないと思うが、あえてこれを描いた。
「えらくシンプルだな?」
「たまには、こういうものいいかなって。お店で買って来て、家で食べる感じで描いてみたよ。でもなー、お店で出すなら工夫が要るよね。うーん。ペーパーナプキンを凝ったものにすればいいのか」
アイデアが浮かんできた。レース編みをイメージして模様を付けたしていると、黒崎が覗き込んできた。
「上手いじゃないか。このレース模様を探したい。スケッチブックを借りてもいいか?」
黒崎がデスクの電話をかけ始めた。その後、向こうから来た男性社員へ、スケッチブックを渡した。なんと、俺が描いた絵を参考にするらしい。
出入り口のそばには、カフェスペースがあった。新しく作られたばかりだということだ。ファミレスのようなドリンクバーの機械が並んでいた。その中にいる人同士が会話をしている。疲れた顔をしているが、笑っていた。
「どうした?」
「入口に『役員室』って出ていたよね?社長室みたいに、個室かと思っていたんだ。奥に部屋があるの?」
「いいや。このフロアにある。そこだ」
黒崎が指した方向には、ガラスの衝立で仕切られたデスクが並んでいた。確かに違う雰囲気だ。全体よりも落ち着いている。
「個室をやめさせた。入社する直前だ」
「そうなんだ。偉い人が仕事をしていますって感じだったの?」
「そうだった。エグゼクティブデスクに、深々としたソファーがあった。社員の足が遠のくし、大事な情報が届くのが遅くなる」
入社する時に提案したものだそうだ。黒崎ホールディングスでは、社長室と会議室にしか入ったことがないから、役員室がどういうものかは想像でしかない。
(わあ、注目を浴びてる。それはそうだよね……)
緊張して俯いていると、笑顔が向けられていることに気づいた。近くにいた人や、遠くの方の人が笑っている。いらっしゃい。そう声をかけられているようだ。
「黒崎さん……」
「どうした?」
「みんなが笑っているよ。どこか変?」
「お前が可愛いからだろう。どうするのか教えただろう?」
「あ、そうだった」
教えられたことを思い出した。控えめに笑って軽く頭を下げた。こんにちはと。クスクスと笑い声を立てられたから、ますます恥ずかしくなった。歓迎されていることは分かる。手を振ってくれる人がいるからだ。
「黒崎さん……」
「手を振り返せ」
「うんっ」
緊張のあまり、ブンブンと大きく手を振った。すると、ドッと笑いが起きてしまった。どうしていいのか分からない。役員室デスクに行って、隠れてしまいたいと思った。
「早く行きたい。恥ずかしいんだ」
「隠れる場所はないぞ?俺の席はオープンだ。他の役員もそうだがな」
「え?」
その言葉通り、どこにも隠れる場所はなかった。ゆったりとしたスペースには、移動可能なホワイトボードが置かれている。デスクの前には、椅子が置いてある。ここへ来た人が座るために。
「もっと豪華かと思っていたよ」
「黒崎ホールディングスの社長室も、シンプルだっただろう?」
「うん。ここよりは豪華だったけど」
「社長室だからな。招き入れる相手を思ってのことだ。ここは必要ない。俺は役員の一人だ。……少し待っていてくれ」
こっちへ社員さんが歩いて来た。その後ろからも、書類を持った人がいる。ただ静かにして、ドキドキしながら待った。
「常務。この間のアイデアですが……」
「14時に会議が終わる。その時に声を掛ける……」
「ありがとうございます……」
短い会話の後、足早に立ち去った。他にも同じように役員室へ来ては。短い会話と時間の約束をして立ち去った。社長室のように応接セットがないから、どこに居ればいいのか分からない。
「黒崎さん。どこで待っていたらいい?ここは邪魔だよね?」
「邪魔じゃない。お前を見に来たんだ。おかげで社員が寄り付いてくれて助かった」
黒崎が意地悪そうに笑った後、デスクの奥の椅子を移動した。それを、黒崎が座る椅子の隣に置いた。
「ここに座っていろ」
「ええ?ここで?」
「ここしかない。デザートのアイデアが欲しい。いくつか描いてくれ」
「うん。描くよ」
やることがあって良かった。スケッチブックを広げると、黒崎が描いた絵を見つけた。デザート皿に盛りつけられたケーキだ。日付を見ると一年前であり、レストランの内装がラフに描かれていた。
さっそく、次の頁へ描き始めた。手作りのマフィンと、シフォンケーキだ。ペーパーナプキンの上に置いている。お洒落ではないし、豪華でもない。そう目を引かないと思うが、あえてこれを描いた。
「えらくシンプルだな?」
「たまには、こういうものいいかなって。お店で買って来て、家で食べる感じで描いてみたよ。でもなー、お店で出すなら工夫が要るよね。うーん。ペーパーナプキンを凝ったものにすればいいのか」
アイデアが浮かんできた。レース編みをイメージして模様を付けたしていると、黒崎が覗き込んできた。
「上手いじゃないか。このレース模様を探したい。スケッチブックを借りてもいいか?」
黒崎がデスクの電話をかけ始めた。その後、向こうから来た男性社員へ、スケッチブックを渡した。なんと、俺が描いた絵を参考にするらしい。
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