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翌日。私は、一ミリの無駄もない漆黒のドレスに身を包み、再び王宮の門を叩いた。
手には、昨夜一睡もせずにまとめ上げた「損害賠償請求書(暫定版)」を携えている。
応接室で待っていると、第一王子クロードが、ルルナの手を引いて現れた。
彼の顔には「やはり縋りに来たか」と言わんばかりの、浅ましい余裕が浮かんでいる。
「ふん、ウリエル。昨日の今日で、もう謝罪に来たのか? だが無駄だ。一度切れた縁は、金貨をいくら積んでも……」
「殿下、お言葉ですが、金を積むのは私のほうではなく殿下のほうですわ」
私は優雅に、かつ迅速に、分厚い書類をテーブルに叩きつけた。
「ドンッ」という、重い紙束が放つ鈍い音が部屋に響く。
「……なんだ、この紙の山は」
「『婚約期間における立替金および精神的苦痛に対する慰謝料請求書』ですわ。あ、こちらはルルナ様用の『不当利得返還請求書』も同封しております。後で読んでおいてくださいませ」
「ふ、ふとうりとく……?」
ルルナが首を傾げる。
私はため息をつき、極めて事務的に説明を始めた。
「簡単に言えば、殿下が私の家の金で貴女に買い与えたプレゼントを、今すぐ現金化して返せと言っているのです。中古品ですので、時価での換算ですが……それでも三千万ゴールドは下りませんわね」
「さ、三千万!? そんなのお支払いできるわけありませんわ!」
「おや、愛があればお金なんて関係ないのでしょう? ならば、その愛を担保に借金でもしてきてはいかがかしら。利息制限法ギリギリのラインで、私の知り合いの金貸しを紹介して差し上げてもよろしくてよ?」
「ウリエル! 貴様、ここまで卑しくなるとは! 私は王子だぞ、この私を誰だと思っている!」
クロード殿下が机を叩いて立ち上がる。
私は動じず、手帳のページを捲った。
「誰だと思っているか、ですって? ……そうですね。私の目には、歩く『赤字垂れ流し機』に見えますわ」
「な……赤字垂れ流し機だと!?」
「左様でございます。殿下がこの三年間で浪費した公金と、私の実家からの援助金の総額。それに見合うだけの国益を、殿下は何か一つでも生み出しましたか? 昨日の夜会だって、ただの自己満足。その予算があれば、辺境の灌漑施設が三箇所は造れましたわ」
私は冷徹に、数字という名の刃を突きつける。
殿下の顔が、今度は怒りではなく、理解が追いつかないことへの混乱で引き攣り始めた。
「愛だの真実だのと美しい言葉で飾り立てても、結局のところ、殿下がなさっているのはただの『資産の毀損』です。そんな不採算部門(婚約者)を切り離すことができて、私はいま、人生で一番清々しい気分なんですの」
「き、切り離す……。私を、不採算部門と言ったのか……!」
「はい。しかも、極めて質の悪いタイプの」
私は書類の最後に、大きな文字で書かれた「合計金額」を指し示した。
「殿下、こちらの金額をお支払いいただければ、今すぐ私はこの王都を去り、領地へ引きこもります。これ以上の追及もしません。……いかがですか? ルルナ様との愛の生活を邪魔する『冷徹な女』を追い払うための、必要経費(コスト)だと思えばお安いでしょう?」
「……っ。……分かった。払えばいいのだろう、払えば!」
クロード殿下は、震える手でサイン用のペンを握った。
ルルナが「殿下、そんな……!」と縋り付くが、彼はもはや、私の正論という名の暴力から逃れたい一心で、書類に名前を書き殴った。
「決済、完了ですわね。ありがとうございます」
私は、まだインクの乾いていない書類を鮮やかに回収し、胸元に抱えた。
「それでは殿下、ルルナ様。お二人の前途が、多額の負債と共にあらんことを。あ、王宮の出口までの灯りも電気代の無駄ですので、消していただいて結構ですわ。私、暗闇でも数字の計算はできますので」
私は最高の微笑みを浮かべ、応接室を後にした。
廊下に出た瞬間、私は拳を握りしめた。
「……勝った。これで、領地の再建資金が……当初の予算の三倍確保できたわ!」
私の目には、王宮の重厚な壁がすべて、積み上げられた金貨の山に見えていた。
愛などという、明日には蒸発しているかもしれない不確かなものに投資するほど、私は愚かではないのだ。
「さて、次は実家のリストラの続きですわね。お父様の隠しヘソクリの場所は、すでに特定済みです」
私は軽快な足取りで、馬車へと向かった。
これから始まる「追及」という名の、楽しい領地改革の日々を思い浮かべながら。
手には、昨夜一睡もせずにまとめ上げた「損害賠償請求書(暫定版)」を携えている。
応接室で待っていると、第一王子クロードが、ルルナの手を引いて現れた。
彼の顔には「やはり縋りに来たか」と言わんばかりの、浅ましい余裕が浮かんでいる。
「ふん、ウリエル。昨日の今日で、もう謝罪に来たのか? だが無駄だ。一度切れた縁は、金貨をいくら積んでも……」
「殿下、お言葉ですが、金を積むのは私のほうではなく殿下のほうですわ」
私は優雅に、かつ迅速に、分厚い書類をテーブルに叩きつけた。
「ドンッ」という、重い紙束が放つ鈍い音が部屋に響く。
「……なんだ、この紙の山は」
「『婚約期間における立替金および精神的苦痛に対する慰謝料請求書』ですわ。あ、こちらはルルナ様用の『不当利得返還請求書』も同封しております。後で読んでおいてくださいませ」
「ふ、ふとうりとく……?」
ルルナが首を傾げる。
私はため息をつき、極めて事務的に説明を始めた。
「簡単に言えば、殿下が私の家の金で貴女に買い与えたプレゼントを、今すぐ現金化して返せと言っているのです。中古品ですので、時価での換算ですが……それでも三千万ゴールドは下りませんわね」
「さ、三千万!? そんなのお支払いできるわけありませんわ!」
「おや、愛があればお金なんて関係ないのでしょう? ならば、その愛を担保に借金でもしてきてはいかがかしら。利息制限法ギリギリのラインで、私の知り合いの金貸しを紹介して差し上げてもよろしくてよ?」
「ウリエル! 貴様、ここまで卑しくなるとは! 私は王子だぞ、この私を誰だと思っている!」
クロード殿下が机を叩いて立ち上がる。
私は動じず、手帳のページを捲った。
「誰だと思っているか、ですって? ……そうですね。私の目には、歩く『赤字垂れ流し機』に見えますわ」
「な……赤字垂れ流し機だと!?」
「左様でございます。殿下がこの三年間で浪費した公金と、私の実家からの援助金の総額。それに見合うだけの国益を、殿下は何か一つでも生み出しましたか? 昨日の夜会だって、ただの自己満足。その予算があれば、辺境の灌漑施設が三箇所は造れましたわ」
私は冷徹に、数字という名の刃を突きつける。
殿下の顔が、今度は怒りではなく、理解が追いつかないことへの混乱で引き攣り始めた。
「愛だの真実だのと美しい言葉で飾り立てても、結局のところ、殿下がなさっているのはただの『資産の毀損』です。そんな不採算部門(婚約者)を切り離すことができて、私はいま、人生で一番清々しい気分なんですの」
「き、切り離す……。私を、不採算部門と言ったのか……!」
「はい。しかも、極めて質の悪いタイプの」
私は書類の最後に、大きな文字で書かれた「合計金額」を指し示した。
「殿下、こちらの金額をお支払いいただければ、今すぐ私はこの王都を去り、領地へ引きこもります。これ以上の追及もしません。……いかがですか? ルルナ様との愛の生活を邪魔する『冷徹な女』を追い払うための、必要経費(コスト)だと思えばお安いでしょう?」
「……っ。……分かった。払えばいいのだろう、払えば!」
クロード殿下は、震える手でサイン用のペンを握った。
ルルナが「殿下、そんな……!」と縋り付くが、彼はもはや、私の正論という名の暴力から逃れたい一心で、書類に名前を書き殴った。
「決済、完了ですわね。ありがとうございます」
私は、まだインクの乾いていない書類を鮮やかに回収し、胸元に抱えた。
「それでは殿下、ルルナ様。お二人の前途が、多額の負債と共にあらんことを。あ、王宮の出口までの灯りも電気代の無駄ですので、消していただいて結構ですわ。私、暗闇でも数字の計算はできますので」
私は最高の微笑みを浮かべ、応接室を後にした。
廊下に出た瞬間、私は拳を握りしめた。
「……勝った。これで、領地の再建資金が……当初の予算の三倍確保できたわ!」
私の目には、王宮の重厚な壁がすべて、積み上げられた金貨の山に見えていた。
愛などという、明日には蒸発しているかもしれない不確かなものに投資するほど、私は愚かではないのだ。
「さて、次は実家のリストラの続きですわね。お父様の隠しヘソクリの場所は、すでに特定済みです」
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