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「……カシアン様。ここは、墓場ですか? それとも、負債の吹き溜まりですの?」
私は、黒鉄城の最下層にある「開かずの倉庫」の重い扉を押し開け、絶句した。
そこには、数十年分はあろうかという埃と、カビの匂い、そして正体不明のガラクタが山積みになっていた。
カシアン様は、松明を掲げながら気まずそうに顔を背けた。
「……歴代の領主が、処分に困ったものをとりあえず放り込んできた場所だ。私の代では、一度も開けたことがなかった」
「信じられませんわ! これだけの空間を『死蔵』させておくなんて、家賃に換算すれば年間でどれほどの損失か……。いいですか、カシアン様。動かない資産は、ただのゴミですわ!」
私は、汚れを防止するためのエプロン(使い古したシーツを改造した節約仕様)を締め直し、気合を入れた。
「セバス、換気のために窓を開けて! お父様は、そこのガラクタを『売れるもの』と『資源ゴミ』に仕分けてください!」
「ウリエル、私にもやるのかい!? この埃で私の繊細な肺が……」
「肺を壊して医療費をかける前に、手を動かしてカロリーを消費なさい! さあ、作業開始ですわ!」
私とカシアン様は、山積みの箱を一つずつ下ろし始めた。
中からは、錆びついた古い儀礼用の剣、色褪せたタペストリー、さらには用途不明の巨大な石像まで出てくる。
「……カシアン様、見てください。このタペストリー、糸に金が使われていますわ。今すぐ潰して地金に戻せば、少なくとも金貨三〇枚にはなります」
「貴様、これを潰すのか? 一応、我が家の歴史が描かれているのだが」
「歴史で腹が膨れますか? 金貨三〇枚あれば、騎士団の馬の飼料を一ヶ月分、最高級のものに変えられますわよ」
「……。潰そう。即座にな」
カシアン様も、私の「利益優先主義」に毒されてきたようで何よりだ。
作業を進めていくうちに、私たちは倉庫の最奥にある、高く積み上げられた木箱の山に行き当たった。
「……? これは何かしら。目録にも載っていませんわね」
私が背伸びをして一番上の箱に手を伸ばすと、その瞬間、足元の古い木箱が「バキッ」と嫌な音を立てて崩れた。
「あ……っ!?」
バランスを崩し、後ろへ倒れそうになる。
私はとっさに、高価な備品(自分の体)が損傷して治療費が発生することを懸念し、目を閉じた。
しかし、痛みは来なかった。
代わりに、硬くて冷たい「鎧の感触」と、カシアン様の力強い腕が私の腰を支えた。
「……危ないと言っただろう、ウリエル」
耳元で、カシアン様の低い声が響く。
目を開けると、そこには至近距離で私を見つめる彼の蒼い瞳があった。
埃が舞う暗い倉庫の中で、松明の炎に照らされた彼の顔は、不覚にも「資産価値が極めて高い」美形だった。
「……。カシアン様。お怪我はありませんか?」
「私の心配より自分の心配をしろ。……貴様に怪我をされたら、私の領地の黒字化が遠のくからな」
「あら……。それは、随分と現金な心配ですわね」
私は少しだけ鼓動が速くなるのを感じたが、それを「急激な運動による心拍数の上昇=エネルギー効率の低下」と脳内で処理した。
だが、彼の手はなかなか私の腰から離れない。
「……ウリエル。貴様の顔、煤がついているぞ」
カシアン様が、空いた手で私の頬をそっと拭った。
無骨な騎士の手が、驚くほど優しく肌に触れる。
「……。拭うための布を消費するのはもったいないですわ、カシアン様。指で十分です」
「……。貴様は、こういう時まで節約の話か」
カシアン様は呆れたように笑い、ゆっくりと私を立たせた。
二人の間に、何とも言えない沈黙が流れる。
カビ臭いはずの倉庫の空気が、なぜか少しだけ甘く感じられた。
「……ゴホン! お嬢様、カシアン様。こちらに興味深いものが見つかりましたよ」
セバスの空気を読んだ(読みすぎた)声が響き、私たちは慌てて距離を取った。
セバスが指差したのは、崩れた木箱の中から現れた、大量の「瓶」だった。
「これは……酒か?」
カシアン様が一本取り出し、埃を拭う。
「いえ、これは……。カシアン様、見てください! このラベル、三十年前の『幻の蜂蜜酒』ではありませんか! 王都のオークションに出せば、一本で家が一軒建つと言われている……!」
私の目は、今や金貨の形に輝いていた。
「……。在庫整理で見つかった『隠し資産』。素晴らしいわ……! これで、領地の道路舗装が一気に進みますわよ!」
「……。ウリエル。貴様、さっきまで私の腕の中にいた時より、酒瓶を見ている時の方が嬉しそうだな」
「当然ですわ! 愛は目減りしますが、ヴィンテージ酒は寝かせれば寝かせるほど価値が上がりますもの!」
「……。つくづく、可愛げのない女だ」
カシアン様はため息をついたが、その口元はどこか満足げに緩んでいた。
「初めての共同作業」は、ロマンスの欠片もない「棚卸し」に終わったが、私たちの前には、輝かしい黒字の山が積み上がっていた。
「さあ、カシアン様! 一本残らず運び出しますわよ! 一滴も漏らしてはなりません、それは液体の金貨なのですから!」
「分かった、分かった。……。おい、そこの兵士たち! これは国の宝だ、慎重に運べ!」
埃まみれの地下倉庫に、私たちの活気ある声が響き渡る。
私の胸の奥で、少しだけ「在庫」以外の何かが増えたような気がしたが……まあ、それは収支報告書には載らない誤差のようなものだろう。たぶん。
私は、黒鉄城の最下層にある「開かずの倉庫」の重い扉を押し開け、絶句した。
そこには、数十年分はあろうかという埃と、カビの匂い、そして正体不明のガラクタが山積みになっていた。
カシアン様は、松明を掲げながら気まずそうに顔を背けた。
「……歴代の領主が、処分に困ったものをとりあえず放り込んできた場所だ。私の代では、一度も開けたことがなかった」
「信じられませんわ! これだけの空間を『死蔵』させておくなんて、家賃に換算すれば年間でどれほどの損失か……。いいですか、カシアン様。動かない資産は、ただのゴミですわ!」
私は、汚れを防止するためのエプロン(使い古したシーツを改造した節約仕様)を締め直し、気合を入れた。
「セバス、換気のために窓を開けて! お父様は、そこのガラクタを『売れるもの』と『資源ゴミ』に仕分けてください!」
「ウリエル、私にもやるのかい!? この埃で私の繊細な肺が……」
「肺を壊して医療費をかける前に、手を動かしてカロリーを消費なさい! さあ、作業開始ですわ!」
私とカシアン様は、山積みの箱を一つずつ下ろし始めた。
中からは、錆びついた古い儀礼用の剣、色褪せたタペストリー、さらには用途不明の巨大な石像まで出てくる。
「……カシアン様、見てください。このタペストリー、糸に金が使われていますわ。今すぐ潰して地金に戻せば、少なくとも金貨三〇枚にはなります」
「貴様、これを潰すのか? 一応、我が家の歴史が描かれているのだが」
「歴史で腹が膨れますか? 金貨三〇枚あれば、騎士団の馬の飼料を一ヶ月分、最高級のものに変えられますわよ」
「……。潰そう。即座にな」
カシアン様も、私の「利益優先主義」に毒されてきたようで何よりだ。
作業を進めていくうちに、私たちは倉庫の最奥にある、高く積み上げられた木箱の山に行き当たった。
「……? これは何かしら。目録にも載っていませんわね」
私が背伸びをして一番上の箱に手を伸ばすと、その瞬間、足元の古い木箱が「バキッ」と嫌な音を立てて崩れた。
「あ……っ!?」
バランスを崩し、後ろへ倒れそうになる。
私はとっさに、高価な備品(自分の体)が損傷して治療費が発生することを懸念し、目を閉じた。
しかし、痛みは来なかった。
代わりに、硬くて冷たい「鎧の感触」と、カシアン様の力強い腕が私の腰を支えた。
「……危ないと言っただろう、ウリエル」
耳元で、カシアン様の低い声が響く。
目を開けると、そこには至近距離で私を見つめる彼の蒼い瞳があった。
埃が舞う暗い倉庫の中で、松明の炎に照らされた彼の顔は、不覚にも「資産価値が極めて高い」美形だった。
「……。カシアン様。お怪我はありませんか?」
「私の心配より自分の心配をしろ。……貴様に怪我をされたら、私の領地の黒字化が遠のくからな」
「あら……。それは、随分と現金な心配ですわね」
私は少しだけ鼓動が速くなるのを感じたが、それを「急激な運動による心拍数の上昇=エネルギー効率の低下」と脳内で処理した。
だが、彼の手はなかなか私の腰から離れない。
「……ウリエル。貴様の顔、煤がついているぞ」
カシアン様が、空いた手で私の頬をそっと拭った。
無骨な騎士の手が、驚くほど優しく肌に触れる。
「……。拭うための布を消費するのはもったいないですわ、カシアン様。指で十分です」
「……。貴様は、こういう時まで節約の話か」
カシアン様は呆れたように笑い、ゆっくりと私を立たせた。
二人の間に、何とも言えない沈黙が流れる。
カビ臭いはずの倉庫の空気が、なぜか少しだけ甘く感じられた。
「……ゴホン! お嬢様、カシアン様。こちらに興味深いものが見つかりましたよ」
セバスの空気を読んだ(読みすぎた)声が響き、私たちは慌てて距離を取った。
セバスが指差したのは、崩れた木箱の中から現れた、大量の「瓶」だった。
「これは……酒か?」
カシアン様が一本取り出し、埃を拭う。
「いえ、これは……。カシアン様、見てください! このラベル、三十年前の『幻の蜂蜜酒』ではありませんか! 王都のオークションに出せば、一本で家が一軒建つと言われている……!」
私の目は、今や金貨の形に輝いていた。
「……。在庫整理で見つかった『隠し資産』。素晴らしいわ……! これで、領地の道路舗装が一気に進みますわよ!」
「……。ウリエル。貴様、さっきまで私の腕の中にいた時より、酒瓶を見ている時の方が嬉しそうだな」
「当然ですわ! 愛は目減りしますが、ヴィンテージ酒は寝かせれば寝かせるほど価値が上がりますもの!」
「……。つくづく、可愛げのない女だ」
カシアン様はため息をついたが、その口元はどこか満足げに緩んでいた。
「初めての共同作業」は、ロマンスの欠片もない「棚卸し」に終わったが、私たちの前には、輝かしい黒字の山が積み上がっていた。
「さあ、カシアン様! 一本残らず運び出しますわよ! 一滴も漏らしてはなりません、それは液体の金貨なのですから!」
「分かった、分かった。……。おい、そこの兵士たち! これは国の宝だ、慎重に運べ!」
埃まみれの地下倉庫に、私たちの活気ある声が響き渡る。
私の胸の奥で、少しだけ「在庫」以外の何かが増えたような気がしたが……まあ、それは収支報告書には載らない誤差のようなものだろう。たぶん。
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